ヘテロ三量体Gタンパク質とは? わかりやすく解説

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ヘテロ三量体Gタンパク質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/18 10:10 UTC 版)

Heterotrimeric G-protein GTPase
識別子
EC番号 3.6.5.1
CAS登録番号 9059-32-9
データベース
IntEnz IntEnz view
BRENDA BRENDA entry
ExPASy NiceZyme view
KEGG KEGG entry
MetaCyc metabolic pathway
PRIAM profile
PDB構造 RCSB PDB PDBj PDBe PDBsum
遺伝子オントロジー AmiGO / QuickGO
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ヘテロ三量体Gタンパク質が脂質アンカーとともに描かれている。GDPは黒、αサブユニットは黄色、βγサブユニットは青で示されている。
ヘテロ三量体型Gタンパク質の立体構造

ヘテロ三量体Gタンパク質(ヘテロさんりょうたいGタンパクしつ、: heterotrimeric G protein)は、ヘテロ三量体型複合体を形成する膜結合型Gタンパク質であり、単量体の低分子量GTPアーゼとの対比で"large G protein"と呼ばれることもある。ヘテロ三量体Gタンパク質と単量体Gタンパク質との最大の差異は、ヘテロ三量体タンパク質はGタンパク質共役受容体(GPCR)と呼ばれる細胞表面受容体に直接結合することである。これらのGタンパク質は、α、β、γのサブユニットから構成される[1]。αサブユニットはGTPGDPのいずれかを結合しており、Gタンパク質の活性化のオン・オフのスイッチとして機能する。

リガンドがGPCRに結合すると、GPCRはグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)としての能力を獲得し、Gタンパク質αサブユニットに結合したGDPをGTPへ交換することでGタンパク質を活性化する。αサブユニットへのGTPの結合によって構造変化が引き起こされ、Gタンパク質の残りの部分からの解離が引き起こされる。一般的に、αサブユニットは下流のシグナル伝達カスケードの膜結合型エフェクタータンパク質に結合するが、βγ複合体もこうした機能を果たす。Gタンパク質はcAMP/PKA経路、イオンチャネルMAPKPI3Kを介した経路などに関与している。

このようなGタンパク質には、Gi/oGqGsG12/13という4つの主要なクラスが存在する[2]

αサブユニット

Gタンパク質共役受容体活性化経路におけるGタンパク質の役割

1980年代初頭に行われた再構成実験では、精製されたGαサブユニットが直接エフェクター酵素を活性化することが示された。GTP結合型のトランスデューシン英語版(Gt)αサブユニットは網膜桿体の外節のcGMPホスホジエステラーゼを活性化し[3]、GTP結合型のGsタンパク質αサブユニットはホルモン感受性アデニル酸シクラーゼを活性化する[4][5]。同じ組織に複数のタイプのGタンパク質が共在することもあり、例えば脂肪組織では、アデニル酸シクラーゼを活性化または阻害するために、交換可能なβγ複合体を持つ2種類の異なるGタンパク質が利用される。刺激ホルモンの受容体によって活性化されたGsタンパク質のαサブユニットはアデニル酸シクラーゼを活性化し、アデニル酸シクラーゼによってcAMPが産生されて下流のシグナル伝達カスケードに利用される。一方、抑制ホルモンの受容体によって活性化されたGiタンパク質のαサブユニットはアデニル酸シクラーゼを阻害し、下流のシグナル伝達カスケードが遮断される。

Gαサブユニットは、GTPアーゼドメインとαヘリカルドメインの2つのドメインから構成される。

Gαサブユニットは少なくとも20種類存在し、配列相同性に基づいて4つの主要なグループへ分類される[6]

ファミリー αサブユニット 遺伝子 シグナル伝達 利用する受容体 (例) 影響 (例)
Giファミリー (InterPro英語版IPR001408)
Gi/o αi, αo GNAO1英語版, GNAI1英語版, GNAI2英語版, GNAI3英語版 アデニル酸シクラーゼの阻害、K+チャネルの開口(β/γサブユニットを介して)、Ca2+チャネルの閉口 ムスカリン性アセチルコリン受容体英語版 M2英語版M4英語版[7]ケモカイン受容体英語版α2アドレナリン受容体英語版セロトニン受容体 5-HT1英語版ヒスタミン受容体 H3英語版H4英語版、D2ドーパミン受容体カンナビノイド受容体英語版 CB2英語版[8] 平滑筋収縮、神経活動の抑制、白血球からのインターロイキンの分泌[8]
Gt αt (トランスデューシン英語版) GNAT1英語版, GNAT2英語版 PDE6英語版(ホスホジエステラーゼ6)の活性化 ロドプシン 視覚
Ggust αgust (ガストデューシン英語版) GNAT3英語版 PDE6の活性化 味覚受容体英語版 味覚
Gz αz GNAZ英語版 アデニル酸シクラーゼの阻害 蝸牛内リンパ液と外リンパ液の電解質バランスの維持
Gsファミリー (InterPro英語版IPR000367)
Gs αs GNAS英語版 アデニル酸シクラーゼの活性化 βアドレナリン受容体セロトニン受容体 5-HT4英語版5-HT6英語版5-HT7英語版、D1様ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体 H2英語版、 カンナビノイド受容体 CB2[8] 心拍の増加、平滑筋の弛緩、神経活動の刺激、白血球からのインターロイキンの分泌[8]
Golf αolf GNAL英語版 アデニル酸シクラーゼの活性化 嗅覚受容体 嗅覚
Gqファミリー (InterPro英語版IPR000654)
Gq αq, α11, α14, α15, α16 GNAQ英語版, GNA11英語版, GNA14英語版, GNA15英語版 ホスホリパーゼCの活性化 α1アドレナリン受容体英語版、ムスカリン性アセチルコリン受容体 M1英語版M3英語版M5英語版[7]、ヒスタミン受容体 H1英語版、セロトニン受容体 5-HT2英語版 平滑筋収縮、Ca2+の流入
G12/13ファミリー (InterPro英語版IPR000469)
G12/13 α12, α13 GNA12英語版, GNA13英語版 RhoファミリーGTPアーゼの活性化 細胞骨格機能、平滑筋収縮

Gβγ複合体

βサブユニットとγサブユニットは互いに密接に結合しており、Gβγ複合体と呼ばれる。βサブユニットとγサブユニットの双方にさまざまなアイソフォームが存在し、いくつかの組み合わせで二量体が形成されるが、他の組み合わせでは形成されない。例えば、β1はγ1、γ2の双方と結合するが、β3はどちらとも結合しない[9]。GPCRの活性化に伴って、Gβγ複合体はGαサブユニットのGDP-GTP交換後に放出される。

機能

遊離したGβγ複合体はそれ自身がシグナル伝達分子として作用し、他のセカンドメッセンジャーを活性化したり、イオンチャネルを直接開閉したりする。

例えば、ヒスタミン受容体に結合していたGβγ複合体はホスホリパーゼA2を活性化する。一方、ムスカリン性アセチルコリン受容体に結合していたGβγ複合体はGタンパク質共役内向き整流カリウムチャネル英語版(GIRK)を直接開口する[10]アセチルコリンが細胞外リガンドである場合、心臓細胞は正常に過分極して心筋の収縮を低下させる。ムスカリンのような物質がリガンドとして作用すると、危険なレベルの過分極によって幻覚が引き起こされる。このよに、Gβγが正しく機能することは我々の生理的な健康に重要である。他の機能としては、H3受容体の薬理作用としてみられるように、L型カルシウムチャネル英語版の活性化がある。

出典

  1. ^ “Genomic characterization of the human heterotrimeric G protein alpha, beta, and gamma subunit genes”. DNA Research 7 (2): 111–20. (April 2000). doi:10.1093/dnares/7.2.111. PMID 10819326. 
  2. ^ Nature Reviews Drug Discovery GPCR Questionnaire Participants (July 2004). “The state of GPCR research in 2004”. Nature Reviews. Drug Discovery 3 (7): 575, 577–626. doi:10.1038/nrd1458. PMID 15272499. 
  3. ^ “Flow of information in the light-triggered cyclic nucleotide cascade of vision”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 78 (1): 152–6. (January 1981). doi:10.1073/pnas.78.1.152. PMC 319009. PMID 6264430. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC319009/. 
  4. ^ “Reconstitution of a hormone-sensitive adenylate cyclase system. The pure beta-adrenergic receptor and guanine nucleotide regulatory protein confer hormone responsiveness on the resolved catalytic unit”. The Journal of Biological Chemistry 259 (16): 9979–82. (August 1984). doi:10.1016/S0021-9258(18)90913-0. PMID 6088509. 
  5. ^ “Reconstitution of catecholamine-stimulated adenylate cyclase activity using three purified proteins”. The Journal of Biological Chemistry 260 (29): 15829–33. (December 1985). doi:10.1016/S0021-9258(17)36333-0. PMID 2999139. 
  6. ^ “G alpha 12 and G alpha 13 subunits define a fourth class of G protein alpha subunits”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 88 (13): 5582–6. (July 1991). doi:10.1073/pnas.88.13.5582. PMC 51921. PMID 1905812. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC51921/. 
  7. ^ a b “Inactive-state preassembly of G(q)-coupled receptors and G(q) heterotrimers”. Nature Chemical Biology 7 (10): 740–7. (August 2011). doi:10.1038/nchembio.642. PMC 3177959. PMID 21873996. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3177959/. 
  8. ^ a b c d Saroz, Yurii; Kho, Dan T.; Glass, Michelle; Graham, Euan Scott; Grimsey, Natasha Lillia (2019-10-19). “Cannabinoid Receptor 2 (CB 2 ) Signals via G-alpha-s and Induces IL-6 and IL-10 Cytokine Secretion in Human Primary Leukocytes” (英語). ACS Pharmacology & Translational Science 2 (6): 414–428. doi:10.1021/acsptsci.9b00049. ISSN 2575-9108. PMC 7088898. PMID 32259074. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7088898/. 
  9. ^ “Specificity of G protein beta and gamma subunit interactions”. The Journal of Biological Chemistry 267 (20): 13807–10. (July 1992). doi:10.1016/S0021-9258(19)49638-5. PMID 1629181. http://www.jbc.org/content/267/20/13807. 
  10. ^ “Targeting G protein-coupled receptor signaling at the G protein level with a selective nanobody inhibitor”. Nature Communications 9 (1): 1996. (2018). Bibcode2018NatCo...9.1996G. doi:10.1038/s41467-018-04432-0. PMC 5959942. PMID 29777099. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5959942/. 

外部リンク


ヘテロ三量体Gタンパク質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/19 16:40 UTC 版)

Gタンパク質」の記事における「ヘテロ三量体Gタンパク質」の解説

詳細は「ヘテロ三量体Gタンパク質」を参照 膜受容体関連ヘテロ三量体Gタンパク質(「大きなGタンパク質GTP結合するサブユニット40 kDa前後)はGタンパク質共役受容体(GPCR)により活性化され、グアニンヌクレオチドを結合しGTPアーゼ活性を持つαサブユニットとβ,γサブユニットからなるGタンパク質重要なシグナル伝達分子一つであり、糖尿病アルコール依存症ある種下垂体がんなどの疾病Gタンパク質機能不全よるものであると考えられる。したがってそれらの機能シグナル経路タンパク質相互作用理解することにより、治療様々な予防措置期待できる受容体活性化Gタンパク質細胞膜内表結合し及び固く結合したγサブユニットから成るリガンドGタンパク結合受容体活性化するとき、Gタンパク質受容体結合して持っているGDPGαサブユニットから切り離しGTP新し分子結合する。この交換により、Gαサブユニット、Gβγ二量体受容体それぞれ分離する-GTPとGβγのそれぞれ別の『シグナリング・カスケード』(つまりセカンドメッセンジャー経路)とエフェクタータンパク質を活性化、その一方で受容体次のGタンパク質反応できるGαサブユニット最終的にその固有の酵素活性により結合したGTPGDP加水分解することで、Gβγと結合して新し周期始める。 Gタンパク質引き金となるシグナリング・カスケードのよく特徴付けられた例としてcAMP経路がある。Gタンパク質活性型サブユニットであるs-GTPによりアデニル酸シクラーゼという酵素活性化しセカンドメッセンジャーとして機能する環状アデノシン一リン酸 (cAMP)をATPから合成するセカンドメッセンジャーそのとき他の下流タンパク質反応して細胞様子変える

※この「ヘテロ三量体Gタンパク質」の解説は、「Gタンパク質」の解説の一部です。
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