バクテリオ・ロドプシンとは? わかりやすく解説

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バクテリオロドプシン


バクテリオロドプシン

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バクテリオロドプシン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/28 08:50 UTC 版)

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バクテリオロドプシン: bacteriorhodopsin)とは光駆動プロトンポンプとしてエネルギー変換を行う膜タンパク質である。構造生物学の最後の課題として、膜タンパクの構造決定およびコンフォメーション変化があるが、世界で初めてそれらが明らかになった膜タンパクである。アポタンパクであるバクテリオオプシンと発色団レチナールからなる色素タンパクである。

所在

高度好塩菌は「紫膜」と呼ばれる構造体を膜にしばしば有するが、この紫膜はタンパク質成分としてほとんどバクテリオロドプシンから構成される。紫膜中でバクテリオロドプシンは二次元結晶構造をとっており、この結晶構造を用いて電子線回折法による立体構造の解析が古くから進められてきた。

機能

光エネルギーによって、細胞内の水素イオン(プロトン)を細胞外に能動輸送する。低酸素分圧下で呼吸鎖電子伝達系を代替する機能を持つ。高度好塩菌に光を照射すると酸素呼吸は阻害されることがよく知られている。バクテリオロドプシンの発現は酸素分圧と光によって調節されることが知られており、エナジェティクスに関連したものであることは明白だが、一方で光センサーとして機能しているのではないか、と考えられている。

光プロトン輸送メカニズムの解明

バクテリオロドプシンは、構造生物学上初めて立体構造が解明された膜タンパクの一つである。また水素イオンの輸送がいかにして行われるか、そのメカニズムも明らかになっている。

  • 1975年 ヘンダーソンらによって Halobacterium salinarum のバクテリオロドプシンの二次元結晶の電子線回折実験から、7本のαヘリックス構造が膜を貫いていることが明らかになった[1]
  • 1997年 神取、前田によって様々な光反応サイクル中のレチナール中間体が明らかになった[2]
  • 1999年 リュッケらによって3次元結晶を用いたX線結晶構造解析が行われ1.55Åの分解能で立体構造が明らかになった[3]
光の吸収に伴うコンフォメーション変化

以上の事柄により、光エネルギーを受け取ったレチナールが異性化し、タンパク質にエネルギーを提供して骨格や側鎖のコンフォーメーション変化が発生、および水分子の水素結合変化が明らかになった。これらは、同位体置換試料や変異タンパクを用いた実験で明らかになってきたことである。

結果、プロトン輸送過程はレチナールの光異性化と3つのカルボン酸 (Asp96, Asp85, Glu204) を経由して行われることが明らかになった。

今後の課題

バクテリオロドプシンの立体構造とプロトン輸送過程は明らかになったが、能動輸送の本質である「スイッチ機構」(プロトン輸送の方向性が決定される仕組み)についてはいまだ何も明らかになっていない。

スイッチ機構に関わるアミノ酸残基解明のために多くの変異タンパクを用いた実験が行われてきたが、いまだ明らかになっていない。ただし、Asp85をスレオニンに置換した変異タンパクは、高塩濃度下で塩化物イオンを細胞外から細胞内に輸送する「塩化物イオンポンプ」になることがわかっている[4]

バクテリオロドプシンはその名の示すとおり、人間の視覚に関与するロドプシンと深い関わりがあると言われている。人間の視覚に関与するタンパクが微生物のエナジェティクスに類似していることは進化を考える上でも興味深いタンパクであることは間違いない。そうした意味でもバクテリオロドプシンが今なお研究が進行している。

参考文献

  1. ^ Henderson, R.; Unwin, P. N. (1975). "Three-dimensional model of purple membrane obtained by electron microscopy." Nature 257 (5521): 28–32. PMID 1161000.
  2. ^ 神取秀樹、前田章夫 「バクテリオロドプシンはどのようにして光をエネルギーに変換するのか?」 『蛋白質核酸酵素』 1997年42巻2号101–109頁。PMID 9028166.
  3. ^ Luecke, H.; Schobert, B.; Richter, H. T.; Cartailler, J.P.; Lanyi, J. K. (1999). "Structure of bacteriorhodopsin at 1.55 Å resolution." J. Mol. Biol. 291 (4): 899–911. PMID 10452895.
  4. ^ Sasaki, J.; Brown, L. S.; Chon, Y.-S.; Kandori, H.; Maeda, A.; Needleman, R.; Lanyi, J. K. (1995). "Conversion of bacteriorhodopsin into a chloride ion pump." Science 269 (5220): 73–75. PMID 7604281.

関連項目


バクテリオロドプシン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 03:40 UTC 版)

高度好塩菌」の記事における「バクテリオロドプシン」の解説

高度好塩菌化学合成従属栄養性を示すと上述したが、1971年にStoeckeniusらは、Halobacterium を酸素制限下に光照射して培養すると、その細胞膜上に「紫色の膜」(purple membrane, 紫膜)と呼ばれる特殊な膜構造合成することを明らかにした。この紫膜は電子顕微鏡により通常の細胞膜部分から容易に識別が可能であり、培養終期には高度好塩菌の膜面積半分程度占めることがわかった。 この膜は通常の古細菌脂質エーテル型脂質)が50%重量比)、バクテリオロドプシンというタンパク質50%割合構成される。バクテリオロドプシンはヒト視覚関与するロドプシン性質がよく似ていることからこの名前が付けられた。バクテリオロドプシンはレチナール内部配位したタンパク質であり、レチナールが光を吸収して紫色呈することから紫膜という形で観察されるレチナール分子光吸収すると、オールトランス型から 13-cis 型に異性化し、この構造変化引き金になって、バクテリオロドプシン内のアミノ酸残基(特にアスパラギン酸残基)の側鎖カルボキシル基)のpKa値が変化してプロトン一方向細胞内側から細胞外側へ)に輸送される。これによって、膜を介したプロトン電気化学的ポテンシャル差が形成される。これを利用して、同じ膜上にあるプロトン輸送ATP合成酵素A型ATPase)が、最終的にATP合成行なっている。したがって高度好塩菌酸素欠乏条件においては従属栄養的な生育が可能であるが、バクテリオロドプシンの補欠分子であるレチナール生成には酸素分子必要なので、嫌気的条件連続的に生育できない高度好塩菌がバクテリオロドプシンを獲得した可能性として、高度好塩菌好気性を示す一方で飽和に近い食塩水においては酸素溶解度純水比べて低いことが考えられる。このバクテリオロドプシン発現の制御は、バクテリオロドプシンアクティベーターと呼ばれるタンパク質転写因子)によって行われている。紅色非硫黄細菌においても酸素欠乏においてはバクテリオクロロフィル合成が行なわれる。 バクテリオロドプシンの構造生物学知見については当該記事参照

※この「バクテリオロドプシン」の解説は、「高度好塩菌」の解説の一部です。
「バクテリオロドプシン」を含む「高度好塩菌」の記事については、「高度好塩菌」の概要を参照ください。

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