タイプの役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/23 14:24 UTC 版)
新種を発表する場合、上記のようにタイプを指定し、それらに基づいてその種の特徴を説明し、他種との違いを述べた論文、すなわち原記載を発表する。生物を同定する場合、本来的にはこのタイプ、厳密にはホロタイプとなっている個体と同種であるとみなすことでその決定が行われるのであるから、検討対象の標本とタイプを直接比較することによってその判断が決定されることがもっとも望ましいあり方である。 しかしながら、動物や植物では基本的にホロタイプは世界に1つしか存在しない。種の同定を行おうとする世界中の人々すべてがその都度タイプと手持ちの標本を比較して同定するのは非現実的である。そこで、現実の同定作業の大半は、原記載論文の記載文や記載図との比較、もしくは原記載をもとにした総説論文(モノグラフ)やそれを要約した種々の同定用資料(図鑑もその一つ)をもとに行われる。一方原核生物の場合には、ホロタイプを純粋培養して得た細胞をホロタイプと同等のものとみなすことができるので、微生物株保存機関からその株の分譲を受けて、直接比較に用いることができる。 もちろん、原記載の記載文や記載図の説明は生物の形質を余さず記録したものではなく、原記載者の取捨選択、あるいは見落としによって落ちている情報が存在する。研究の進展によってそうした欠落情報に重要な意義が見出されることがある。たとえば単一種と考えられていた生物が複数種を含むことが明らかになる、酷似した近縁種が新たに発見され形質の差を明確にしなければならないというような場合である。また、分類学者が既知の種の分類体系を再検討し、系統関係を解き明かしていくときも、単に原記載の記載文や図を用いるだけでは情報は不正確であるし、不足している。 こうしたとき、分類学者はタイプに直接当たることで原記載では不足していた情報を獲得し、問題解決に当たる。その際、外面から得られる形質情報を用いることはもちろんであるが、場合によってはタイプを解剖して内部形質を検証する、あるいは核酸を抽出して DNA の塩基配列を解読するという、より掘り下げた手段がとられることも少なくない。たとえば昆虫では乾燥標本となったタイプを軟化して交尾器を摘出することによってキチン化した外部形質を検証、同時に交尾器内部の肉質部をタンパク質分解酵素で溶出して DNA を抽出、という多段階の手段が用いられ、原記載でもれていた重要な情報が得られることがある。このようにして補完された詳細な情報を論文にまとめ、発表する事を再記載という。
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