スーパー・アースの欠如と水星質量
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/09 18:11 UTC 版)
「グランド・タック・モデル」の記事における「スーパー・アースの欠如と水星質量」の解説
太陽に近い軌道にスーパー・アースが存在しないことと、水星の質量が小さいことを説明する仮説に関しても、グランド・タック・モデルの他に複数の説が存在する。 木星のコアは一般的には凍結線よりも外側で形成されたと考えられている。しかし、もし木星のコアが太陽に近い位置で形成された場合、コアが太陽系内部を外向きに移動する過程で物質共鳴に捕獲して外側へ運び、金星の軌道より内側の領域の物質を枯渇されたかもしれない。このシナリオでは、円盤中を太陽に向かって落下するペブルの一部が円盤の内縁に捕獲され、そこで数地球質量のコアが急速に形成されるとしている。その後円盤との相互作用によってコアは外側へ移動して凍結線の外側に到達し、その途中で地球型惑星が形成される領域を横断することになる。外向きの移動が低速であった場合、コアとの共鳴によって円盤の内側から物質が持ち去られるため、水星軌道より内側では惑星は形成されなくなる。またこのモデルでは、外側へ移動するコアの軌道の外側の共鳴の位置に物質が捕獲されることで地球質量程度の別のコアが形成され、これが土星のコアになった可能性も指摘している。 また、円盤風の影響を考慮した原始惑星系円盤の進化によって内側の惑星の欠如を説明する仮説も存在する。円盤風とは原始惑星系円盤の表面からガスが散逸していく現象であり、これを考慮して進化する原始惑星系円盤の中では、惑星胚は合体して惑星を形成する前に外側へと移動する場合がある。円盤風によるガスの散逸が弱い場合はタイプI移動が抑制されて惑星胚の内側への移動が低速になるが、円盤風が強い場合は円盤の構造が大きく変化し、1 au 以内の惑星胚は外側へと移動する。そのため太陽系は水星軌道の内側に惑星を持てなかった可能性がある。 かつては内側に初期世代の惑星が存在したが、軌道不安定による衝突破壊によって失われた可能性もある。この仮説では、初期は現在の金星の軌道よりも内側に大きな惑星が存在し、太陽系の年齢の 1〜10% 程度のある程度の期間は存在していたものの、長期的な重力の摂動によって軌道が不安定化して衝突により破壊されてしまったとしている。衝突によって生成された小さい破片はポインティング・ロバートソン効果によって太陽へ落下して失われ、衝突の結果として一つだけ残された残骸が水星であるとの可能性を提案している。 微惑星形成が早い段階のみにおいてストリーミング不安定性(英語版)によって発生する場合、微惑星円盤の内縁はケイ酸塩岩石が凝縮する場所に存在し、そのため太陽系の内側では惑星が形成されなかったとする仮説も存在する。太陽系が形成される初期段階では円盤の内側は高温であり、現在の金星軌道付近の 0.7 au 以内では岩石は蒸発し気体として存在していた可能性がある。そのため固体物質は 0.7 au より外側にしか存在せず、それより内側では微惑星が形成されない。円盤が低温になるに従って岩石粒子は蒸発せずに内側へ流れていくことが出来るが、降着する微惑星が存在しないため太陽へ落下していくのみとなる。 また、水星の軌道より内側で微惑星が形成されるためには、恒星の磁場は円盤の回転と揃った向きになっている必要があったとも考えられている。これは、磁場と円盤中のガスの間にはホール効果が働くが、この効果は磁場の向きによって大きく変化するためである。恒星の磁場と円盤の回転軸が反平行になっている場合は円盤内側では微惑星形成に適さない環境になる。しかし平行であった場合は円盤ガスの枯渇によって、ガスに対する固体物質の割合が大きくなり、ストリーミング不安定性や重力収縮を起こして微惑星を形成するのに適した環境になる。 その他、恒星に近い軌道でスーパー・アースを形成するためには、初期の太陽系で発生したよりも大きなペブルの内側への流束が必要だったとする指摘もある。ペブルの流束が小さい場合は、惑星胚の成長は遅く内側への移動も遅いため、円盤のガスが散逸した段階では広い軌道間隔を持った火星質量程度の惑星胚が形成される。その後これらは互いに衝突して地球型惑星を形成するが、この場合は質量は最大でも5地球質量に留まる。一方でペブルの流束が大きい場合は惑星胚は大きく成長して円盤内を内側へ移動し、円盤の内縁付近に集まって合体成長を起こす。その結果として5〜20地球質量のスーパー・アースが狭い範囲に集まった配置となる。
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