シチリア島の総督
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/13 00:49 UTC 版)
「イスラーム期のシチリア」の記事における「シチリア島の総督」の解説
アサド・ブン・アル=フラートの跡を継いだシチリア島のムスリム支配者たちはワーリー(総督、wālī)、場合によってはアミール(amīr)、アーミル('āmil)と呼ばれ、アグラブ朝配下の総督としてシチリア島の支配に携わった。シチリア島のワーリーは、現地のムスリムたちによって選出された後アグラブ朝の承認を得るか、あるいはアグラブ朝から直接任命された。このシチリアのワーリー/アミールは、自らの意思で戦争と和平が可能な実質的な君主であった。しかし、アグラブ朝の影響力は大きく、その臣下という体裁は維持され続けた。当時シチリアで発行された貨幣にアグラブ朝の君主の名が刻まれ、フトゥバ(金曜日に行われる説教)においてはアッバース朝のカリフ(ハリーファ)と共にアグラブ朝のアミールの名が唱えられた事実が、アグラブ朝のシチリアにおける権威を証明している。 シーア派指導者アブー=アブドゥッラーがチュニジアの支配権を握り、アグラブ朝がファーティマ朝に取って代わられたという報せがシチリア島に届くと、シチリアのムスリムたちはアグラブ朝のシチリア総督アフマドを幽閉し、前総督のアリーを「ファーティマ朝の」シチリア総督として選出した。こうしてシチリア島はスンナ派であるチュニジアのアグラブ朝、シーア派であるエジプトのファーティマ朝の権威に順次服した。しかし、イスラーム時代を通じて、スンナ派がシチリア島のムスリムコミュニティの主流派を占め、パレルモの住民の(全てではないとしても)ほとんどがスンナ派であった。ファーティマ朝とシチリアの関係はアグラブ朝の時と大きくは変化せず、フトゥバにおいてファーティマ朝カリフの名が唱えられ、総督はファーティマ朝によって任命されたが、シチリアは高い政治的自立性を保っていた。 943年から947年にかけて、ファーティマ朝の厳格な宗教政策に対する宗派的反乱が北アフリカ全域で発生した後、ファーティマ朝の報復から逃れようとする難民の波がシチリアに向かって数度にわたって発生し、島内のスンナ派人口は更に増大した。ビザンツ帝国はこの一時的な不和を利用して、シチリア島の東端部を数年間占領した。 947年4月25日に、パレルモで当時のシチリア総督イブン・アッターフに対する反乱が発生した。ファーティマ朝のカリフ、イスマーイール・アル=マンスール(英語版)は、混乱の収拾を託してカルブ家のアル=ハサン・アル=カルビー(英語版)(在職:948年-953年)をシチリア島のアミール(総督)に任命した。彼はひっきりなしに反乱をおこしていたビザンツ人を制御し統治することに成功した。ハサンは事が済んだ後、953年にはファーティマ朝の宮廷に呼び戻されたが、シチリア総督(アミール)位には彼の息子アフマド・ブン・アル=ハサンが就任した。アフマドも969年にファーティマ朝本国へ召還され、その後ハサンの解放奴隷ヤイーシュにシチリア支配が委ねられた。しかし、間もなく無政府状態に陥ったため、再びアフマドがシチリアの支配者となり、その兄弟アブー・ル=カースィム(英語版)が代理としてシチリアに派遣された。970年にはアフマドが死去したため、アブー・ル=カースィムが正式にシチリアのアミールとなり、以降ハサンの子孫(カルブ家)がシチリア総督位を世襲することが慣習化した。これをカルブ朝(英語版)と呼ぶ。 カルブ朝の下で、11世紀に至るまで南イタリアへの襲撃が続けられ、982年にはオットー1世率いる「ドイツ」軍をカラーブリアのクロトーネ近郊で撃破した。アミール、ユースフ・アル=カルビー(英語版)(在位:986年-998年)の即位と共に、着実な衰退の時代が始まった。アル=アクハル(al-Akhal、在位:1017年-1037年)の下で王朝内の内部対立は激化し、支配家系内の様々な派閥がビザンツ帝国やチュニジアに新たに興ったズィール朝と同調した。1036年にはズィール朝の支配者アル=ムイッズ・ブン・バーディース(英語版)はムスリムたちの反乱に介入すると共に、シチリア島の併合を試みて派兵した。この戦いの中でカルブ朝のアミール、アフマド2世が殺害され、ズィール朝の王子アブドゥッラーフがシチリア総督となった。1040年には殺害されたアフマド2世の兄弟ハッサーン・アッ=サムサム(英語版)がアブドゥッラーフを破りカルブ朝を復活させたが、もはやシチリア全土に支配を及ぼすことは困難になっていた。
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