イブン・アラビー思想と「存在一性論学派」の展開
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直弟子であったクーナウィー(1207年 - 1274年)は、思索の赴くままに叙述したイブン・アラビーの作品を整理し、それらに自ら注釈を施す等して体系化に勤めた。クーナウィーは『叡智の台座』の注釈を施した他に、同じく同書の注釈を著したジャンディー(Mu'ayyid al-Dīn al-Jandī ? -1291年頃?)や、イブン・アラビーの思想を哲学的さらに深化させたティリムサーニー(‘Afīf al-Dīn al-Tilimsānī 1291年)、ペルシア語神秘主義詩人として有名なイラーキー(Fakhr al-Dīn Ibrahīm ‘Irāqī )ら後進達の育成も行っている。なかでもイルハン朝ではクーナウィーとジャンディーから教えを受けたスフラワルディー教団に属すスーフィー思想家アブドゥッラッザーク・カーシャーニー(ʿAbd al-Razzāq al-Qāshānī :tr , ? - 1335年)は「存在一性論」の正しさを主張して、アッラーフの至高性を強く主張しイブン・アラビーを批判した同時代人のアラーウッダウラ・スィムナーニー(ʿAlā' al-Dawla Simnanī, 1336年没)と論争を行っている。カーシャーニーはイラン以東でのイブン・アラビーの思想の展開にも大きな足跡を残しており、カーシャーニーの弟子ダーウード・カイサリー(Dāwūd al-Qayṣarī 1260年頃- 1351年)、カイサリーの弟子ルクヌッディーン・シーラーズィー(Rukn al-Dīn al-Shīrāzī, 1367年没)がいるが、3者とも『叡智の台座』の注釈書を著しており、カーシャーニーとカイサリーの注釈書は地域を問わず広く読まれた。シーラーズィーの注釈書はペルシア語訳がされ、これがペルシア語訳『叡智の台座』の注釈書としては最古のひとつとなっている。 ダマスクスでイブン・アラビーやクーナウィーと親交を持ったサアドゥッディーン・ハンムーヤという人物の弟子、アズィーズ・ナサフィーが『完全人間』(Kitāb al-insān al-kāmil)というペルシア語によるイブン・アラビー思想の解説書を著し、これがペルシア語文化圏におけるイブン・アラビーの思想的影響を大きく残した。やはり同じ『完全人間』という書名のアラビア語による著書を残したアブドゥルカリーム・ジーリー(ʿAbd al-Karīm al-Jīlī, 1326年 - 1424年)がおり、イェメンのラスール朝治下のザービドで後半生を過ごし、『マッカ啓示』の理解困難な箇所に注釈を施す等をしている。15世紀にはティムール朝時代に活躍したホラーサーン出身のスーフィー詩人ジャーミーが、『叡智の台座』やそれをイブン・アラビー本人が要約した『台座の刻印』(Naqsh al-Fuṣūṣ)にそれぞれ注釈を施している。ジャーミーはいわゆる存在一性論学派のなかでも最も有名な思想家のひとりである。 イランや中央アジアでのアラビー研究は主にペルシア語訳書や注釈書を介して中国にも伝播し、漢文によるイスラーム思想の著述がはじまる17世紀前後からイブン・アラビーの存在一性論の影響が見られるようになる。『清眞大學』の著者王岱輿(1570年頃 - 1657年頃)や『歸眞總義』の張中( 1670年没)、アズィーズ・ナサフィーやジャーミーの著作を漢訳した舍起靈(1710年没)らがいる。 一方、オスマン朝では創建当初からイブン・アラビーに傾倒する思想家が多く、オスマン朝時代の知識人、思想家の大半はなんらかの形でその思想的影響化あると言われている。上述のダーウード・カイサリーがイズニクで建てられた最初のマドラサの初代学院長を勤め、その後も『マッカ啓示』やクーナウィーの著作等を注釈、ペルシア語、オスマン語に翻訳するウラマーが陸続と現れ、オスマン朝の最初のシャイフル=イスラームとされているムッラー・ファナーリー(Mullā Shams al-Dīn Fanārī 1350年 - 1431年)も『マッカ啓示』やクーナウィーの著書『玄秘の鍵』(Miftāḥ al-Ghayb)の注釈書を著し、さらに同書や『叡智の台座』の釈講を行っている。 エジプトでは、イブン・アラビーに対する批判者も多かったが、マムルーク朝時代を中心に「存在一性論学派」の学統は隆盛した。
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