外国語
『創世記』第11章 世界中の人々は、同じ言葉を使って話していた。シンアルの平野に住みついた人々は、「天まで届く塔のある町を建て、有名になろう」と言って、れんがで高い塔を造り始めた。主(しゅ)は、「これでは、彼らが何を企てても、やめさせることができない。彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」と考え、言葉を混乱(バラル)させ、彼らを全地に散らした。こういうわけで、この町は「バベル」という名で呼ばれた。
食人から始まった言語(南オーストラリア、ナリニェリ族の神話) 意地悪な老女ウルルリ(*→〔火〕1f)が死んだので、喜んだ人々が方々からやって来た。最初にラミンジェラル族が来て、ウルルリの死体の肉を食べると、すぐにはっきりした言葉を話し始めた。次に東方の部族が来て腸の中身を食べ、少し違った言葉を話した。最後に北方の部族が来て腸や残りの物をむさぼり食い、ラミンジェラル族の言葉とははるかに異なった言葉を話した。
*→〔山〕5cの言語の分裂(メラネシア、アドミラリティ諸島の神話)。
『使途行伝』第2章 5旬祭の日、イエスの弟子たちが集まっていると、激しい風のような音が天から聞こえ、炎のような舌が分かれ分かれに現れて、弟子たち1人1人の上にとどまった。一同は精霊に満たされ、霊が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話し出した。エルサレムには、天下のあらゆる国々から人々が来ていたが、皆、自分の故郷の言葉が話されているのを聞いて驚いた。
『現代民話考』(松谷みよ子)2「軍隊ほか」第12章 太平洋戦争終了後、ルソン島の日本人捕虜収容所。夜勤の米兵と情婦の性交を、日本人捕虜たちがのぞき見た。米兵が気づいて、日本人捕虜たちに謝罪を要求する。1人が「ありがとうございました」と丁寧に頭を下げると、米兵は「OK」と言った。皆は声をそろえ、「また見せて下さい」と言った。日本語のわからない米兵は、満足げにうなずいた。
『モルグ街の殺人』(ポオ) パリのモルグ街で母娘2人が殺された時、近辺にはフランス人・イタリア人・イギリス人・スペイン人・オランダ人などがいた。彼らは一様に、「外国人の声を聞いた」と証言したので、殺人犯は外国人かと思われた。しかしそれは、オラン・ウータンの声であった→〔密室〕1。
★5.外国語の流入。
『夜明け前』(島崎藤村)第2部第12章 帝への献扇事件後(*→〔扇〕2)、裁断が下るまでの間、青山半蔵は50日近く謹慎し、文明開化の世相を夢のようにながめた。芸人の歌う流行唄(はやりうた)も、すっかり変わった。「待つ夜の長き」では旧弊で、「待つ夜のロング」と言わねばならない。「猫撫で声」は「キャット撫で声」だ。少女たちは洋書と洋傘を携え、いそいそと英語教師のもとへ通うという。それを聞いて半蔵は胸がいっぱいになった。
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