COBE COBEの概要

COBE

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/18 05:34 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動
Cosmic Background Explorer (COBE)
基本情報
NSSDC ID 1989-089A
所属 NASA
主製造業者 ゴダード宇宙飛行センター
打上げ日時 1989年11月18日
打上げ機 デルタロケット
ミッション期間 約4年
質量 2,270 kg
軌道 離心率:0.0006 - 0.0012
軌道傾斜角:99.3°
昇交点赤経:270°
軌道高度 900.2 km
軌道周期 103分
所在地 地球周回軌道
観測装置
DIRBE 赤外線ボロメータ
FIRAS 遠赤外絶対分光測光計
DMR 差分マイクロ波ラジオメータ
公式サイト LAMBDA - Cosmic Background Explorer

歴史

1974年NASA は小型・中型の探査機を用いた天文学ミッションの公募を行った。集まった121件の提案のうち3件が宇宙背景放射に関する研究を行うというものであった。これらの提案は最終的には赤外線天文衛星 (IRAS) に取って代わられる結果になったが、この時の複数の提案から、NASA は宇宙背景放射の研究を検討に値するものであると認識することとなった。1976年、NASA は1974年の3件の提案チームそれぞれからメンバーを選んで一つにまとめ、各案を統合した衛星の企画を提案した。1年後、このチームによって、デルタロケットまたはスペースシャトルで極軌道に衛星を打ち上げるという計画が提出され、この衛星は COBE と呼ばれた。COBE には以下の実験装置が搭載されることになった[1]

  1. 差分マイクロ波ラジオメータ (Differential microwave radiometer, DMR) : CMB のマッピング観測を行い、CMB に含まれる非等方性を検出する。主任研究者はジョージ・スムート
  2. 遠赤外絶対分光測光計 (Far-infrared absolute spectrophotometer, FIRAS) : CMB のスペクトルを測定し、黒体放射との違いがあるかどうかを調べる。主任研究者はジョン・C・マザー
  3. 拡散赤外背景放射実験装置 (Diffuse Infrared background experiment, DIRBE) : 宇宙初期の赤外銀河を検出する。主任研究者はマイク・ハウザー。

NASA は打ち上げとデータ解析を除いて費用を3000万ドル以内に抑えるという条件でこの提案を受け入れた。IRAS によって探査計画全体の費用が予算をオーバーしていたため、ゴダード宇宙飛行センター (GSFC) での COBE の開発作業の開始は1981年までずれこんだ。コストを抑えるため、COBE は IRAS で使われたのと同型の赤外線検出器と液体ヘリウムデュワーを使うことになった。

若干の遅れがあった後、COBE は1989年11月18日にデルタロケットによって太陽同期軌道に打ち上げられた。1992年4月23日に研究者グループは、COBE の観測データから宇宙初期の構造形成の「種」(CMB の非等方性)が発見されたと報告した。この報告は科学分野の基本的発見として世界中を駆けめぐり、ニューヨーク・タイムズ紙の一面を飾った。

COBE 探査機

前述の通り、COBE は IRAS から技術の多くを流用した中・小型 (Explorer class) の衛星である。この衛星にはいくつかのユニークな特徴がある。

COBE では系統誤差の源を完全に制御し測定する必要があったため、厳密で総合的な設計・制御のコンセプトを必要とした。必要な科学データを得るために、COBE では最低でも6ヶ月間活動を行い、地球太陽からだけでなく、地上や COBE 自身、また他の衛星からの輻射の干渉量を抑える必要があった[2]。観測装置自身も、温度が安定していること、また迷光の侵入や微粒子からの熱放射を減らして高い利得と高レベルの清浄性を保つことが求められた。

CMB の非等方性の測定に含まれる系統誤差を把握し、また後に銀河系のモデリングに用いられることになる黄道帯雲の測定データを異なる離角で得るために、衛星は毎分0.8回の割合で自転していた[2]。自転軸は衛星の軌道速度ベクトルに対して後ろに傾いていた。これは大気ガスの残りが光学系に堆積したり、高速の中性粒子が衛星の表面に超音速でぶつかって赤外線を放射するのを防ぐためであった。

衛星の回転をなるべくゆっくり行い、また3軸姿勢制御を行うために、COBE には2個のヨー方向のモーメンタムホイールが自転軸と同じ軸方向に取り付けられていた[2]。これらのホイールは衛星全体の回転と逆方向の角運動量を生んで正味の角運動量を0にするために用いられた。

当初から、衛星の軌道はミッションの仕様に基づいて決めるべきであることが明らかになっていた。最も重要な点は、全天をカバーすること、観測機器からの迷光を抑えること、デュワーや観測機器の熱安定性を保つことであった。これらの要求を全て満たす軌道として太陽同期円軌道が選ばれた。スペースシャトルとデルタロケットどちらでの打ち上げにも適した軌道として、高度900km、軌道傾斜角99度の軌道が選ばれた(シャトルで打ち上げる場合には補助推進ロケットを COBE に取り付ける必要がある)。この高度は地球からの放射を避け、より高い高度のヴァン・アレン帯からの荷電粒子も防ぐちょうど良いものだった。一年を通じて地球の昼と夜の境界付近に位置するように、軌道の昇交点は午後6時の位置に設定された。

この軌道と衛星の自転軸によって、衛星から見た地球と太陽の位置は常に衛星のシールド面の下側に保たれ、6ヶ月ごとに全天をスキャンすることが可能になった。

COBE ミッションでの残り二つの重要な部品として、デュワーと太陽・地球シールドが挙げられる。デュワーは650リットルの超流動ヘリウムのクライオスタットで、ミッション中に FIRAS と DIRBE の装置を冷却するために設計された。このデュワーは IRAS で使用したものと同じ設計に基づいており、気化したヘリウムを通信アレイ近くの自転軸に沿って排気することができた。円錐状の太陽・地球シールドは、太陽や地球の地表からの直射光や、地球や COBE の送信アンテナの電波干渉から観測装置を守るものである。シールドは多層の断熱材でできており、デュワーを熱的に隔離する働きを持っていた[2]

COBE のデータから得られた CMB の非等方性の全天マップ



  1. ^ a b c Leverington, David (2000). New Cosmic Horizons: Space Astronomy from the V2 to the Hubble Space Telescope. Cambridge University Press. ISBN 0-521-65137-9. 
  2. ^ a b c d e Boggess, N. W. et al. (1992). “The COBE mission - Its design and performance two years after launch”. The Astrophysical Journal 397: 420. Bibcode1992ApJ...397..420B. doi:10.1086/171797. ISSN 0004-637X. 
  3. ^ Fixsen, D. J. et al. (1994). “Cosmic microwave background dipole spectrum measured by the COBE FIRAS instrument”. The Astrophysical Journal 420: 445. Bibcode1994ApJ...420..445F. doi:10.1086/173575. ISSN 0004-637X. 
  4. ^ Sodroski, T. J. et al. (1994). “Large-scale characteristics of interstellar dust from COBE DIRBE observations”. The Astrophysical Journal 428: 638. Bibcode1994ApJ...428..638S. doi:10.1086/174274. ISSN 0004-637X. 
  5. ^ Spiesman, William J. et al. (1995). “Near- and far-infrared observations of interplanetary dust bands from the COBE diffuse infrared background experiment”. The Astrophysical Journal 442: 662. Bibcode1995ApJ...442..662S. doi:10.1086/175470. ISSN 0004-637X. 
  6. ^ Freudenreich, H. T. (1997). “Erratum: “The Shape and Color of the Galactic Disk” (ApJ, 468, 663 [1996])”. The Astrophysical Journal 485 (2): 920-920. Bibcode1997ApJ...485..920F. doi:10.1086/304478. ISSN 0004-637X. 
  7. ^ a b c Dwek, E. et al. (1998). “TheCOBEDiffuse Infrared Background Experiment Search for the Cosmic Infrared Background. IV. Cosmological Implications”. The Astrophysical Journal 508 (1): 106-122. arXiv:astro-ph/9806129. Bibcode1998ApJ...508..106D. doi:10.1086/306382. ISSN 0004-637X. 


「COBE」の続きの解説一覧




固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「COBE」の関連用語

COBEのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



COBEのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのCOBE (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS