記載された薬物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 02:21 UTC 版)
記載された薬物は植物性、動物性のほか、鉱物性や化石由来のものなどが含まれる。鉱物・金属由来のものが少なくないのは道教の影響とみられ、種々薬帳の源流をたどると『神農本草経』に行き着くと考えられている。また第21櫃に納められた狼毒と冶葛は毒薬だと考えられる。なお産地については中国大陸、トルコ、ペルシャ及び東南アジアから取り寄せられた舶来品と考えられる。戦後2度行われた調査により60種のうち38種は現存が確認されており、科学的な調査が行われた。現存しない薬物は使い切ったか何らかの理由で失われたものと考えられる。種々薬帳に記載された薬物は「帳内薬物」と呼ばれ、他の薬物と区別される。種々薬帳に記載されている薬物について以下にまとめる。 記載順位薬物名読み状態収納櫃番号説明1 麝香 じゃこう 現存 第1櫃 ジャコウジカの性分泌嚢の内容物 2 犀角 さいかく 非現存 第1櫃 インドサイの角か。3との違いは不明 3 犀角 さいかく 非現存 第1櫃 インドサイの角か。2との違いは不明 4 犀角器 さいかくき 現存 第1櫃 インドサイの角で作った杯 5 朴消 ぼくしょう 非現存 第1櫃 含水硫酸ナトリウムか 6 蕤核 ずいかく 現存 第1櫃 扁核木(プリンセピア)の種子 7 小草 しょうそう 現存 第1櫃 イヌキケマン 8 畢撥 ひはつ 現存 第1櫃 ヒハツの茎と根茎 9 胡椒 こしょう 現存 第1櫃 コショウの果実 10 寒水石 かんすいせき 現存 第1櫃 方解石 11 阿麻勒 あまろく 非現存 第1櫃 アムラタマゴノキ(ウルシ科)か 12 菴麻羅 あんまら 現存 第1櫃 アンマロクユカンの果実と種子 13 黒黄連 こくおうれん 現存 第1櫃 コオウレンの根茎 14 元青 げんせい 非現存 第1櫃 ツチハンミョウ科アオハンミョウ属の昆虫か 15 青葙草 せいしょうそう 非現存 第1櫃 ノゲイトウの茎と葉か 16 白皮 はくひ 非現存 第1櫃 シランの球根か 17 理石 りせき 現存 第1櫃 繊維状石膏。主成分は炭酸カルシウム 18 禹餘粮 うよりょう 非現存 第1櫃 褐鉄鉱質の皮殻に内包される鉄分の少ない粘土か 19 大一禹餘粮 たいいちうよりょう 皮殻のみ現存 第1櫃 褐鉄鉱質の皮殻に内包される鉄分の多い粘土か 20 龍骨 りゅうこつ 現存 第1櫃 鹿の角の化石 21 五色龍骨 ごしきりゅうこつ 非現存 第1櫃 鹿の化石か 22 白龍骨 はくりゅうこつ 現存 第1櫃 鹿の四肢、歯、角の化石 23 龍角 りゅうかく 現存 第1櫃 鹿の角の化石 24 五色龍歯 ごしきりゅうし 現存 第1櫃 ナウマンゾウの臼歯 25 似龍骨石 にりゅうこつせき 現存 第1櫃 化石木か。明治期に鉱石として纏められた為、該当薬か不確実 26 雷丸 らいがん 現存 第1櫃 ライガン(サルノコシカケ科)の菌核 27 鬼臼 ききゅう 現存 第1櫃 マルバタマノカンザシ(ユリ科)の根茎 28 青石脂 せいせきし 非現存 第1櫃 青みを帯びた粘土か 29 紫鑛 しこう 現存 第1櫃 ラックカイガラムシ(カイガラムシ上科)の分泌物 30 赤石脂 しゃくせきし 現存 第1櫃 赤みを帯びた粘土。主成分は二酸化ケイ素、酸化アルミニウム 31 鍾乳床 しょうにゅうしょう 現存 第2櫃 鍾乳石。主成分は炭酸カルシウム 32 檳榔子 びんろうじ 現存 第2櫃 ビンロウの種子 33 宍縦容 にくじゅよう 非現存 第2櫃 ホンオニクの肉質の茎か 34 巴豆 はず 現存 第2櫃 ハズの種子 35 無食子 むしょくし 現存 第2櫃 インクフシバチ(フシバチ科)がモッショクジュ(カシ属)に寄生してできる虫癭 36 厚朴 こうぼく 現存 第2櫃 一般にモクレン属の植物を指すが、現存するものは異なる。詳細不明 37 遠志 おんじ 現存 第2櫃 イトヒメハギの根 38 呵梨勒 かりろく 現存 第2櫃 ミロバランノキ(シクンシ科)の果実 39 桂心 けいしん 現存 第3~5櫃 ケイ(クスノキ科)の樹皮 40 芫花 げんか 現存 第6~8櫃 フジモドキ(ジンチョウゲ科)の花蕾 41 人参 にんじん 現存 第9~11櫃 チョウセンニンジンの根 42 大黄 だいおう 現存 第12~14櫃 ダイオウの根茎 43 臈蜜 ろうみつ 現存 第15・16櫃 トウヨウミツバチの巣を加熱して得る蜂蜜 44 甘草 かんぞう 現存 第17~19櫃 カンゾウの根 45 芒消 ぼうしょう 現存 第20櫃 含水硫酸マグネシウム 46 蔗糖 しょとう 非現存 第20櫃 サトウキビから得られる砂糖 47 紫雪 しせつ 非現存 第20櫃 17種の生薬からなる配合薬 48 胡同律 こどうりつ 現存 第20櫃 植物性(胡楊か)の樹脂 49 石塩 せきえん 非現存 第20櫃 岩塩の一種。主成分は塩化ナトリウム 50 猬皮 いひ 非現存 第20櫃 ハリネズミの皮か 51 新羅羊脂 しらぎようし 非現存 第20櫃 新羅産の羊の脂か 52 防葵 ぼうき 非現存 第20櫃 セリ科の植物か 53 雲母粉 うんもふん 現存 第20櫃 ケイ酸塩鉱物。 54 蜜陀僧 みつだそう 非現存 第20櫃 一酸化鉛か 55 戎塩 じゅえん 現存 第20櫃 石膏、硫酸ナトリウム、食塩、塩化カリウム、ホウ酸マグネシウム、石英、ケイ酸塩などの混合物 56 金石陵 きんせきりょう 非現存 第20櫃 朴消、石膏、凝水石、芒消の配合薬か 57 石水氷 せきすいひょう 非現存 第20櫃 朴消、滑石、石膏、凝水石、玉泉石などの配合薬か 58 内薬 ないやく 非現存 第20櫃 詳細不明 59 狼毒 ろうどく 非現存 第21櫃 クワズイモ、マルミノウルシ(トウダイグサ科)、瑞香狼毒(ジンチョウゲ科)のいずれかか 60 冶葛 やかつ 現存 第21櫃 胡蔓藤の根
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