駅名標 日本の駅名標

駅名標

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 05:21 UTC 版)

日本の駅名標

概要

日本の駅名標は、自駅名を中央に大きく配し、左右に両隣の駅名を小さく表記したデザインを基本とする。

鳥居状に組んだ木製の支柱に板をはめ込み、白地に黒で平仮名の駅名を毛筆体で記して建植したものが原型(画像1)。

国鉄時代に「スミ丸ゴシック体」と呼ばれる統一書体が制定された(画像2)。この書体は、国鉄分割民営化に伴うJR各社への移行後にJR東海版権を所有[注 1]しており、JR北海道の柱用駅名標(画像4)で使われているほか、デザインを一部修正したものがJR東海でも用いられている(画像3)。

1964年に開業した東海道新幹線では、在来線とは異なり独自仕様の駅名標を採用した。在来線の駅名標と比較して横長[注 2]となり、またスミ丸ゴシック体による漢字ローマ字表記のみとして平仮名表記を省略し、隣駅の表示も廃止した[2][3][注 3]。その後1972年に開業した山陽新幹線での駅名標はそれを発展させ、漢字とローマ字表記のみという点は同じだが、横長のものから国鉄標準のものとほぼ同様の大きさに変更し、隣駅が併記されるようになった。しかし、東北上越新幹線以降は新幹線独自の駅名標は採用されず[4]、東海道新幹線も1970年代後半頃から、山陽新幹線では1980年代中頃の国鉄末期より在来線や東北・上越新幹線以降で採用された様式(隣駅入りの国鉄標準)に順次交換された。

JR化後はJR各社が独自の様式の駅名標を採用した。JR東海では基本は国鉄時代のデザインのまま、1987年11月から在来線では自駅のローマ字部分のみコーポレートカラーのオレンジ色の帯を入れ始めた(画像5[5]。その他のJR各社では、1990年代半ばにかけて色帯を配した独自の駅名標デザイン制定が相次いだ。

形態

国鉄の駅名標に関する規程の内容は時期によって大きく異なるが、最終的に『鉄道掲示基準規程』1986年3月改正(民営化前年)の時点で、以下のような分類となっていた[6]

駅名標(鉄道用)

  • : 屋外用(駅の入口上部に掲出) - 大きさは適宜(画像6
  • : ホーム用(ア - ウの3種)
    • (ア):横書き・隣駅名入り - 1号型(天地90cm、左右120cm)または2号型(天地80cm、左右110cm)(画像7)。電気掲示器の場合は431号型(天地75cm、左右133cm)(画像2)。
    • (イ):柱用(縦書き) - 9号型(天地75cm、左右15cm)(画像4,7)。電気掲示器の場合は210号型(天地70cm、左右15cm)。必要により、縁をその線区の電車の車体色と同じ色(ラインカラー)にすることができる。
    • (ウ): 新幹線駅ホーム両端用 - 縦133cm、横200cm以上。必ず照明を備える(画像8)。

国鉄では柱用駅名標は平仮名縦書きで、紺地に白字を基本とした期間が長かった。平仮名の書体は時期によって新旧の違いがある。JR北海道は現在も在来線では国鉄のスミ丸ゴシック書体を用いており、北海道新幹線を含む柱用駅名標でサッポロビールの広告が掲載されている(画像4)。一部の事業者では下に新聞社などの広告が入る(東武鉄道など)。

現状

JRおよび私鉄の駅名標の多くは、会社や線区などを象徴する色帯に、列車の進行方向を示す矢印などを組み合わせたり、帯を枝分かれさせて分岐駅を示すなどのデザインを採用している(画像9)。JR東海の在来線、JR四国JR九州、東武鉄道などでは、国鉄後期の規程に合わせ、自駅の所在地(都道府県市区町村[注 4])の表記を続けている(画像10)。

自駅名の表記は明治期以降、長らく平仮名表記が主だったが、一部の駅名標では可読性の高さを理由に漢字を大きく表記するケースが現れた(画像11)。さらにJR西日本、JR四国が漢字中心のデザインとしたほか、当初平仮名を主としたデザインを制定したJR東日本でも、首都圏や地方都市圏で、漢字を大きくした新デザイン駅名標への切り替えを進めている(画像9)。また駅名標に中国語ハングル韓国語)を併記するケースも現れている(画像12)。また、ブラジル人が多い地域ではポルトガル語も併記されるケースもある(画像13)。

JR東日本の一部支社や、JR西日本境線、JR九州、私鉄、第三セクター鉄道各社などでは、観光客にアピールするために、駅名標に名所のイラストや写真などの装飾を施すオリジナルデザインも見られる(画像14)。

ギャラリー

JR各社のデザイン

  • JR東日本では、駅名表記を漢字中心とした新デザインへの置き換えを進めている。2009年からは吊り下げ用の電気掲示器を「エコ薄型電気掲示器」として、光源を蛍光灯からLED照明に変更した新型への置換えを順次進めている[7]
  • JR九州では、吊り下げ用、建植用について帯を使わずに赤矢印を用い、地元のシンボルイラストを配したデザインを制定している。
  • 新幹線の駅名標は、JR東日本・JR西日本では在来線と同じ様式を採用しているのに対し、JR北海道・JR東海・JR九州では在来線とは異なる様式のものを採用しているが、このうちJR九州では、九州新幹線と西九州新幹線とで駅名標の色を変えている(様式は両新幹線で共通だが九州新幹線は青色白抜き文字白矢印。西九州新幹線は在来線と同様白地黒文字赤矢印)。

駅名標の集客への利用やグッズ化

集客や物産販売などのため、期間を限定して駅名標の文字やデザインを変更したり、架空の駅名標を設置したりする例もある。例として2022年、遠州鉄道は映画『きさらぎ駅』とのタイアップのためさぎの宮駅の看板の一部を「きさらぎ駅」に変更[8]したほか、JR東日本八王子駅は日本たまごかけごはん研究所による鶏卵販売イベント「幻の卵屋さん」に合わせて7月2日まで改札口の駅名標を「八玉子駅」とした[9]

駅名標のキーホルダーストラップを販売している鉄道事業者もある[10][11]。2009年1月には東急グループの東急ステーションリテールサービスが、東急東横線田園都市線など東急線7線全駅の駅名標をプリントした「東急線駅名メモ帳」を限定発売した[12]


注釈

  1. ^ 分社化当時のJR東海社長 須田寬がスミ丸ゴシックの制作に携わっており、思い入れがあったからだという[1]
  2. ^ 現在のJR各社で採用している駅名標の大半も、横長のものが基本となっている。
  3. ^ この様式の駅名標は国鉄が制定した規格でもあり、実際に『東海道新幹線工事誌』土木編にも、初代の駅名標をはじめ、ロール式の初代発車標や等級の書かれた初代の号車案内標などの図面が掲載されていた。
  4. ^ 国鉄やJR東海は政令指定都市にある駅では県名を省略し、区名を表記している。例:静岡駅では「静岡県静岡市」→「静岡市葵区」に変更されている。国鉄時代には「北海道」は乗客にとっては当たり前のことなので省略されていた。また、福知山線道場駅兵庫県神戸市兵庫区北区)は政令指定都市である神戸市内に所在しているものの、「神戸市兵庫区」や「神戸市北区」とは表記されず「兵庫県神戸市」と記されていた。

出典

  1. ^ 渡部千春『これ、誰がデザインしたの?』美術出版社ISBN 4-568-50269-1 
  2. ^ 昭和毎日「さよなら0系新幹線:東海道新幹線が開通 新しい鉄道時代の幕開け」内にある岐阜羽島駅の写真内[リンク切れ]毎日新聞社(2018年6月20日閲覧)。わずかではあるが「岐阜羽島 GIFU-HASHIMA」と書かれているその当時の東海道新幹線専用の独自仕様の駅名標が映っているのが確認できる。
  3. ^ 須田寬『東海道新幹線II 改定新版』(JTBパブリッシング 2010年4月20日発行)p.145に掲載の東京駅ホームの写真に「東京 TOKYO」と書かれているその当時の東海道新幹線専用の独自仕様の駅名標が映っている。
  4. ^ 写真特集:東北新幹線ヒストリー みちのくの夢乗せ、全線開通への四半世紀[リンク切れ]毎日新聞社(2012年6月18日配信、2018年6月20日閲覧)。東北・上越新幹線では在来線と同じ国鉄標準様式を採用。この写真内にある盛岡駅の駅名標が国鉄標準様式であることが検証できる。
  5. ^ 鉄道ピクトリアル』1988年3月号(通巻492号)p.92
  6. ^ 『鉄道法規類抄 運輸通則(2)昭和61年7月10日現在』(日本国有鉄道総裁室文書課)pp.2103-2525
  7. ^ 環境にやさしい駅をめざして』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道、2010年2月2日http://www.jreast.co.jp/press/2009/20100202.pdf 
  8. ^ 映画「きさらぎ駅」公開記念イベント開催とグッズ販売について②さぎの宮駅の駅名看板を一部「きさらぎ駅」に変更します 遠州鉄道(2022年5月27日)2022年7月29日閲覧
  9. ^ 八王子じゃなく「八玉子」駅です 来月2日まで JR駅名標 卵販売催し合わせ『読売新聞』朝刊2022年6月30日(都民面)
  10. ^ 駅名標キーホルダー「ご長寿セット」発売 四国新聞(2008年8月27日)2022年7月29日閲覧
  11. ^ 武雄温泉駅で発足25周年ストラップを配布 JR九州 佐賀新聞
  12. ^ 東急線全駅の「駅名標」がメモ帳に-パラパラ電車イラストも シブヤ経済新聞(2009年1月15日)2022年7月29日閲覧
  13. ^ a b 海外鉄道サロン編『ヨーロッパおもしろ鉄道文化』交通新聞社、2011年


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