恒温動物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/24 17:46 UTC 版)
体温維持と体格および外部形状
ベルクマンの法則と体格
同じ体型であれば、体表面積は体長の2乗に体重は体長の3乗に比例し、体が大きいほど体重あたりの体表面積は小さくなる。つまり体格が大きい方が冷却には不利、保温には有利となる。このため、恒温動物では近縁あるいは同種の間では寒い地域では体が大きく、暑い地域では体が小さくなる傾向がある。これがベルクマンの法則である。
例えばトラではシベリアの亜種(アムールトラ)が最も体格が大きく、ジャワ島の亜種(ジャワトラ)で最も小さい。イエスズメでは、北米にヨーロッパから移入されてから150年程度でフロリダの集団とカナダの集団では亜種レベルの体格差が生じたことが知られている。同一個体中でも、ウミガメやマグロ類では熱帯や亜熱帯の浅海域で成長し、大型になるに従って高緯度地域や深海域に活動範囲を広げる。例えばオサガメの成体は亜寒帯域まで生息するが、産卵は主に熱帯域、幼体は亜熱帯域までしか認められていない。クジラ類では食料が少ないにもかかわらず温帯域や亜熱帯域まで移動して産仔を行う種が多い。亜寒帯以北で生活環を完了するネズミザメでは一腹産子数は4匹以下と少なく、体長80cm程度以上の大きな子供を産む。一方、比熱・熱伝導率が大きく放熱に有利な水中環境では大型化できる。クジラ類は海水に熱を逃がすことができるため例外的に巨大化しているが海水に浸かっていないと体温が上がりすぎて死に至るといわれる。また、大型のマグロ類を釣り上げたときは速やかに冷却しないと急速に体温が上昇するため肉が傷み(ヤケ)商品とならないことが知られている[独自研究?]。
最小級の哺乳類と鳥類であるチビトガリネズミ、キティブタバナコウモリやマメハチドリ、前述のスズメガやヤンマ類の体重も1.5g程度以上であり、1個体のみで体温を安定的に維持するのはこの辺が限界であろうとされている。彼らは大量の餌を採るが、その多くは体温維持にのみ使われているわけである。ハチドリやコウモリはあまりの小型化したため恒常的な体温維持が難しくなったため、前記のような変温的な体温制御をおそらく再獲得したのであろう。だが、その制御は不完全なため[7]か、よく似たニッチ(生態的地位)を占めるスズメガやヤンマに比べ分布域、種数ともに大幅に少ない。トガリネズミは相当するニッチを占める動物がいないためか全世界的に分布する。しかし、地上徘徊性食虫動物としては、同程度の大きさのオサムシやムカデ、カエルやトカゲより繁栄しているとは言い難い。このように小型動物のニッチの多くは変温的体温調節のできる昆虫を始めとした節足動物、爬虫類、両生類、魚類などで占められている[独自研究?]。
慣性恒温性と運動による恒温性
大型の魚類や爬虫類で体温変動が少ない物を「慣性恒温性」として区別することが多い。しかし、鳥類や哺乳類でも大型の物の方が体温が安定しているのが普通である。慣性恒温性(Gigantothermy)とは体温調節能力がなくても(変温動物であっても)体格が大きければ、比較的安定した高い体温を保てる、という意味であり、巨大な体温が安定した生物は慣性恒温性動物(Gigantotherm)であるという意味ではない[独自研究?]。
また、当初は単なるGigantothermであるとされたウミガメ類もそこから類推されるよりも体温が安定しており、低温の餌を食べても深海の低温部に潜っても体中心部の温度はほとんど変動しない。このことから、現在ではウミガメ類に体温調節能力がないとは考えられておらず、オサガメではその体温調節機構もかなり詳しく調査されている。ウミガメやネズミザメを慣性恒温性動物として区別するのならば、その10〜100倍以上の体重を持つゾウやクジラは慣性恒温性動物として区別されねばならない。また、ゾウガメ(大抵のウミガメより重い)、イリエワニ(大抵のマグロやネズミザメよりも重い)のように大型でも体温が安定しないものもある。大型サボテン類は100kg以上の生きた部分を持つものも多いが体温は安定しない。産熱部分である体格が大きいことは相対的な低温下で体温を保つ上で有利ではあるが、それだけで体温を保てるものではない(数百リットルあっても風呂の湯はすぐ冷めることを思い出して欲しい)。むしろ、体温維持能力を持たないのに大きな体格を持った場合、寒冷な季節にいったん体温が下がると回復がかえって困難である(熱容量が大きく日光浴程度では体温が上がらない→体産熱も増えない→活動を開始できない)。逆に温暖な季節ではそのような巨大な体格では放熱がうまくいかず熱死してしまう。
つまり、温度が比較的一定した条件、もしくは寒暖が短期間で交代し熱慣性が大きければ許容体温の範囲内で収まる条件でないと熱慣性に頼った恒温性は機能しない。現実にも、変温動物では北方ほど小型化することが多く(逆ベルクマンの法則)、ニシキヘビやワニのような活動的な大型の変温動物は熱帯や亜熱帯に分布しており、寒冷な地域には分布していない。つまり恒温性大型動物を慣性恒温性動物として区別する意義はほとんどないであろう[独自研究?]。
現生動物で慣性恒温性を積極的に利用しているとされるものには、皮肉なことに哺乳類のラクダがある。ラクダでは飲食物が欠乏する場合、昼夜温の差が激しい砂漠において、夜は低体温を許容し、昼は高体温を許容する。このことにより、その大きな体格による熱慣性を利用して、比較的低コストで一日を通しての体温変動を少なくしているとされている(アフリカゾウも同様のことをしている可能性が指摘されている。もしそうであれば、ゾウはGigantothermと本当にいっていいかもしれない)。慣性恒温性とはいえないが積極的に大きな体格による熱慣性を利用している他の例としては、ガラパゴスのウミイグアナがある。ウミイグアナは日光浴をして体温を上げた後に冷たい海中で海藻を摂食する。ウミイグアナが同所的に生息するリクイグアナよりも体格が大きいのはこの時に熱慣性が大きいことが有利であるからであるとの説がある[独自研究?]。
静止時、つまり運動による産熱がない状態で、体温を保てるかどうかで恒温性かどうか区別することもある。マグロ類やネズミザメは生きている限り運動を続けるので、わざわざ別途の産熱機能を持つ必要がない。そして10℃水中で長時間体温(そして生命も)を保てる哺乳類や鳥類は少数派であるが、ネズミザメやマグロは保てる。つまりこれも、深層意識として「鳥類や哺乳類は特別優秀」という意識が働いているためにする区別であろう。
アレンの法則と表面形状
体積に対する表面積の割合が大きくなる=外気温の影響を受けやすい、という観点から突出部である尾、耳、羽などが寒い地域では小さく暑い地域では大きくなる傾向も認められる。こちらはアレンの法則と呼ばれる。アレンの法則でもわかるように、体積に対する表面積の割合を小さくする必要性から、外部形状の自由度が低くなることも指摘されている。このため、恒温動物はニッチの近い近縁の変温動物と比較して丸い印象を与える体型、すなわち、より球に近い体型をしている。
例えば、土中や狭いところを主な活動場所にする場合、ヘビ、トカゲやミミズのように細長い体型やゴキブリのように平面的な体型が有利なことが多い。しかしモグラやネズミなどの恒温動物ではこのような体型をしている種は認められていない。ハナカマキリやナナフシ、カレイのような極端な隠蔽形状を持つ種も認められていない。通常は体温を積極的に維持しないニシキヘビ類において抱卵時は安定した高体温を保つものがあるが(アミメニシキヘビでは100日程度の抱卵時は華氏88〜91度≒29〜33℃を保つ。他のニシキヘビも同程度)、このときは筋肉を震わせて産熱量を上げると共に、卵を中心としてトグロを巻くことにより露出表面積を下げる[8]。
同じ程度の大きさのハチであっても、ハナバチ類(ミツバチ、クマバチ、マルハナバチなど)は内温動物的、カリバチ類(ジガバチ、アシナガバチ、スズメバチなど)は、ほぼ完全な変温動物であることが多い[9]。カリバチ類は光沢がありスマートな形状をし、比較的羽も長いのに対し、ハナバチ類は丸く毛が生え羽も短く、もこもこした印象を与える。狩りバチ類が恒温性を持たないのは、おそらく他の動物を狩る必要があり、ハナバチ類のような形状では運動性が落ちてしまうからではないかと思われる。内温による活動時間の延長や安定した運動性能によるメリットよりも、毛が生えることによる空気抵抗の増加や、丸い体型による運動性の低下によるデメリットの方が大きいのであろう。
- ^ 生物学辞典第4版より要約
- ^ ちなみに2008年現在、多くの一般的な百科事典では「(全ての)哺乳類・鳥類(のみ)が恒温動物」「それ以外の(全ての)動物は変温動物」としている。これは恒温動物(homeotherm:体温を自律的に一定範囲に保つもの)の言葉の定義からすると明白な誤り[独自研究?]といえる。恒温動物もhomeothermも単語には動物の分類属性はなにも示されていない
- ^ Journal of Comparative Physiology BAugust 1997, Volume 167, Issue 6, pp 423-429. Regulation of body temperature in the white shark, Carcharodon carcharias. Kenneth J. Goldman
- ^ a b 哺乳類では他にハムスター、ヤマネ、ハツカネズミなどで、鳥類ではハト、ペンギン、オオハシカッコウ類などで非冬眠・低気(水)温下の体温低下や体温変動幅の増大が確認されている。また、単孔類やカツオ等も含む多くのマグロ類などでは外気(水)温によって安定する体温が異なる[要出典]
- ^ 例えば、フユシャクとマルハナバチは共に0℃の外気温でも飛翔できる。しかし、変温動物であり、最適体温が低いフユシャクは晩秋~冬しか活動(飛翔)できないが、内温動物で活動最適体温そのものは高温であるマルハナバチは春〜冬でも飛翔できる[独自研究?]
- ^ John Whitfield 著、野中 香方子 訳『生き物たちは3/4が好き 多様な生物界を支配する単純な法則』化学同人、2009年1月29日。ISBN 9784759811612。
- ^ 例えばマルハナバチは蜜量が多い花では低気温下でも安定した高体温で高速に採蜜するが、蜜量が少ない花では高気温時に低体温(変温)で採蜜する。また、スズメガやヤンマは激しい活動を行わない幼虫時は典型的な変温動物である。ハチドリではこのような細かい体温制御方法の変更は報告されていない
- ^ 逆は真ではない。つまり丸い形状や、休息時などに体を丸める動物が恒温動物であるということではない。リクガメのような丸い体型、ヘビや蛾の幼虫など休息時には体を丸める変温動物は多い。つまり丸まった姿勢で出土した化石生物(メイ・ロンやトリナクソドン、三葉虫などが有名)が恒温動物であったであろうと推定することは論理の飛躍が大きい
- ^ ハナバチにも変温動物的、カリバチにも内温動物的な種は存在する。単独生活の小型ハナバチはほとんどが変温動物的である。逆に北方系の中型スズメバチであるホオナガスズメバチの飛行時体温は高度に安定している。またオオスズメバチなどでも活動時は外気温より相当高い胸部温を保っており、越冬女王等が12月にサザンカなどに訪花することがある
- ^ “アカマンボウは「温血魚」 熱を保ったまま体内循環”. CNN. (2015年5月18日) 2015年6月6日閲覧。
- ^ “科学史上初の「恒温魚」、深海の生存競争で優位に 米研究”. AFPBB News. (2015年5月15日) 2015年6月6日閲覧。
- ^ 熊本大学社会文化研究7(2009) 155ブタ・イノシシ歯牙セメント質年輪の形成要因と考古学的応用
- ^ R.M.Laws Age determination of Pinpeds with special reference to growth layersm the teeth. Zoo geogegraphical rerationship saugetierk 1962.27:l29-l46
- ^ 大泰司紀之「ニホンジカ第一切歯、第一臼歯セメント質を用いた年齢鑑定」「解剖学雑誌」48巻1973
- ^ Helen Grue and Birger Jensen 1973 Review of the formation of incremented lines in tooth cementum of terrestrial mammals. Danish review of game biology 11:pp3-48
恒温動物と同じ種類の言葉
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