クローン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/30 15:54 UTC 版)
クローン動物
人工的な動物個体のクローンは、ウニの胚分割により1891年に初めて作成された。さらに、胚細胞核移植およびに体細胞核移植によるクローンは、カエルのものが初めて作成された。哺乳類のクローンは、ヒツジのものが1996年に始めに作られた。細胞融合を必要とする体細胞核移植では、1998年にウシにおいてもクローンが作成された。細胞融合を必要としない体細胞核移植であるホノルル法によって、1997年にマウスのクローンが作成された。現在は、ホノルル法を用いて、ネコ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ブタ、ラット、ラクダ、サルなど多くの哺乳動物で、体細胞由来のクローン作成の成功例が報告されている。
- ウニ
- 1891年にハンス・ドリーシュは、ウニの受精卵を分割して、それぞれから正常なウニの幼生を発生させることに成功した。これは初めて人工的に作製された動物個体のクローンであった。
- カエル
- 未受精卵に胚細胞の核を移植する方法(胚細胞核移植)による最初のクローン動物は、1952年にロバート・ブリッグスとトーマス・キングによりヒョウガエルから作られた。このときは、分化の進んでいない初期胚の細胞や核を不活化した未受精卵に移植することによりクローンを作成した。動物の体細胞の核を未受精卵に移植する方法(体細胞核移植)による最初のクローンは、1962年にジョン・ガードンによりアフリカツメガエルのオタマジャクシから作られた。
- コイ
- 1963年に中国の童第周が作製した、初めての魚類のクローンである。オスのアジア鯉のDNAを抽出し、メスのアジア鯉の卵に移植した。1973年には、オスのアジア鯉のDNAをメスのヨーロッパ鯉の卵に移植し、初めての生物種間をまたがるクローンを作製した[4]。
- ヒツジ
- 哺乳類のクローンは、ヒツジのものが始めに作られた。1981年に、Steen Willadsenはヒツジの受精卵からクローン個体を作製した。さらに1984年に、分化の進んでいない初期胚を未受精卵に核移植することでクローンを作製した。1995年にはロスリン研究所で、分化の進んだ胚細胞からメーガンとモラグという二体のヒツジのクローンが作製された。1996年7月には、ロスリン研究所のイアン・ウィルムットとケイス・キャンベルによって、ヒツジの乳腺細胞核の核移植によるクローン、ドリー(2003年2月14日死亡)が作られた。これは哺乳類で初めて体細胞から作られたという点で注目を集めた。さらに、1997年には同研究所において、人為的に改変を加えた遺伝子を持つトランスジェニックヒツジのクローンポリーとモリーが作成された[要出典]。これはトランスジェニック動物のクローンとして世界で初めてのものである。
- マウス
- 1986年、ソ連の科学者は、マーシャ ("Masha") と呼ばれるマウスのクローンを胚細胞核移植によって作製した[5]。1997年、ハワイ大学マノア校の柳町隆造研究室の若山照彦らによって、ホノルル法を用いた初めてのクローンがマウスから作成された。このマウスは、Cumulinaと名付けられた。2008年には、同じく若山照彦によって冷凍保存された細胞からマウスのクローンが作成された。これは冷凍保存された細胞から作られたクローンとして世界で初めてのものである。
- ブタ
- 2000年3月、初めてのブタのクローンが、ドリーと同じくロスリン研究所によって体細胞から作成された。この時作成された5匹のクローンはMillie, Christa, Alexis, Carrel, そしてDotcomと名付けられた。
- 2000年7月には、世界で2例目、日本では初めての事例となるゼナ(雌、梅山豚)が農業生物資源研究所などによって産み出された。ゼナは子豚を産み、2010年に寿命を終えた。クローン動物による正常な繁殖能力と正常な寿命の実例となった[6]。
- 2014年までに中国のBGIは新薬テストのために500頭のブタクローンを作成している。
- ガウル
- 2001年1月、初めての絶滅危惧種のクローンが作成された。誕生したガウルのクローンは2日後に死亡した。
- ネコ
- 2001年12月にテキサスA&M大学の研究者がCC (コピーキャット、クローンキャットの意) と呼ばれる初めてのネコのクローンを作製した[7]。CCはクローン元の猫と全く同じDNAを持つにもかかわらず、性格はそれぞれ異なっていた。例えば、CCは好奇心旺盛で活発だったが、クローン元の猫は恥ずかしがりやで臆病だった。また、毛の色も異なる[8]。2004年には、初めての商業用ペットとしてのネコクローンリトルニッキーがGenetic Savings & Clone社によって作製された[9]。
- ラット
- 2003年、初めてのラットのクローンであるRalphが中国とフランスの研究者によって作成された。
- ウマ
- 2003年5月28日、初めてのウマのクローンであるPrometeaがイタリアの研究所で作成された。
- イヌ
- 2005年、哺乳類において最も生殖工学の適用が難しいと考えられていたイヌでのクローン作製が、韓国の研究者グループによって報告された。このイヌはスナッピーと名付けられた。ところが、このイヌのクローンについて発表したソウル大学の黄禹錫教授らに関して、2005年末に『ヒト胚性幹細胞捏造事件』(ES細胞論文の捏造・研究費等横領・卵子提供における倫理問題)が発覚し、これを契機に過去の主だった論文の精査が行なわれた。結局、それまでの黄禹錫の発表成果のうちイヌクローンのみは成功していたことが立証された。2017年には世界初の遺伝子組み換えクローン犬「竜竜」が中国で作製されて韓国に続いて中国は犬体細胞クローン技術を独自に確立した国となった[10]。2019年、中国昆明市および北京市の公安当局は、クローンにより誕生した警察犬を導入した[11]。
- オオカミ
- 2007年、初めてのオオカミのクローン2頭がソウル大学の李柄千(イ・ビョンチョン)らによって作成された。このオオカミはSnuwolfおよびSnuwolffyと名付けられた[12]。このうち1頭 Snuwolfは2009年に死亡した[12]。
- 2011年に若山照彦は、絶滅種であるニホンオオカミをクローン技術により復元する構想を発表したが[13]、2022年時点では未来技術として示唆するにとどまっている[14]。
- ブカルド(ピレネーアイベックス)
- 2009年1月、初めての絶滅種のDNAを用いたクローンがスペインの研究所で作成された。ピレネーアイベックスは2000年に絶滅しているが、その組織と細胞は冷凍保存されていた。このクローンは誕生7分後に肺障害で死亡した。
- サル
- 2018年1月、中国科学院は体細胞核移植を用いた世界初の霊長類(カニクイザル)のクローン「中中と華華」を米科学誌セルで発表した[15]。研究チームの責任者は「理論上はクローン人間も可能になった」と述べた[15]。2019年1月には同研究チームは新薬テストなどでの利用を目的とした世界で初めてゲノム編集されたサルのクローンを発表した[16]。
- ヒト
- 詳細は「en:Human cloning」を参照
- ヒトのクローンは未だ成功していないとする考えが一般的ではある[要出典][いつ?]。[注釈 1]「クローン人間」というと、「自分と姿・形が全く同じ人間」というイメージが一般にあるが、仮に自分のクローンを作る場合、誕生した時点ではクローンは赤ん坊であるため、現在の自分とは年齢のギャップが生じる。また発生生物学的にも血管のパターン(配置構造)や指紋などは後天的な影響によるものと考えられており、生体認証の上で利用される血管パターンや指紋の同一な個体の発生率は遺伝的に異なる他の個体と同程度であると考えられている(ただし認証手法によって技術的に同一と判定される率は変化する)ことから、クローン体を用いて生体認証のコンピュータセキュリティを突破しようとすることは現実的ではない。
注釈
- ^ 2002年に新宗教団体ラエリアン・ムーブメントの関連団体であるクロネイド社がクローン人間を作ったと発表している。しかし、真偽は不明である。
- ^ サイエンスフィクションではよくある表現である。
- ^ たとえば、手塚治虫の「火の鳥」の生命編では「クローン人間を使用した殺人ゲーム」が営利目的で企画・実行されるが、クローン元になる大人と同じ年齢・容姿の人物がクローンとして出現することになっている。実際には「クローン元になる大人と同じ遺伝情報を持った赤ん坊が出現する」ものであるため、それで殺人ゲームをやろうとすれば「赤ん坊を一方的に殺す何のスリルもないもの」か「苦労して殺人ゲーム用の赤ん坊を育てなくてはならないまったく経済的に引き合わないもの」になる。
- ^ 肉体が同じであっても、メンタル面での違いがあるため、同じパフォーマンスを発揮できるとは限らない。
出典
- ^ 体細胞クローンの遺伝子発現は正常か? 東京医科歯科大学難治疾患研究所
- ^ ヤマコウバシがたった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることを発見!、2021年2月26日、大阪市立大学
- ^ Mary Bates (2017年2月3日). “カニがイソギンチャクのクローン作り共生維持か”. ナショナルジオグラフィック 2018年6月17日閲覧。
- ^ Charles C. Mann (2003年1月). “The First Cloning Superpower”. Wired 2007年6月3日閲覧。
- ^ Chaĭlakhian LM, Veprintsev BN, Sviridova TA, Nikitin VA (1987). “Electrostimulated cell fusion in cell engineering”. Biofizika 32 (5). PMID 331894.
- ^ “世界最高齢の体細胞クローン豚「ゼナ」 約10年で寿命を終える”. 農業生物資源研究所 (2010年4月22日). 2016年12月1日閲覧。
- ^ David Braun (2002年2月14日). “Scientists Successfully Clone Cat”. National Geographic 2007年6月3日閲覧。
- ^ FIGURE 1. Nuclear-donor cat, and cloned kitten with its surrogate mother. - ネイチャー 2002年2月21日
- ^ “Pet Cat Cloned for Christmas”. BBC. (2004年12月23日) 2007年6月3日閲覧。
- ^ “世界初の遺伝子組換えクローン犬、中国が育成に成功”. 人民網. (2017年7月6日) 2018年4月18日閲覧。
- ^ “北京公安局に「クローン警察犬」…攻撃性高い犬の体細胞採取”. 読売新聞 (2019年11月27日). 2019年12月3日閲覧。
- ^ a b Kim, Miok「世界初のクローン・オオカミ死ぬ、韓国」『AFPBB』(AFP(フランス通信社))、2009年9月1日。2024年4月30日閲覧。オリジナルの2024年4月30日時点におけるアーカイブ。
- ^ 金井, 恒幸 (2011年1月1日). “絶滅のニホンオオカミ復活へ 神戸・理研が挑戦”. 神戸新聞. オリジナルの2011年1月2日時点におけるアーカイブ。 2024年4月30日閲覧。
- ^ 『フリーズドライ体細胞からクローンマウスの作出に成功 -遺伝資源の究極の保存方法として-』(pdf)(プレスリリース)山梨大学、2022年7月5日、4頁。 オリジナルの2022年7月5日時点におけるアーカイブ 。2024年4月30日閲覧。(日付欄「令和4年6月30日」、解禁指定「日本時間7月6日」)
- ^ a b “世界初、サルのクローン誕生 羊のドリーと同じ手法で”. AFPBB. (2018年1月25日) 2018年2月7日閲覧。
- ^ “ゲノム編集サルでクローン 5匹誕生、世界初と中国”. 時事通信. (2019年1月24日) 2019年1月25日閲覧。
- ^ 「最新 生殖医療」p56(名古屋大学出版会、2008年)
- ^ “クローン技術と倫理 ライフサイエンスには特有の規制条件が成立するか”. 2014年2月8日閲覧。
- ^ “クローン人間誕生に対する浄土宗の声明”. 2014年2月8日閲覧。
- ^ “クローン人間の研究に関する日本カトリック教会の見解”. 2003年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月12日閲覧。
- ^ “FAQs”. 2014年2月8日閲覧。
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