buaとは? わかりやすく解説

ブリヤート語

(bua から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/18 01:43 UTC 版)

ブリヤート語
буряад хэлэн
ᠪᠤᠷᠢᠶᠠᠳ
ᠮᠣᠩᠭᠣᠯ
ᠬᠡᠯᠡᠨ
ブリヤート・ウネン英語版』紙の表題の変遷はブリヤート語の文字の変遷を示している。
発音 IPA: [bʊˈrʲaːt xɤ̞.ˈlɤ̞ŋ]
話される国 ロシア
モンゴル
中華人民共和国
地域  ブリヤート共和国
ウスチオルダ・ブリヤート管区ロシア語版
アガ・ブリヤート管区ロシア語版
モンゴル国の北部
内モンゴル自治区
話者数 400,000人
言語系統
アルタイ諸語[1] (論争有り)
表記体系 モンゴル文字
キリル文字18世紀 - )
ラテン文字(公式には1930年 - 1939年
公的地位
公用語  ブリヤート共和国
少数言語として
承認
モンゴル
統制機関 モンゴル・仏教・チベット学研究所英語版ロシア語版
言語コード
ISO 639-2 bua
ISO 639-3 buaマクロランゲージ
個別コード:
bxu — 中国ブリヤート語
bxm — モンゴルブリヤート語
bxr — ロシアブリヤート語
消滅危険度評価
Definitely endangered (Moseley 2010)
テンプレートを表示

ブリヤート語(ブリヤートご、ブリヤート語: буряад хэлэнᠪᠤᠷᠢᠶᠠᠳ
ᠮᠣᠩᠭᠣᠯ
ᠬᠡᠯᠡᠨ
)は、ロシア連邦ブリヤート共和国などで話されているモンゴル系言語。ブリヤートモンゴル語などとも言われる。独立した言語とされることが多いが、モンゴル国などのハルハ方言(標準モンゴル語)、中国内モンゴル自治区などのチャハル方言、中国新疆ウイグル自治区などのオイラート方言(オイラト語)などとともに、モンゴル語の方言の一つとされていることもある。

歴史

1923年にブリヤート・モンゴル・ソビエト社会主義自治共和国が樹立されると、ソ連はモンゴル人としてのアイデンティティを弱め、独自の「ブリヤート民族」意識を確立させるため、言語政策を推進した。当初、書き言葉の基礎はモンゴル人民共和国の標準語であるハルハ方言に置かれていたが、汎モンゴル主義への警戒から、ソ連政府はブリヤート語をモンゴル語から切り離す方向へと転換する[2]

まず、1931年からはハルハ方言と東部ブリヤート方言の中間的な特徴を持つセレンゲ方言が書き言葉の基礎とされた。しかし、この方言が全てのブリヤート人にとって理解しやすいわけではなかったことなどを理由に、1936年には東部ブリヤート方言の一つであるホリ方言を書き言葉の基礎とする決定がなされた。これにより、ブリヤート語はモンゴル語とは異なる独自の文語を発達させる路線が確立され、現在に至る標準語の基礎が形成された。

こうした言語の分離政策は、1958年の共和国名からの「モンゴル」の削除[2]といった政治的な動きとも連動していた。その後、ブリヤート語教育が一時的に禁じられる[3]など抑圧の時代を経て、ペレストロイカ期には復興運動が起きるが、教員不足や共和国の住民の7割をロシア人が占める現状から、その勢いは下火となった[3]。共和国政府は、小学校入学の段階でロシア語を学ぶかブリヤート語を学ぶか選択できるとしている[2]ものの、衰退傾向にあり、田中克彦はブリヤート語における学術用語の欠如もその一因として指摘している[2]

起源とツングース語基層説

ブリヤート語が他のモンゴル諸語から独立した言語として分岐した要因の一つとして、この地域に元々居住していたツングース系民族の言語(エウェンキ語など)が基層として影響を与えたという説が有力である。最も重要な言語学的証拠は、モンゴル祖語の語頭の *s が、ブリヤート語では h に変化したという音韻対応である(例:モンゴル語 сар /sar/「月」に対し、ブリヤート語 һара /hara/)。この *s > h という変化は、他のモンゴル諸語には見られない、ブリヤート語を特徴づける極めて重要な現象であり、ツングース語からの影響によって引き起こされたと考えられている。

方言

ブリヤート語の方言は、大きく分けて言語学的特徴に基づく分類と、地理的・国別に基づく分類(言語コード)の2つの観点から整理される。現代の標準ブリヤート語は、東部方言群に属するホリ方言を基礎としている。

言語学的分類

ロシア国内のブリヤート語は、音韻・形態・語彙の体系的な差異に基づき、大きく西部方言群、東部方言群、南部方言群の3つに大別される(Будаев 1978)。

  1. 西部方言群 (Западнобурятское наречие)
  • 分布: バイカル湖の西側を中心に、ニジュネウジンスク、アラル、ウンガ、ボハン、エヒリト・ブラガート、カチュグ、トゥンカ、オカなど多数の下位方言を含む。
  • 特徴: 20世紀初頭まで文字文化や仏教の影響が限定的だったため、標準語(東部方言)とは異なる独自の語彙を多く保持する。
    • 音声: 東部方言(標準語)では合流した短母音の ү と ө を区別する。
    • 語彙: тура (建物)、зудан (森)、хүрэнгэ (馬乳酒)、малгаар (明日) など。
  1. 東部方言群 (Восточнобурятское наречие)
  • 分布: ブリヤート共和国東部、アガ・ブリヤート管区に分布。ホリ方言と北セレンガ方言からなる。
  • 特徴: 標準ブリヤート語の基礎となっており、記事で説明される文法事項は主にこの方言群に基づく。
  1. 南部方言群 (Южнобурятское наречие)
  • 分布: セレンガ川流域を中心に、ツォンゴル、サルトゥール、ハムニガン方言が含まれる。
  • 特徴: 17世紀にモンゴルから移住してきた集団の言語を起源とし、ブリヤート語とハルハ・モンゴル語の移行的な特徴を持つ。
    • 音声: 東部方言の摩擦音に対して、モンゴル語に近い破擦音が対応する。
    • 形態: ハルハ・モンゴル語と同様に、名詞の主格に「不定のн」が現れない。
    • 歴史: 1931年から1936年まで、この方言群のセレンガ方言がラテン文字表記の文語の基礎とされていた。

地理的分類と言語コード

EthnologueおよびISO 639-3では、ブリヤート語は話されている国に基づいて以下の3つの言語コードに分類されている。これらの下位分類は、上記の言語学的方言群と関連している。

  • 中国ブリヤート語【bxu】 65,000人
    • Bargu (bxu-bar)
    • Aga (bxu-aga)
    • Khori (bxu-kho)
  • モンゴルブリヤート語【bxm】 45,100人
    • Khori (bxm-kho)
    • Aga (bxm-aga)
  • ロシアブリヤート語【bxr】 219,000人
    • Barguzin (bxr-bar)
    • Oka (bxr-oka)
    • Ninzne-Udinsk (bxr-nin)
    • Bohaan (bxr-boh)
    • Alar (bxr-ala)
    • Bulagat (bxr-bul)
    • Tunka (bxr-tun)
    • Unga (bxr-ung)
    • Ekhirit (bxr-ekh)

社会言語学的な背景

ブリヤート共和国の都市部での母語能力は78.7%、アガ管区の農村部では95.5%である。都市部のブリヤート人の子供のうち18.1%しかブリヤート語の小学校に通っていないのに対し、村では48.9%である。

文字

ブリヤート語の表記の歴史は、政治的・社会的状況を反映して大きく変遷してきた。

モンゴル文字と初期の試み

ブリヤート人が文字で自らの言語を記録するようになったのは比較的遅く、18世紀にバイカル湖の東に居住するブリヤート族が、仏教の伝来とともにハルハ・モンゴルからモンゴル文字を受容したことに始まる。しかし、この文字の使用は主に仏教界にとどまり、バイカル湖西部のブリヤート族にはほとんど普及しなかった。

B.B.バラディンの提唱した表記法

20世紀初頭には、ブリヤート人知識人による独自の文字創出の試みが現れる。代表的なものに、アグワン・ドルジェフがモンゴル文字を改良して考案したワギンダラ文字(ブリヤート文字)がある。これは母音の曖昧さをなくし、ロシア語の音も表記できるよう工夫されたものであったが、広く普及するには至らなかった。また、同時期に言語学者のB.B.バラディンがラテン文字を用いた表記法を提唱したが、これも定着しなかった。

ラテン文字化

1920年代後半、ソビエト連邦内で少数民族言語のラテン文字化運動が高まると、ブリヤート語もその対象となった。1930年にラテン文字の採用が正式に決定され、翌1931年にはモスクワでブリヤート、モンゴル、カルムイクの代表者が集まり、3言語に共通のラテン・アルファベットが制定された。

キリル文字への移行

1930年代後半にソ連政府の方針が転換し、国内の諸言語をロシア語で用いられるキリル文字に切り替える政策が取られると、ブリヤート語もそれに従った。1939年、ラテン文字は廃止され、ロシア文字の33文字に、ブリヤート語特有の母音と子音を表すための Ө ө, Ү ү, Һ һ の3文字を加えた、全36文字からなる現在のキリル文字アルファベットが導入された。この新しい書き言葉も、1936年に定められたホリ方言を基礎としている。

А а Б б В в Г г Д д Е е Ё ё Ж ж
З з И и Й й К к Л л М м Н н О о
Ө ө П п Р р С с Т т У у Ү ү Ф ф
Х х Һ һ Ц ц Ч ч Ш ш Щ щ Ъ ъ Ы ы
Ь ь Э э Ю ю Я я

正書法の原則

ブリヤート語のキリル文字正書法は、基本的に音素主義(一音素が一文字に対応)だが、いくつかの重要な原則がある。

  • 硬軟の区別: 子音の硬音(非口蓋化音)と軟音(口蓋化音)の区別は、後続する母音字によって示される。а, о, у, ы, э は先行する子音が硬音であることを示し、я, ё, ю, и, е は軟音であることを示す。また、母音が後続しない場合は軟音符 ь を用いて軟音を示す。
  • ロシア語からの借用語: ロシア語から借用された単語は、基本的にロシア語の綴りをそのまま、あるいはわずかに修正して用いる。このため、ブリヤート語本来の単語には見られない文字(ф, к, ц, щなど)や音の並びが借用語には現れる。これらの借用語は母音調和の規則に従わない。
  • 例: фабрика (工場), революци (革命)

ハルハ・モンゴル語との比較

表記面では、キリル文字を使用するが、ハルハ・モンゴル語の表記と若干異なり、һを加えて表記する。また、ハルハ・モンゴル語の破擦音 ж /dʒ/ は、ブリヤート語では対応する摩擦音 ж /ʒ/ となる。

音声面では、ハルハ・モンゴル語で区別されるөとүの区別が短母音では失われ、いずれもүになっている。そのため、ブリヤート語の短母音は6つである。また、ハルハ・モンゴル語の歯擦音は、ブリヤート語では対応する摩擦音になっている。これにともない、жが表すのはブリヤート語では摩擦音である。また、ハルハ・モンゴル語の с [s] は、ブリヤート語では語頭や母音の前で һ [h]、音節末では д [d] になることが多い。

形態面では、ハルハ・モンゴル語では現れない不定のнが主格で現れる(ただし、対格、造格、不定格では脱落、共同格ではどちらも使用)。また、ハルハ方言と異なり、人称代名詞接尾辞化して動詞につき、人称変化が起こる。一人称単数、一人称複数、二人称単数、二人称複数で-б(-м), -бди(-мди), -ш, -тである。

音韻

母音

ブリヤート語には6つの短母音 а, э, и, о, у, ү と、7つの長母音 аа, ээ, ии, оо, өө, уу, үү がある。この他に、二重母音として ай, эй, ой, уй, үй が存在する。ハルハ・モンゴル語とは異なり、短母音の ө は存在せず、ү に合流している。

ブリヤート語のアクセントは、原則として語の第一音節に置かれる。

前舌 中舌 後舌
i
‹и ии›
ʉ ʉː
‹ү үү›
u
‹у уу›

‹ээ›
(ə) ɤ ‹э›
‹өө›
ɔ ɔː
‹о оо›
a
‹а аа›

二重母音の実際音価

二重母音として表記されるものの中には、実際には長母音として発音されるものがある。

  • ай /aj/ は、長母音の ɛː のように発音される。
  • ой /oj/ は、長母音の œː のように発音される。
  • үй /yj/ は、長母音の のように発音される。
  • эй /ej/ は、長母音の ээ と同様に と発音される。

一方、二重母音 уй /uj/ は、舌を前寄りにして発音する二重母音 u̟ɪ として実現される。

母音調和

母音調和と呼ばれる第二音節以降に出現可能な母音に関する制限規則が存在する。具体的にはа, о, уからなる男性母音とү, ө, эからなる女性母音は一つの語の中で共存できない。中性母音の и はどちらのグループの語にも現れることができる。そのため接尾辞にはа~о~э、аа~оо~ээ~өө、ай~ой~эй、уу~үүが交代する。文法セクションではこの母音交代をа3(өは短母音として現れない)、аа4、ай3、уу2と略記する。

子音

ブリヤート語には以下の子音がある。ハルハ・モンゴル語の歯擦音(ц [tsʰ], з [dz], ч [tʃʰ], ж [dʒ])の多くが、ブリヤート語では対応する摩擦音(с [s], з [z], ш [ʃ], ж [ʒ])として現れるのが大きな特徴である。また、ハルハ・モンゴル語の с [s] は、ブリヤート語では語頭や母音の前で һ [h]、音節末では д [d]になることが多い。また、ブリヤート語には硬子音と軟子音の区別が存在する。軟子音は、後続する母音が軟母音字 и, е, ё, ю, я である場合や、子音の後に軟音符 ь が付くことで示される。この区別は単語の意味を区別する上で重要である。(例:бар [bar]「虎」 vs. барь [barʲ]「持て」)また、nは語末と軟口蓋音の前で[ŋ]となる。

この硬軟の対立は、特にロシア語からの影響で正書法上も区別されるようにった。この区別を示す上で重要なのが、母音字иыの対立である。иは先行する子音が軟子音であることを示し、ыは先行する子音が硬子音であることを示す。この関係は、後続する母音によって子音の硬軟が示されるロシア語の正書法に近く、ブリヤート語の音韻体系を理解する上で重要な点である。これは、同じキリル文字を用いるハルハ・モンゴル語とは異なる特徴である。モンゴル語では、ыは男性語の属格語尾などに現れ、発音もийと同じであるが、ブリヤート語ではыは明確に硬子音に後続する独立した母音として機能する。

子音表 (IPA)(借用語のみにあらわれる音素は省略してある)
両唇音 歯茎音
後部歯茎音
硬口蓋音
軟口蓋音 声門音
鼻音 м [m] н [n] (н [ŋ])
破裂音 п [p], б [b] т [t], д [d] г [ɡ]
摩擦音 с [s], з [z]
ш [ʃ], ж [ʒ]
х [x] һ [h]
側面音 л [l]
ふるえ音 р [r]
半母音 й [j]

形態音韻論的現象

ブリヤート語では、н /n/ で終わる語幹に、б /b/ や г /g/ で始まる接尾辞が続く際に音変化が起こる。

n + b → m + b: н で終わる語幹に、1人称単数の人称語尾 -би が付く場合、н は両唇音である б の影響で、同じ両唇鼻音の м /m/ に変化する。

  • хүн (人) + -би (私は~だ) → хүмби (私は人間だ)

n + g → ng + g: н で終わる語幹に、г で始まる接尾辞が付く場合、語幹末の н は軟口蓋鼻音の н [ŋ] として発音される。

文法

統語

ブリヤート語は類型論上膠着語に分類される。語順は日本語と同じく「主語―補語―述語(SOV)」の順、修飾語は被修飾語の前に置かれる。基本的な文法は一貫して「修飾語-被修飾語」の語順である。

Би буряад хэлэ үзэхэб. (私はブリヤート語を学ぶ)
主語 修飾語 被修飾語

補 語

述語

ただし、ブリヤート語の語順は比較的柔軟であり、文脈や強調したい点に応じて語順を変化させることができる。特に、文の主題や焦点を明確にするために、目的語や補語が文頭に置かれることがある。ブリヤート語には主題を明示する専用の格標識はないが、助辞болを用いて主題を提示することができる。また、語順の変更によって主題を文頭に置くことも可能である。主題は必ずしも主語と一致せず、目的語や場所など文の他の要素が主題となることもある。

  • Энэ номые бол би уншаа һэм. (この本については私は読んだのだ。)

また、関係代名詞がなく代わりに動詞が連体形を取って名詞を修飾するのも日本語と同様である。

Минии үзэдэг хэлэн (私が学んでいる言語)
主語 連体形 名詞

日本語の連体形は(現代標準語では)形式名詞なしに助詞を伴うことができないが、ブリヤート語の連体形は、それ自体が名詞のように振る舞う。

  • Би үглөөдэр ябахаар шиидэбэб. (私は明日行くこと決めた。)

また、ブリヤート語には、ある単語の最初の子音を м に置き換えた単語を繰り返すことで、「~など」といった包括的な意味合いを表す畳語表現が存在する。繰り返される後半の単語はそれ自体では意味をなさない。

  • Би дэлгүүрһээ хяаһа мяаһа абааб. (私は店でソーセージか何かを買った。)

所有・存在表現

ブリヤート語には「持つ」という独立した動詞がなく、「所有」と「存在」は、所有物と所有者の関係性に応じて、主に所有接辞構文と存在構文という2つの異なる構文で表現される。

所有接辞構文

身体的特徴、年齢、性格、才能といった、所有者から切り離せない不可譲な属性や、その物の恒久的な特徴を示す場合は、所有物を表す名詞に所有接辞 -тай/-тэй を付けて表現するのが基本である。この構文は、所有物が所有者の「特徴」や「属性」であることを示す。

  • 身体的特徴: тэрэ хүхэ нюдэтэй (彼女は青い目をしている)
  • 年齢: тэрэ хорин хоёртой (彼は22歳だ)
  • 才能: тэрэ бэлигтэй (彼は才能がある)
  • 場所の特徴: энэ газар ехэ шулуутай (この土地は石が多い = 石だらけの土地だ)

これらの場合、存在動詞 байна などを用いた存在構文で表現することは、不自然に聞こえるか、全く異なる意味になる 。

  • (誤) тэрэ хүндэ бэлиг байна (彼には才能がある) (正) тэрэ хүн бэлигтэй

存在構文

所有者から分離可能な可譲物の存在や、一時的な所持を表す場合は、主に存在動詞を用いた存在構文で表現される。特に、一時的な状況や話し手が新たに認識した情報については байна が用いられる。

  • 一時的な存在: шэрээ дээрэ ном байна (机の上に本がある)
  • 一時的な所持: (шамда) ручка байна гү? ((君のところに)ペンはありますか?)

使い分けのニュアンスと重複

可譲物の場合、所有接辞構文と存在構文の両方が使えることがあるが、そこには微妙なニュアンスの違いが存在する。

「特徴」としての所有 vs 「単なる存在」
所有接辞 -тай は、所有物がその場所や人の「特徴」をなしている場合に好まれる。一時的にそこにあるだけのものには使われない。
  • (自然) энэ газар олон шулуутай (この土地は石が多い) ← 石が多いのが土地の特徴。
  • (不自然) шэрээн халбагатай (スプーンのある机) ← スプーンの存在は机の特徴ではない 。
  • (文脈次第) энэ таһалга гурбан һандалитай (この部屋は椅子が3つだ) ← これだけだと少し不自然だが、「あの部屋は4つだが、この部屋は3つだ」という対比の文脈があれば、部屋の「特徴」として自然に使える。
「着用の状態」 vs 「所有」
服やメガネなど身につけるものの場合、所有接辞 -тай は「所有していること」(例:家に持っている)を示し、「今まさに身につけている状態」は動詞の活用形で表現するのが一般的である。
  • тэрэ хүн хүхэ костюмтай (彼は青いスーツを持っている)
  • тэрэ хүн хүхэ костюм үмдэнхэй (彼は青いスーツを着ている)
「恒常的な状態」 vs 「一時的なプロセス」
病気についても、恒常的な属性か一時的なプロセスかで表現が分かれる。
  • тэрэ үбшэн (彼は病人だ) のように名詞述語文が使われる 。үбшэнтэй хүн という形は「馬鹿者」という意味になるため使えない。
  • 一時的な「発熱」は、тэрэ жаа халуунтай (彼は少し熱がある) とも言えるが、プロセスを強調する動詞表現 тэрэ халууржа байна (彼は熱を出している) の方がより一般的である。

名詞

ブリヤート語では名詞が並列される場合、何もつけずに並べることが多い。より明確に接続を示す場合は、接続詞баを用いることもある。名詞の複数形は接尾辞-ууд2-нууд2-нар(主に人間)などを付けることで表されるが、使用は義務的ではなく省略されることが多い。名詞を繰り返すことで、「~たち」という複数の意味や、「~ごと」という配分(distributive)の意味を表すことがある。

  • ном (本) → номууд (本〈複数〉)
  • залуу (若い人)→ залуушуул (若者たち)
  • аймаг аймаг (県々、各県)

接尾辞-ханは、特定の場所や属性を持つ人々の集団を指すのに用いられることがある。

  • гадаада (外国) → гадаадынхан (外国人たち)

格変化

名詞の格変化は語幹の後ろに膠着的な格語尾が付くことによって表される。格語尾は母音調和の規則に従って交替する。ブリヤート語の名詞の特徴は、歴史的に語末にあった н(いわゆる不定のн)が主格において保存されている点である。モンゴル語ではこのнは主格では脱落し、属格・与位格・奪格などの斜格で復活するが、ブリヤート語では主格の時点でで終わる形が基本形となる。(ただし、これは主に標準語である東部方言の特徴であり、ハルハ・モンゴル語との移行地帯にある南部方言群では、主格の不定のнは現れない。)こ属格・与位格・奪格などの斜格でも不定のнが付く。ここでは不定のнが付く形に下線を附している。

主格
語尾なし。「不定のн」がある場合、それを保持する。
主語や、名詞述語文の述語となる。
属格
語尾は子音で終わる語幹には-ай3。長母音で終わる語幹と軟口蓋音ので終わる語幹には-гай3。短母音-а, -э, -оで終わる語幹には-ын-и, -е, -я, -ий, -ияで終わる語幹には-иин。二重母音や長母音-ы、-ииで終わる語幹には
所有者や修飾語における動作主を表す。
対格
語尾は-ы(е)。ただし、-и, -ия、-я、-ии、-е、安定したで終わる語幹には-ии(е)。二重母音や長母音で終わる語幹にはで終わる語幹には-гы(е)
定目的語(特定されている目的語)を表し、目的語をはっきりと示す必要があるときに用いられる。
  • Намайе ерэхэдэ, тэрэ байбагүй. (私来たとき、彼はいなかった。)
(不定格)
主格と同形。ただし不定のнがあれば、それを取り除く。
不特定の目的語が動詞の直前に来る場合に用いられる。
与位格
子音のл, м, н, ж, з、全ての母音、2つまたは3つの子音で終わる語幹の後では-да3、それ以外では-та3が付く。
動作の受け手(与格)も動作の行われる場所(位格)もこの格を用いる。場所だけでなく、特定の時点(時間)を示すのにも用いられる。
具格
語尾は-аар4。ただし、-ь, -иで終わる語幹には-яар4。二重母音や長母音で終わる語幹には-гаар4
道具・手段・材料・原因・経路を表す。使役文における動作主も具格を用いる。
奪格
語尾は-һаа4
時間的・空間的な起点や理由、比較の対象を表す。部分を表す場合もある。
共格
語尾は-тай3
共同でおこなう相手を表す。また、主体となる人や物の持ち物や性質を表し、「~を持っている」という意味になる場合があり、この場合は形容詞派生接尾辞とみなすこともできる。この用法においては、共格が述語となることが可能である。
ブリヤート語には「好む」に直接対応する単純動詞がなく、「好み」という意味の名詞 дуран と共格接尾辞 -тай を組み合わせた派生形容詞 дуратай (好みがある=好きな) を用いて表現する。対象は与位格で示す。嫌いな場合は、欠格の -гүй を用いて дурагүй (好みがない=嫌いな) となる。
Би номдо дуратайб. (私は本好きだ。)
年齢を言う際も、年齢を意味する名詞 наһан に共格接尾辞を付けた наһатай (~歳を持っている) を用いる。
Би хорин наһатайб. (私は20歳だ。)
欠格
-гүй(母音調和しない)
格とみなされないことが多い。共格とは逆に、「持っていない」ことを表す。
向格
標準的には -руу。分かち書きをすることが多い。
格とみなさない場合もある。方向を表す。

以下に、語幹のタイプが異なる名詞の格変化の例を示す。

名詞の格変化の例
ном (本)子音語幹 эжы (母)長母音語幹 модон (木)н語幹 далай (海)二重母音語幹
主格 ном эжы модон далай
属格 номой эжын модоной далайн
対格 номые эжые модые далайе
与位格 номдо эжыдэ модондо далайда
具格 номоор эжыгээр модоор далайгаар
奪格 номһоо эжыһээ модонһоо далайһаа
共格 номтой эжытэй модонтой далайтай
  • Хаанаһаа ерээбши? (どこから来たのか?)
  • Улаан-Үдэһөө ерээб. (ウラン・ウデから来た。)

属格語尾の後ろに-хиが付くことで、「~のもの」という所有を表す名詞を作ることができる。これにさらに他の格語尾が後続する形が見られる。

минии (私の) → миниихи (私のもの)
  • Миниихиһээ (私の(もの)から)
  • Тэрэнэйхитэй (彼の(もの))

名詞述語文においては、現在時制ではコピュラ動詞は通常省略される。ただし、断定や説明のニュアンスを込めて、юм が用いられることもある。過去や未来を表す場合はбайхаの活用形を用いる。

  • Би багшаб. (私は教師だ。)
  • Би багша юм. (私は教師なのだ。)
  • Би багша байгааб. (私は教師だった。)

再帰と人称所属語尾

ブリヤート語では、主語以外の名詞類が「主語と関係がある」か否かを表現する必要がある。このうち「主語と関係がある」ことを示すのが再帰語尾である。主語が所有・管理するもの、主語の身体の一部や親族など、主語と何らかの繋がりを持つ名詞句に接続される。語尾は-аа4。目的語に付く場合は対格接尾辞は脱落する。属格に付く場合は-(н)гаа4。二重母音の後(すなわち共格と属格の一部)に付く場合は-гаа4。奪格の後に付く場合は-н。

  • Би номоо уншааб. (私は自分の本を読んだ。)
  • Тэрэ эжытэеэ ябаа. (彼は(自分の)母と一緒に行った。)

所有物だけでなく、主語が管理・操作する対象にも用いられる。

  • Үүдэеэ нээгыт. ((あなたが管理すべき)ドアを開けてください。)

文中に主語と関係するものが複数ある場合、それぞれに再帰語尾を付けることができる。

  • Би сүмкэһөөгөө түлхюурөө гаргааб. (私は(自分の)カバンから(自分の)鍵を取り出した。)

人称所属語尾は名詞に接尾し、その名詞が文の主語以外の特定の人称と関係があることを示す。1人称単数-(м)ни、2人称単数-шни、3人称-нь、1人称複数-(м)най、2人称複数-тнайがある。1人称の(м)は、具格でのみ脱落し、その他の格では保持される。3人称-ньは、нでおわる属格に後続する場合はそのнを脱落させる。主格形においては、子音で終わる単語の場合は-ньではなく-ынь, -иинを後置する。これら人称関係小詞が、文の主語以外の所有者(聞き手や第三者など)を示すのに対し、前述の再帰語尾 -аа4 は、その文の主語自身の所有物であることを明確に示す点で機能が異なる。

  • Тэрэ номоо уншаа. (彼は自分の本を読んだ。) ← 主語「彼」の所有物
  • Тэрэ номыень уншаа. (彼はその人の本を読んだ。) ← 主語「彼」以外の第三者の所有物

語形成

ブリヤート語では、接尾辞を語幹に付加することで、ある品詞から別の品詞の単語を派生させることが頻繁に行われる。以下に代表的な派生接尾辞を挙げる。

動詞から名詞を派生
-гша3: 動作主を表す。「~する人・もの」
  • бэшэхэ (書く) → бэшэгшэ (作家、書く人)
  • һураха (学ぶ) → һурагша (生徒)
-л,-дал3,-лга3: 動作やその結果を表す。「~すること」
  • ябаха (行く) → ябадал (出来事、行くこと)
  • шэнжэлхэ (研究する) → шэнжэлгэ (研究)
тан3: 「~を持つ人」
  • гуурһатан (ペンを持つ人→文筆家)
名詞から動詞を派生
-л-: 「~をする」
  • ажал (仕事) → ажаллаха (働く)
  • нэрэ (名前) → нэрлэхэ (名付ける)
名詞から形容詞を派生
-тай3: 「~を持つ、~のある」。(共格の -тай)
  • һахал (ひげ) → һахалтай (ひげのある)
  • хүсэн (力) → хүсэтэй (強い)
-гүй: 「~のない」。(欠格の -гүй)
  • уһан (水) → уһагүй (水のない)
-лиг: 「~のような性質を持つ」
  • мяхан (肉) → мяхалиг (肉付きのよい)

代名詞・指示詞・疑問詞

人称代名詞には1人称単数би、1人称複数бидэ 、2人称単数шиおよびта、2人称複数таанар、3人称単数тэрэ、3人称複数 тэдэがある。2人称単数ши親称та敬称である。1人称複数属格には бидэнэйманайがある。бидэнэйは聞き手を含まない「私たちの」(排除形)を表すことが多いのに対し、манайは聞き手を含む「私たちの」(包括形)の意味で使われることがある。しかし、манайの中心的な機能は「私たちの家(манай гэр)」「私たちの国(манай орон)」のように、話し手が所属し親近感を抱いている対象を示すことにある。同様の親近感を示す用法で、2人称複数ではтанайを使うことがある。

  • Ши япон хүн гүш? (は日本人か?)
  • Та япон хүн гүт? (あなたは日本人ですか?)

指示詞は近称と遠称の2系列からなる。энэ(これ)― тэрэ(それ)、эндэ(ここ)― тэндэ(そこ)、などがある。 これらに加え、聞き手と話し手の間で既に話題に上っている特定の対象を指すнүгөө がある。日本語の「例の~」「あの~」に近い。

  • Нүгөө хүн ерээ гү? (例の人は来ましたか?)

人称代名詞は不規則な格変化をする。

格変化表
би (私) бидэ (私たち) ши (君) та (あなた) энэ (これ) тэрэ (それ)
主格 би бидэ ши та энэ (これ) тэрэ (それ)
属格 минии бидэнэй / манай шинии танай
対格 намайе бидэниие шамайе таниие
その他の斜格 нам- бидэн- шам- тан- энээ- тэрээ-

疑問詞には хэн(誰)、юу(何)、хаа(どこ)、али(どの)、ямар(どんな)、хэды(いくつ)、хэзээ(いつ)、яаха(どうする)などがある。хэнюухаанаは名詞であるため格変化をする。 疑問代名詞に助辞шьеが付くと、「~も」「~でも」という意味の不定代名詞として機能する。否定文で使われると全面否定を表す。

  • Эндэ хэн шье үгы. (ここに誰もいない。)
  • Би юу шье эдеэгүйб. (私は何も食べなかった。)

疑問詞を用いないYes/No疑問文は、文末に疑問助辞гүを付けることで形成される。一方、疑問詞(хэн, юуなど)を含む疑問文では、文末に疑問助辞бэが付く。ただし、母音で終わる語にはが付く。

  • Та һайн байна гүт? (お元気ですか?)
  • Энэ танай ном гү? (これはあなたの本ですか?)
  • Энэ хэнэй ном бэ? (これは誰の本ですか?)

数詞

ブリヤート語の数詞は基数詞と序数詞に分けられる。基数詞は以下のように形成される。1から10まではнэгэнхоёргурбандүрбэнтабанзургаандолооннайманюһэнарбанである。11以上は十進法をベースに形成される。序数詞は基数詞に -дахи3を付けて作られる。ただし「第一」はнэгэдэхиではなくтүрүүшынを用いることが多い。数詞は名詞を修飾する際、通常名詞の前に置かれ、名詞は通常単数形で現れる。

  • гурбан ном (三冊の本) ← гурбан номууд にはならない
集合数詞
「~人で」といった意味を表す。基数詞に-уула(н)2を付けて作る。
хоёр (2) → хоюулан (二人)
Бидэ гурбуулан ябаабди. (私たちは三人で行った。)

形容詞

形容詞は語形変化をしない不変化詞である。名詞を修飾したり、述語となったりする。格接尾辞をつけて名詞的に用いられることがある。比較級をもたない。形容詞の時制を示すためにはコピュラ動詞であるбайхаを後接して変化させる。

  • Минии эжы гоё. (私の母は美しい。)
  • Минии эжы гоё байһан. (私の母は美しかった。)

接尾辞-хан4を付けることで、元の形容詞に指小的なニュアンスを加えることができる。

  • бага (小さい) → багахан (ちっちゃい)

比較表現

形容詞に比較級・最上級の語形変化はないが、比較表現は奪格(-һаа4)を比較の基準として用いて行う。

  • Энэ ном тэрэ номһоо һонин. (この本はあの本より面白い。)

最上級は、比較対象を「すべて」などを意味する言葉(бүхы, эгээなど)にすることで表現する。

  • Энэ эгээ һонин ном. (これが一番面白い本だ。)

動詞

動詞は語幹に動詞語尾を伴って終止形・連体形(形動詞)・連用形(副動詞)になる。命令形は文法形式上終止形として現れる。動詞の辞書形は語幹に連体形語尾-хаが接続したものである。ブリヤート語の動詞の大きな特徴は、主語の人称と数に応じた接尾辞が付く点である。

接尾辞 意味 日本語訳
陳述/終止形
-ха3 未来 〜する
-на3 現在未来 〜する、〜だろう
-ба3 過去(客観・報告) 〜した
-лай3 宣言的な過去 ~したのだ
-(г)аа4 過去(直接経験、完了) 〜した
-нхай3 遠過去 (以前に)~した
(ゼロ語尾) 命令(対等・目下) 〜しろ
-(г)ы 依頼・丁寧な命令 〜してください
第三者への命令 〜するがいい
-хуу2 意志 〜しよう
3 勧誘 〜しよう
-(г)аарай4 願望 〜ますように
-һай3 願望 〜したらいいなあ
-тагай3 祈願 〜ますように
形動詞/連体形
-ха3 未来 〜する(ための)
-даг3 現在 〜する(習慣・反復)
-һан3 過去 〜した
-нхай3 遠過去 (以前に)~した
-(г)аа4 未完了 〜している
-(г)аатай4 受動 ~された
-хаар4 可能 ~し得る
-маар4 性質 ふさわしい
副動詞/連用形
-жа3 不完了 〜して
-(г)аад4 完了 〜してから
複合 〜して
-һаар4 継続 〜し続けて
-нгаа4 同時 〜しながら
-халаар4 随伴 〜すると
-мсаар4 即時 〜するやいなや
-тар3 限界 〜するまで
-бал3. 条件 〜すれば
-нхаар3 選択 〜するより
-хаяа4 目的 〜するために
-хыса3 程度 〜するほど

-наは、未来の出来事だけでなく、一般的な真理、反復的な習慣、話し手の現在の意図など、恒常的な事柄を広く表す。現在進行中の動作は通常、後述の複合構文-жа байнаで表現される。

過去を表す終止形には主に-аа, -баがあるが、話者が事態をどう捉えているか、情報をどのように得たか(証拠性)によって使い分けられる。

  • -ба: 客観的な事実や、話者が直接関与していない出来事を報告する過去形。新聞や歴史の記述などで多用される。
  • -аа: 話者が直接見聞きし、経験した出来事を述べる過去形。完了のアスペクトを持ち、話者の認識が強く反映される。

動詞の派生接辞

動詞の派生接辞は、など様々な文法範疇を示す働きをする。

接尾辞 意味 日本語訳
ヴォイス
-гда3-. 受動 〜される
-уул2- / -лга3-. 使役・他動詞化 〜させる
-лда3-. 相互 互いに~しあう
-лса3-. 協働 一緒に〜する
アスペクト
-ша3- 完了 〜してしまう
-сагаа4- 随時 時々〜する

述語の人称語尾

ブリヤート語の文の述語の末尾には、主語の人称と数を示す語尾が付加される。スラッシュを付けたものは、左側が母音語幹に付く形で、右側が子音語幹に付く形である。

述語人称語尾
人称 単数 複数
1人称 -б(-м) / -би -бди(-мди, -ди)
2人称 -ш / -ши -т / -та
3人称 (語尾なし) -д(しばしば省略される)

その他の品詞と機能語

否定

否定 用法 意味
бэшэ 名詞述語文 ~ではない
буса 名詞・形容詞を修飾 ~でない(連体修飾)
алга 存在の否定 ない、いない
үгы 所有の否定・応答 ない、いいえ
-гүй 動詞の連体形に接続する否定 ~ない
-гүй 名詞の欠格 ~を持っていない
битгий, бү 動詞に前置する禁止 ~するな
эсэ 動詞連用形に前置する否定 ~せず

動詞の否定は動詞連体形に-гүй(母音調和しない)を用いる。

  • Би мэдэхэгүйб. (私は知らない。)
  • Би уншаагүйб. (私は読まなかった。)

後置詞

後置詞は名詞の後ろに置かれ、格語尾だけでは表せない空間的・時間的関係などを示す付属語である。後置詞は特定の格を要求することが多い。

属格を要求する後置詞
тухай (~について), урда (~の前に), хажууда (~のそばに)
  • шэрээнэй урда (机の前)
与位格を要求する後置詞
хүрэтэр (~まで)
  • үглөөгүүртэ хүрэтэр (朝まで)
奪格を要求する後置詞
хойшо (~以降), урда (~より前に)
  • үсэгэлдэрһөө хойшо (昨日以降)
共格を要求する後置詞
суг (~と一緒に), зэргэ (~と共に)
  • нүхэртэй суг (友達と一緒に)
主格を要求する後置詞
дээрэ (~の上に), дотор (~の中に), соо (~の中に)

接続詞

һаа: 動詞の連体形(-һан, -ха, -дагなど)や副動詞形(-аа)に後続し、「もし~なら」という条件節を作る。

  • {lang|bxr|Тэрээнэй ерээ һаа, яахабибди?}} (もし彼が来たなら、どうしようか?)

-шье һаа: 連体形や形容詞などに助辞-шьеを挟んでһааが後続すると、「~だけれども」「~であっても」という譲歩節を作る。これはгэбэшьеболобошьеと類似の機能を持つ。

  • Хэды залуушье һаа (どんなに若いけれども…)
али
「あるいは」「~か、さもなければ~か」という選択肢を示す。
  • Дархалхынгаа гү, али шүлэг зохёохынгоо... (鍛冶をすることか、あるいは詩を作ることか...)

接続詞にはхарин(しかし)、тиимэһээ(だから)などがある。動詞гэхэ(言う)やболохо(なる)に由来する接続詞も多い。

  • гэбэшье (しかしながら) < гэхэ + -бэшье
  • болобошье (〜だが、しかし) < болохо + -бэшье

また、引用を表す副動詞гэжэは、思想や発話の内容を示すだけでなく、目的(~しようと)や様態(~というふうに)を表すのにも広く用いられる。

  • Тэрэ "байна" гэжэ хэлэһэн. (彼は「いる」と言った。)
  • Би ном уншая гэжэ һанааб. (私は本を読もうと思った。)

助辞

助辞は単語や文末に付き、強調、断定、確認、詠嘆など様々なニュアンスを加える。
бол, һаа
主題を提示するのに用いられる。「は」の意。
Харин би бол ябахаб. (一方、私は行きます。)
Би һаа хэлэхэгүй һэм.(私なら言わなかっただろう。)
баһа
「~もまた」という意味で、日本語の「も」に近い働きをする。
Би баһа оюутанби. (私も学生です。)
-шье, -лэ
直前の語に焦点をあてる。-шьеは「~も、~さえ、~でも」、лэ(母音で終わる語には)は「ただ~だけ、まさしく~」といった限定・強調の意を持つ。
Бишье мэдэхэб. (私も知っている。)
Бил мэдэхэб. (私だけが知っている。)
юм
名詞述語文で断定や説明の意を加えたり、動詞の連体形について事柄を名詞化し、「~なのだ」「~ということだ」というニュアンスを表したりする。
Тэрэ ерэһэн юм. (彼は来たのだ。)
һэн
過去の事柄を示す助辞として機能し、「~だった」という意味を表す。 主語が1人称単数の場合は、һэмが用いられる。
Тэрэш армида һэн. (彼は軍隊にいた。)
Нүхэршни ерээ һэн. (君の友達はもう来ていたよ。)
Би тиигэжэл бодоо һэм. (私はそのように思ったのだ。)
бэлэй
過去のコピュラ助辞の一つ。һэнが単なる過去の事実を示すのに対し、бэлэйは「(以前は)~したものだったなあ」という話し手の回想・懐古のニュアンスを強く持つ。
  • үзэсхэлэн һайхан болгодог бэлэй. (美しくしていたものだ。)
бшуу (шүү)
文末に付き、「~なのだ」「~ですよ」と事柄を強調し、断定する意を表す。
  • арга хүсэн байгаа бшуу. (能力があったのだ。)
-дал
名詞や動詞の連体形に付き、「~のように」という比喩・比較を表す。
  • дали ургаһандал болодог. (翼が生えたかのようになる。)
даа
詠嘆や、聞き手への同意を求めるような、穏やかな妥当化を示す。「~よね」の意。
ха
文末に付き、その情報が伝聞や状況証拠に基づく推量であることを示す。「~だそうだ」「~のようだ」というニュアンスを持つ。

話法

ブリヤート語では、他者の発話や自己の思考を引用する際、引用節の末尾に動詞 гэхэ (言う) の副動詞形である гэжэ を置いて示す。これを引用標識と呼ぶ。話法には、引用部分をそのままの形で埋め込む直接話法と、引用部分の形を一部変えて埋め込む間接話法がある。

直接話法

直接話法は、(引用文) гэжэ (主文の述語動詞)という形式で表される。 Эмшэн намда "Энэ эмые уу" гэжэ хэлэһэн. (医者は私に「この薬を飲みなさい」と言った。)

間接話法

間接話法も гэжэ を用いる点は同じだが、引用節内の人称や指示詞は、主文の視点に合わせて変更される。ハルハ・モンゴル語では、従属節の主語が主文の主語と異なる場合、その主語を対格で示すが、ブリヤート語では対格を用いず、主格または属格で示されるのが特徴である。

文の拡張と表現

ブリヤート語では、動詞の様々な形(副動詞、形動詞)や補助動詞、助辞などを組み合わせることで、文を長く連結したり、複雑な意味や話し手のニュアンスを加えたりすることができる。

節の連鎖(副動詞構文)

ブリヤート語の統語論における大きな特徴は、副動詞(連用形)を用いて複数の節(文)を鎖のように繋ぎ、文末に置かれた一つの定動詞(終止形)で完結させる「節の連鎖」構造である。

  • Би үглөө бодожо, сайгаа уугаад, хубсаһаа үмдэжэ, һургуулидаа ябааб. (私は朝起き、お茶を飲んでから、服を着、学校へ行った。)

複合構文(補助動詞)

連用形・連体形に補助動詞等を後置することで、様々なアスペクトや法(モダリティ)を表現することができる。

-жа байха
進行・継続を表す。副動詞形-жабайхаを後置する。
「~している」いう意味を表す。
  • Би ном уншажа байнаб. (私は本を読んでいる。)
  • Тэрэ хэшээлээ хэжэ байһан. (彼は勉強していた。)
-жа орхихо
完了・完遂を表す。副動詞形-жаорхихо(置く、捨てる)を後置する。
日本語の「~してしまう」に近い。
  • Би мартажа орхибоб. (私は忘れてしまった。)
-ха болохо
変化・決定を表す。動詞の連体形-хаболохо(なる)を後置する。
「~することになる」という意味を表す。
  • Би үглөөдэр ябаха болобоб. (私は明日行くことになった。)
-даг байха
過去の習慣・反復を表す。動詞の現在連体形-дагбайхаの過去形を後置する。
「(以前は)よく~したものだ」という意味を表す。
  • Би багадамдаа эндэ наададаг байгааб. (私は子供の頃、ここでよく遊んだものだ。)
-ха ёһотой
義務・当為を表す。動詞の連体形-хаёһотой(道理、べき)を後置する。
「~すべきだ」「~のはずだ」という意味を表す。
  • Би ябаха ёһотойб. (私は行くべきだ。)
-ха хэрэгтэй
必要性を表す。動詞の連体形-хахэрэгтэй(必要だ)を後置する。
「~する必要がある」という意味を表す。
  • Би амараха хэрэгтэйб. (私は休む必要がある。)
-ха гэжэ байха
意図・近未来を表す。
「~するつもりだ」「~しようとしている」という意味を表す。
  • Би ябаха гэжэ байнаб. (私は行こうとしています。)
-ха байха
推量を表す。
「~だろう」という意味を表す。
  • Үглөөдэр бороо орохо байха. (明日は雨が降るだろう。)
-һан байха
動作の結果存続を表す。
「~している状態だ」という意味を表す。
  • хаагдаһан байна (閉じ込められている。)
-жа шадаха
可能を表す。副動詞形-жашадахаを後置する。
「~することができる」という意味を表す。
  • Би буряадаар хөөрэлдэжэ шадахаб. (私はブリヤート語で話すことができる。)
-жа болохо
許可・可能を表す。副動詞形-жаболохоを後置する。
「~してもよい」「~することができる」という意味を表す。
  • Эндэ һуужа болохо гү? (ここに座ってもいいですか?)
-жа үгэхэ
恩恵を表す。副動詞形-жаүгэхэ後置する。
「~してあげる」という意味を表す。
  • Би танда туһалжа үгэхэб. (私があなたを手伝ってあげよう。)
-жа абаха
自益を表す。副動詞形-жаабаха(取る)を後置する。
「~してもらう」「~しておく」という意味を表す。
  • Би номые уншажа абааб. (私は本を読んでおいた。)
-жа үзэхэ
試行・経験を表す。副動詞形-жаүзэхэ(見る)を後置する。
「~してみる」という意味のほか、「~したことがある」という経験を表す用法も頻繁に用いられる。
  • Эниие эдижэ үзэ. (これを食べてみて。)
  • Би буряад хоол эдижэ үзөөб. (私はブリヤート料理を食べたことがある。)

準副詞節的構文(分詞+格)

日本語の「~の時」「~のため」といった副詞節に相当する内容は、動詞の連体形に与位格や奪格などの格語尾を付けて表現される。

  • хүгшэрхэдэ (年老いると): 未来連体形 -хэ + 与位格 -дэ
  • ерэһэндэ (来たので): 過去連体形 -һэн + 与位格 -дэ

敬語

ブリヤート語には、日本語ほど体系的ではないものの、敬意を示す表現が存在する。人称代名詞における親称 (ши) と敬称 (та) の使い分けが最も基本的である。このほか、特定の動詞や名詞をより丁寧な語彙に置き換える語彙的敬語もある。

  • 例: эдихэ (食べる) → зооглохо (召し上がる)
  • 例: унтаха (寝る) → нойрсохо (お休みになる)
  • 例: нэрэ (名前) → алдар (御名)

定型表現

ブリヤート語には日常会話で頻繁に用いられる定型表現が存在する。

  • Һайн байна! (こんにちは) - これに対する返答も Һайн. (良いです) となる。
  • Баярлаа. (ありがとう)
  • Зүгээр. (どういたしまして、大丈夫です)
  • Хүлисэл гуйнаб. (ごめんなさい)
  • Баяртай. (さようなら)
  • Тиимэ. (はい), Үгы. (いいえ)
  • За. (はい、わかった、どうぞ) - 文脈に応じて様々な意味で使われる極めて頻度の高い応答詞。

語彙

ブリヤート語の語彙は、モンゴル諸語に共通する基本的な語彙を核としながらも、歴史的な言語接触を反映した多層的な構造を持ち、長い歴史的経緯から、ブリヤート語には多様な言語からの借用語が存在する。

テュルク語ツングース語
古くは、隣接するテュルク系(ヤクート語、トゥバ語など)やツングース系(エウェンキ語)の言語から、シベリアの自然環境や生活文化に関する語彙を借用した。
チベット語中国語
東部ブリヤート人におけるチベット仏教の受容に伴い、チベット語から宗教・学術用語が、また中国語から物質文化に関する語彙がモンゴル語を介して流入した。現代でも人名にチベット語由来のものが多く見られる。
ロシア語
近代以降、学術用語、政治・経済用語、日常生活に関わる多くの語彙がロシア語から取り入れられている。古くに借用され、ブリヤート語の音韻に完全に同化した単語(例: хилээмэн < хлеб「パン」)と、近年借用されロシア語の綴りに近い形で用いられる単語が混在する。これらの新しい借用語は母音調和の規則に従わないことが多い。
  • 例: фабрика (工場), революци (革命), кафе (カフェ)

音象徴語

ブリヤート語の語彙の豊かさを示す特徴として、擬音語・擬態語などの音象徴語 (sound symbolism) が極めて発達している点が挙げられる。これは他のシベリアの言語にも見られる特徴である。

  • палхаганаха: 背が低く太った人が動く様子。
  • таршаганаха: パチパチと乾いたものが割れたり燃えたりする音。
  • торшогонохо: ガチャンと何かが壊れる音。

地名

ブリヤートの地名には、гол (川)、мүрэн (大河)、нуур (湖)、дабаан (峠) といった地理を示す名詞や、хара (黒)、шара (黄)、улаан (赤)、сагаан (白) といった色を表す形容詞が用いられることがある。

関連項目

脚注

  1. ^ Ethnologue.com: Altaic
  2. ^ a b c d “【国境と民】ロシア・ブリヤート共和国から考える”. 産経新聞. (2004年1月15日) 
  3. ^ a b “ロシア・ブリヤート共和国:「チンギス・ハンの子孫」も生活変化 伝統の継承困難”. 毎日新聞. (2008年11月15日) 

参考文献

外部リンク

辞書



bua

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/23 03:21 UTC 版)

ISO 639 マクロランゲージ」の記事における「bua」の解説

bua は、ブリヤート語のためのISO 639-3 言語コードである。3つの個別言語割りあてられている。 bxu中国ブリヤート語 bxm – モンゴルブリヤート語 bxrロシアブリヤート語

※この「bua」の解説は、「ISO 639 マクロランゲージ」の解説の一部です。
「bua」を含む「ISO 639 マクロランゲージ」の記事については、「ISO 639 マクロランゲージ」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「bua」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「bua」の関連用語

buaのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



buaのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのブリヤート語 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、WikipediaのISO 639 マクロランゲージ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS