伴性遺伝
(X連鎖遺伝 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/22 09:20 UTC 版)

伴性遺伝(はんせいいでん、ばんせいいでん)とは、性染色体に依存する遺伝形式である。
概要
伴性遺伝は、X染色体・Y染色体・Z染色体・W染色体に遺伝子座をもつ遺伝子に支配される。基本的には雌雄で性染色体の数が異なるために生じる現象である。伴性遺伝の中で、特に片側の性のみに遺伝する場合、例えばY染色体・W染色体特有の遺伝子による遺伝などを、特に限性遺伝と呼ぶ。例えばヒトではY染色体上に男性を決定づけるSRYという遺伝子があるため、この染色体をもつ個体は男になる。
遺伝学によって明らかとなった伴性遺伝の最初の例は、ショウジョウバエにおける白眼変異の交配である(図)。これは染色体説を支持する最初の結果でもあった。 また、白眼の系統の♀赤眼の系統の♂を交配すると赤眼の♀、白眼の♂ができる。これを十文字遺伝という。
ヒトにおける例
男性はX染色体とY染色体を持ち(性染色体型がXY)、女性は2つのX染色体を持っている(性染色体型がXX)。X染色体に異常が生じた場合、女性はもう一方のX染色体によって補うことが出来るのに対して、男性は1つしか持たないため、男性だけに発症、または女性より男性が重篤となる疾患がある。以下は主な例。
伴性顕性遺伝
伴性顕性遺伝(旧称:伴性優性遺伝)によって発生する疾患は、X染色体にスペアのある女性でも発症する。なお、X染色体にスペアのある女性よりも、X染色体にスペアのない男性の方が重篤となることが多い。
- レット症候群
- X染色体MECP2遺伝子の異常により発症。女性に多く発症する。X染色体を1つしか持たない男性の場合、発生初期に致死となるか、乳幼児期に女性より重篤な症状で発症する。
- アルポート症候群
- X染色体の異常により発症。
伴性潜性遺伝
伴性潜性遺伝(旧称:伴性劣性遺伝)によって発生する疾患は、X染色体にスペアの無い男性に多く発症する。X染色体にスペアのある女性の場合は、通常、両方のX染色体に疾患の発症原因となる遺伝子を持たないと発症しないため、この遺伝形式による疾患を女性が発症することは稀である。なおX染色体の片方に問題の遺伝子を抱えているものの発症していない女性は遺伝的保因者と呼ばれるが、その子供には2分の1の確率でこの遺伝子が移行する。しかし、その子供が女児であれば、父親も同じ問題の遺伝子を抱えていない場合は、基本的には突然変異が起こらない限り発症しない。対して、その子供が男児であれば、基本的に、母親から2分の1の確率で遺伝子を受け取った場合に発症する。
- 赤緑色覚異常
- X染色体上にある錐体細胞の因子によって発症する。
- 血友病
- X染色体上にある血液凝固因子の異常によって発症する。
- 性染色体潜性遺伝 筋ジストロフィー
- X染色体の異常により発症。
- 伴性高IgM症候群
- X染色体上にあるCD40LG遺伝子に異常が生じることにより、免疫グロブリンのクラススイッチが起こらず、IgMが高値となり、IgG、IgA、IgE が低値となる(正常値の場合もある)。
- なお、高IgM症候群の中には、例えば活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)に変異があるために発症する場合などもあって、こちらは伴性遺伝ではない。このように、必ずしも伴性遺伝だけが原因で高IgM症候群が起こるわけではない。
- 伴性無γグロブリン血症
- 別名、ブルトン型無ガンマグロブリン血症。X染色体上にあるブルトンチロシンキナーゼが機能を失ったことにより、プレB細胞からB細胞への分化が行われない。このため正常な抗体を作ることができず、免疫力が大きく低下する。
- ウィスコット・アルドリッチ症候群
- 免疫に異常を来たす。
関連項目
X連鎖遺伝
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/02 23:55 UTC 版)
男性はX染色体は1本しか持たないが、女性は2本持つ。男性は野生型アレルのヘミ接合か、変異型アレルのヘミ結合の2つの可能性がある。女性は野生型アレルのホモ結合、変異型アレルのホモ結合、野生型アレルと変異型アレルのヘテロ結合の3つの可能性がある。正常な女性の体細胞ではどちらか1本のX染色体が不活化されるため、男性でも女性でもX連鎖遺伝子の発現は同等である。このX遺伝子の不活化のため、X連鎖遺伝疾患の女性ヘテロ体では組織ごとに異常アレルが発現される細胞の割合が異なり、臨床症状が異なる場合がある。X連鎖性遺伝の優性と劣性は遺伝形式は、ヘテロ接合体の女性の表現型に基いて区別される。ヘテロ接合体の女性が表現型を示せば優性であり、示さなければ劣性である。しかしX染色体の不活化によって表現型を示さないこともあり、優性、劣性という表現を用いない方がよいという意見もある。 よく知られたX連鎖疾患の40%近くは、女性ヘテロ接合体のほとんどが発症しない(浸透率数%未満)ため劣性と分類される。30%は女性ヘテロ接合体の大多数(>85%)が発症するため優性と分類される。残り30%はいくらか(15 - 85%)の女性ヘテロ接合体で発症するため優性、劣性のいずれにも分類できない。このような実情であるが、慣習上X連鎖性疾患でも優性、劣性という分類が使われ続けている。 X連鎖劣性遺伝 X連鎖劣性遺伝の表現型の遺伝は特徴的である。X連鎖劣性の変異は典型的には、変異を受け継いだすべての男性に症状が出現するが、女性ではホモ接合体を受け継いだ場合のみ症状が出現する。そのためX連鎖劣性遺伝疾患は男性に限定され、女性で認められることは稀になる。ただしホモ接合体の女性、不均等なX遺伝子の不活化により症状を発現するヘテロ接合体の女性で、症状が認められることがある。神経変性疾患ではデュシェンヌ型筋ジストロフィーが有名である。呼吸管理の進歩やステロイド治療で近年は平均寿命が延長したが、かつてはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの男性は20歳以前に死亡し、生殖不可能であった。女性の保因者しか生殖は不可能であった。それにもかかわらずこの疾患が一定の割合で推移したのは、罹患男性が生殖できないことで失われた変異アレルが、新生突然変異で絶えず置き換えられてきたためと考えられている。以下にX連鎖性劣性遺伝の特徴をまとめる。 形質の発生率は女性より男性の方が高い。 ヘテロ接合の女性は通常罹患しないが、X不活化パターンにより決定される様々な重症度の疾患を発現する場合がある。 疾患の責任遺伝子は罹患男性から娘すべてに伝達される。娘のどの息子も遺伝子を受け継ぐ可能性は50%である。 変異アレルは通常父から息子へ直接伝達されることはないが、罹患した男性から娘にすべてに伝達される。 変異アレルは保因者女性を介して何世代も伝達されることがある。そのような場合は罹患男性は女性を介しての一族一員である。 孤発例の場合は新生突然変異によるものがかなり存在する。 X連鎖優性遺伝 X連鎖性優性遺伝は男性から男性の伝達を認めないため、常染色体優性遺伝と区別できる。完全浸透のX連鎖優性の家系では罹患男性のすべての娘が罹患枝、すべての息子が罹患しないのが特徴となる。女性を介しての遺伝形式は、常染色体優性遺伝と違いはない。ほとんどのX連鎖性優性遺伝疾患は不完全優性であり、罹患女性のほとんどがヘテロ接合体で症状は軽度である。X連鎖性優性遺伝を示す疾患は稀である。X連鎖性優性遺伝の特徴を以下にまとめる。 罹患男性と正常配偶者の間には、罹患した息子および正常な娘を存在しない。 女性保因者の子は男女ともに表現型を受け継ぐリスクが50%である。女性保因者付近の家系図は常染色体優性遺伝の場合と同様である。 罹患女性は罹患男性の約2倍だが、罹患女性は典型的にはより軽度な(変化に富むが)表現型を発現する。
※この「X連鎖遺伝」の解説は、「神経変性疾患」の解説の一部です。
「X連鎖遺伝」を含む「神経変性疾患」の記事については、「神経変性疾患」の概要を参照ください。
- X連鎖遺伝のページへのリンク