B環の合成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/05 01:25 UTC 版)
「ダニシェフスキーのタキソール全合成」の記事における「B環の合成」の解説
B環下部の接続は、A環部分を持つビニルリチウム 30 を 21 のC環アルデヒド部位へ求核付加させることにより行われる。生成物のトリメチルシリル基 (TMS) をテトラブチルアンモニウムフルオリド (TBAF) で脱保護し、ケトン基を再生して 31 を得る。次に、二重結合のひとつをメタクロロ過安息香酸 (MCPBA) で酸化し、エポキシド 32 とする。これをパラジウム炭素触媒の存在下に水素化してジオール 33 とし、生成したヒドロキシ基はジメチルホルムアミド溶媒中でカルボニルジイミダゾールと水素化ナトリウムを使って環状炭酸エステル 34 として保護する。それら二つのヒドロキシ基は、最終生成物であるタキソールの一部分となる。 A環合成におけるヒドラゾンのヨウ素化の際に予期せず生成していた 34 のアルケン部分は、水素化トリ-sec-ブチルホウ素リチウム (L-Selectride) で還元する。得られた 35 のケトン部分は、テトラヒドロフラン (THF) 中、−78°Cでカリウムヘキサメチルジシラジド (KHMDS) と N,N-ビス(トリフルオロメチル)アニリン(フェニルトリフルイミド)を作用させ、ビニルトリフラート 36 に変換される。これはヘック反応を行う際に必要となる官能基である。反応相手となる部位は以下のようにして調製する。上部のアセタールをピリジニウムパラトルエンスルホナート (PPTS) で脱保護してカルボニル基に戻して 37 とし、メチレントリフェニルホスホランとのウィッティヒ反応で末端アルケン 38 に変換する。38 の分子内ヘック反応はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) と炭酸カリウムの存在下、アセトン中で加熱還流することによって行う。この環化によってB環の骨格ができあがった (39)。 続いて、A環とC環を架橋している、B環のエチレン鎖上の置換基を適切なものに変える。39 の架橋部分は環外メチレンを持っているが、最終的にはα-アシルケトンにしなければならない。これは以下の10段階の反応によって行われる。 まず 39 の保護基、tert-ブチルジメチルシリル基 (TBDMS) をトリエチルシリル基 (TES) で置き換える (40)。次にA環の二重結合をMCPBAでエポキシド 41 に変換する。このエポキシドは環外アルケンに修飾を施す間、保護基として働く。それから、役目を終えたベンジル基 (Bn) をパラジウム炭素触媒を用いた水素化で脱保護し (42)、アセチル基 (Ac) で保護しなおして 43 とする(無水酢酸、ジメチルアミノピリジン、ピリジン)。炭酸エステル 43 をフェニルリチウムで開環してアルファ-ヒドロキシ安息香酸エステル 44 とする。そして、ピリジン中四酸化オスミウムで環外メチレンをオスメートエステル 45 としたのち、酢酸鉛(IV) で酸化的開裂をおこしてケトン 46 へと変換する。保護基であったエポキシド、はTHF中−78°Cでヨウ化サマリウムと無水酢酸によってアルケン 47 に戻す。カリウム tert-ブトキシドを 47 に作用させエノラートとしておき、これにフェニルセレネン酸無水物を反応させるとヒドロキシケトン(アシロイン) 48 が得られる。この反応は二酸化セレンによるアリル基の酸化と類似するものである。最後にヒドロキシ基をアセチル化して 49 とする。
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