顔法と通用字形
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/20 02:18 UTC 版)
分類の基準は『顔氏字様』以来の顔氏の伝統に従ったもので、主として先行する字書である『説文解字』や当時流布していた経書などを元に、小篆の字体から類推される楷書字形を正字としていると思われる(ただし理由が明示されていることは少ない)。そのため字によっては、顔元孫の主張する正字体が、必ずしも当時のより一般的に流布していた字体とは一致していないことも少なくない。 しかし、唐代における能書家として名高い甥の顔真卿がこれらの"正字"字形を好んで書し、その独特の書体が「顔法」あるいは「顔体」として広まったため、後に大きな影響を与えた(そのため、書家・漢字研究者の中には顔真卿の書体の是非を巡って極端に評価が分かれる)。顔元孫は、正字だけを用いるべきとは主張していないし、通字・俗字も使用範囲によっては許容していたが、良くも悪くも本書が一つの標準として流布したため、次第に正字が貴ばれ、通字・俗字が忌避される風潮も生じ始める。この流れを汲み、現在日本で用いられる漢字(あるいはいわゆる旧字と呼ばれる漢字)の標準字体も、顔法を受け継いだものが多い(もちろんそうでないものもある)。 いくつか例を挙げると、 「能」字の右半分(つくり)は、「ニ」に重なるように「ム」を書いたもの(IPA文字情報MJ003817)が一般的であったが、干禄字書ではこれを通字とし、「ヒ」を上下重ねる字形を正字とした。中国の歴代の字書も「ヒ」を重ねる方を正字としている。中華人民共和国では、「罷」を「罢」(網頭の下に去)と簡化するが、これは、網頭の下の「䏻」の左半分を省き、「去」としたもので、通字の系統に属するものである。一方、「態」の簡化字は「态」であり、「能」自体と「熊」は簡化しないことから、通字の系統に属する簡体字は「罢」のみである。 「嵗」「歲」(冠の部分が山か止か)では後者を「正字」としているが、当時一般的な書写では前者の方がよく用いられていた。現在日本では後者系統の「歳」を用いるが、中国の簡体字では前者系統の「岁」が採用されている。 「觧」「解」は、当時より広く用いられていた前者を俗とし、後者を正とした。現在では日中とも後者を用いている(例示字体は「角」の真ん中の縦棒が下に突き抜けている(角))。 「挂」「掛」では前者を正、後者を俗字とする。現在一般的には後者の方が頻用される。中国では、1955年の「zh:第一批异体字整理表」で「挂」の字体を採用。 「坂」「阪」および「堤」「隄」では前者(土偏)を俗、後者(阜偏)を正とする。現在日本では「阪」は地名・人名以外はあまり使われず、「隄」はほとんど使われない。 など(いずれも文化14年板本(福井大学蔵)による)。
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