顔・表情の弁別
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 22:22 UTC 版)
顔 開眼前の先天盲者が人を弁別する指標としてよくあげられる「呼吸音」「声」は顔の中で特に口と関係し、口は感情に伴う変化(笑い)を自分で認知できる箇所として意味性が強いといえる。視覚を得た開眼後、最初に顔を認知する手がかりとして視覚的に変化の見やすい口を使う開眼者例は多い。 鳥居修晃・望月登志子報告例 被験者は写真を見て「肌色をしてるから, これ顔みたい」とぼんやり認知し、顔であることを実験者から告げられると、写真を改めて細部まで探索して「背広を着て、ネクタイをしめて、髪が短いので男性」と正確に答えたが、表情を問われると「口を少し開けているから、笑っているのではないかしら」と、やはり表情認知では口に手がかりを求めた。この被験者の顔識別実験は9年間に及び、9年経った時点でも写真による顔の認知は75%であった。ただ同被験者の(写真ではなく)実物の顔の識別は、年月とともに顔の大きさ、輪郭、眼の大小、眉や口の動きなどを認知するようになり、何度も会った人物を「見なれた顔」として初対面の人間との弁別で75%正答を出せるようになった。 また自分自身の顔(写真)の認知課題は、最初は「顔ではないでしょ?」「色から判断すると顔ですか?」「動物かしら」というレベルから、実験回数を重ねるにつれ「顎が短い顔」(輪郭検出)や「左眼が右眼に比べて大きい」(被験者の右眼は2~3歳頃白内障手術を受けたが眼球癆・帯状角膜変性により視力ゼロ、左眼は2度の手術を経て視力0.01)と報告するところまで進んだ。実験開始からおよそ一年半には概ね自分の顔写真を見誤らなくなったが、他者の顔にたいしては顔識別実験開始から5年たっても、すでに10年以上にわたって毎月1~2回会っている実験者の顔写真を「わたしとは違うひと」としか認識できなかった。 表情 同被験者が実験初期に認知できた表情は「笑い」のみであった。3年4ヵ月後には「笑い」「中立」「怒り」の3種類を識別できるようになった。しかし「悲しみ」「軽蔑」といった微妙な不快表情を加えた5種の識別課題に進むと、識別できるようになっていた表情も弁別できなくなる不安定な状態を示した、と望月・鳥居らは述べている。 開眼者自身の表情表出 共同実験開始から4年半経ったとき開眼者は自分の表情表出に関して「(*日常では)人の内面がどの程度顔に出てしまうのか分からないので、なるべく無表情にしている。自分の顔が見えないので、表情はなるべく顔にださないようにしている」と述べている。10年後研究者たちは、早期から晴眼者と大差なかった「笑い」の表情のほか、自分の子どもを叱っているときに生き生きした「怒り」の表情を示していたと報告している。 他者の表情の読みとりがうまくできない開眼者はその低視力ゆえに、情緒とその表出方法に関する社会的ルール(方法, 程度や場面など)の観察学習する機会をなかなか得られないため自らの情緒表出にも一定の制限がかかる、と鳥居・望月は想定し、表情の表出活動のうちには「社会的視覚」が想像以上に深く関与していることが示唆されると述べている(太字=原文)
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