鏡背の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/30 14:50 UTC 版)
鏡背に描かれる文様は神仙世界を表すとされるが、必ずしもその世界観を深く理解して描かれたと思えないものもある。三角縁神獣鏡は内区外周と内区の文様を基準に個別の名称がつけられる。たとえば銘帯に「吾作」から始まる銘文があり内区に4つの神仙像と2つの聖獣が描かれている場合、「(三角縁)吾作四神二獣鏡」と呼ばれる。 外区 「鋸歯文-複線波文-鋸歯文」の3帯構成が基本であるが、複線波文が単線波文に変わるのものや斜段に鋸歯文を配するものもある。また最外周に突線がまわるものもあるが、突線の有無が系譜を示唆するという研究もある。斜段を経て薄くなった部分は内区外周と呼ばれる。ここには銘帯・獣文帯・唐草文帯(雲文帯)・複線波文帯・櫛歯文帯・画文帯・珠文帯・半円方形文帯などが配置される。内区外周に文様を配するのは魏鏡の特徴とされる。 銘文は四言句と七言句が多く、これ以外に方格内に「天王日月」「君冝高官」などの短句を繰り返すものがある。銘文について樋口は大別20銘式、細別27銘式に分類した。銘文の内容は神仙に関するものだが、他の神獣鏡にみられない独自の銘文とされる。この点について「音韻が稚拙」「継ぎ接ぎだらけ」として国産説の根拠とされているが、魏晋鏡の特徴となる語句が散見されるとする研究者もいる。また仿製とされる鏡の銘文には左右反転文字が見られ、漢字を理解しない日本の工人によるものとする説がある。 界圏 内区外周と内区の堺には界圏がまわる。断面は直角三角形で、内区外周側面は無紋であることが多いが、内区側面には原則として鋸歯文が施される。また界圏が無く、代わりに圏線をまわすものもある。 内区 内区は4ないし6つの乳で均等に区切られ、各区画は神仙・聖獣・脇侍・車馬・笠松などの文様で充填される。図像配置は同一方向(上方)に揃える「同向式」と、中央を指向する「求心式」に大別され、細かく分類すると20種以上に分類される。乳や乳座の形状にはバリエーションがある。 描かれる神仙は不明なものも多いが、西王母・東王父・王喬(王子喬)・赤松子は可能性が指摘されている。西王母は『山海経』からみえる神仙で、元々両性具有であったが、後に東王父が分裂したとされる。この2つの神仙が好んで使用されるのは後漢後半の鏡で、陰陽を整える役割を担っていたとされる。西王母と東王父は銘文から同定されている。王喬と赤松子は代表的な仙人である。他の神獣鏡で西王母や東王父の侍仙として描かれる例があり、三角縁神獣鏡でも両脇侍が王喬と赤松子である可能性が指摘されているが、銘文に名称はない。これ以外に結跏趺坐で禅定印を結び、肉髻を有する人物について仏像とする説もある。聖獣には、口を開いて駆ける走獣と、鈕に胴体を潜ませ頭と四肢を突き出した盤龍がある。銘文からは龍、清龍、虎、白虎、天鹿、朱鳥、玄武、神守などの多彩な名称が確認できる。このほかの文様として傘松(笠松)文と博山炉がある。傘松文(三角縁神獣鏡の部分名称図の8時位置)については黄幡とする説もあったが、銘文から節(せつ・使者が帯びる器物)とする説のほか、日本独自の文様としたうえで国産説の根拠とする研究もある。博山炉は博山(仙山)をかたどった香炉で漢代以降に流行した器物である。 鈕 鈕は装飾が無いのが普通であるが、断面の形状などで分類されている。なお一例のみ蟾蜍(カエル)鈕がある。鈕には紐を通す鈕孔があるが、鈕孔の断面は長方形が多い。長方形の鈕孔は呉鏡に見られない特徴とする説もある。また鈕孔を研磨していない事例や真土(鋳型につかう粘土)が残っている事例があり、非実用の葬具とする説の根拠となっている。
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