鉄道車両における定格速度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/11 06:46 UTC 版)
鉄道の電気車(電気機関車・電車)においては、「定格速度」という概念が多く用いられる。主電動機に定格電圧(= 端子電圧)をかけた時に電流が定格電流と一致した時の回転数が定格回転数であり、定格回転数の時の速度が定格速度である。全界磁(100 %界磁)時の定格速度を以て公称値とする場合がほとんどだが、カルダン駆動方式の直流整流子電動機では弱め界磁定格設計のものも多く生産された。国鉄の制式主電動機を例にとると、MT46型が70 %界磁定格、MT54型が全界磁定格、MT55型が85 %界磁定格である。いずれの場合も定格回転数(= 定格速度)において効率が最大となる(約89 %)。なお、出力が同じであれば、定格引張力は定格速度に反比例する。定格速度を上げれば高速性能は向上するが、歯車比は固定のため(変速機を持たないため)一般に起動加速度は下がる。しかし、加速度は主電動機に実際に流す最低電流値(限流値)を定格電流以上(と言っても上限は2倍弱程度)に上げることでカバーできる。高速性能もまた、モーターに補償巻線を付加し弱め界磁制御の範囲を拡大することによって同様に向上させることが可能である(私鉄電車に実例多数)。また、動力車の高速性能を表すために、弱め界磁最終段における定格速度を明示することもあるほか、設計最高速度と全界磁定格速度との比を速度比と呼ぶ場合もある。定格速度30 km/hの電車が100 km/h以上の高速域から発電ブレーキを使用する場合、主電動機には瞬間的に定格の3倍以上もの負荷がかかることになる。 以上は直流整流子電動機(多くが直巻整流子電動機)を使用していた時代の話であり、現在主流の交流電動機を使用したVVVFインバータ制御ではプログラミングにより出力特性や走行特性を比較的自在に設定することが可能なため、電動機自体の定格値を前面に出して論じられることは少なくなっている。JR東日本209系電車などはその好例である。 国鉄183系電車MT54型主電動機:定格電圧375 V・1時間定格電流360 A・定格出力120 kW・全界磁定格回転数1,630 rpm・40 %弱界磁定格回転数2,620 rpm。 歯車比 77:22 = 3.5:1、動輪直径 860 mm(摩耗限度までの使用を考慮して計算では820 mmとする) よって全界磁定格速度72.0 km/h、40 %界磁時定格速度116.0 km/h。設計最高速度160 km/h。全界磁時の定格引張力は電動車1ユニット(主電動機8個)で4,860 kgとなる。 国鉄185系電車MT54型主電動機 歯車比 82:17 = 4.82:1 よって全界磁定格速度52.5 km/h、40 %界磁時定格速度84.5 km/h。設計最高速度115 km/h(歯車比が同じ国鉄117系電車の運用実績から)。全界磁時の定格引張力は電動車1ユニットで6,690 kgとなる。
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