進行期に対する化学療法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/12 03:52 UTC 版)
進行期に対する化学療法は、腫瘍の組織型、PD-L1発現、ドライバー遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、NTRK)変異の有無などによって大きく異なる。ドライバー遺伝子変異を有する症例についてはそれに対応した阻害薬が投与される。ドライバー遺伝子変異を有さない場合、PD-L1の発現に応じて治療方針が検討され、免疫チェックポイント阻害薬や細胞障害性薬剤を組み合わせた治療が選択される。PD-L1高発現の場合は免疫チェックポイント阻害薬単剤も治療選択肢となる。 歴史的には進行非小細胞肺癌の初回治療では歴史的に白金製剤を含む2剤併用化学療法が推奨されてきた。以下に主なレジメンを示す。CDDP+DTX CDDP+VNR CBDCA+PTX CDDP+GEM(ゲムシタビン) CDDP+CPT-11(イリノテカン) 21世紀に入り、分子標的薬が台頭してきた。抗VEGFモノクローナル抗体のベバシズマブ(アバスチン)はCBDCA+PTX療法に上乗せすることで全生存期間の延長効果が認められている。後述のEGFRに代表されるドライバー遺伝子変異がみられる症例に対してはそれぞれに対応した分子標的薬が投与されるようになってきた。 近年は組織亜型に合わせて異なるレジメンを用いることが提唱されており、そのため生検段階での亜型確定診断が強く求められてきている。肺扁平上皮癌は、それ以外の非小細胞肺癌と異なりペメトレキセドなどの葉酸拮抗薬に対する感受性が乏しく、またベバシズマブ(アバスチン)は臨床試験において出血の有害事象が多かったため投与できない。組織型による使い分けがなされるレジメンを以下に示す。CDDP or CBCDA+PEM(ペメトレキセド):非扁平上皮癌のみ CBDCA+PTX+ベバシズマブ:非扁平上皮癌のみ CDGP(ネダプラチン)+DTX:扁平上皮癌でCDDP+DTX療法と比較して生存延長効果が証明されている CDDP+GEM+ネシツムマブ 2015年以降、免疫チェックポイント阻害薬が台頭し、2015年12月にニボルマブ(オプジーボ)が二次治療以降に用いることができるようになった。またPD-L1≧50%の症例に限定してではあるが一次治療としてペムブロリズマブ(キイトルーダ)の有用性が報告され(KEYNOTE-024試験)、2016年に認可された。 2018年にはPD-L1発現を問わず、白金製剤併用化学療法に免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブもしくはアテゾリズマブ(テセントリク))を上乗せした併用療法の有用性が報告され(KEYNOTE-189試験、KEYNOTE-407試験、IMpower150試験)、2019年4月現在では標準治療となっている。 また、非小細胞肺癌のうち上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子変異(エクソン19 21等)がある症例(多くは 女性・非喫煙者・腺癌)では、腫瘍細胞がEGFRからのシグナルに依存した増殖をしているため、分子標的治療薬のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬で高い奏効率が報告されており、第一選択で施行される。現在までにゲフィチニブ(イレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)、ダコミチニブ(ビジンプロ)、オシメルチニブ(タグリッソ)が認可されている。EGFR以外にもALK、ROS1、BRAF、MET、NTRKといった遺伝子変異を有する症例があり、それぞれに対応した分子標的薬が認可されている。 肺癌に対する分子標的薬の先駆けとなったゲフィチニブについては間質性肺炎症例が出たことから社会問題になったが(イレッサ訴訟)、ゲフィチニブに限らず肺癌の薬物治療を行う際には、間質性肺炎等の重篤な副作用があり、時に致死的な転帰となりうることに注意する必要がある。
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