連れ去りが子どもに与える影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 07:16 UTC 版)
「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」の記事における「連れ去りが子どもに与える影響」の解説
連れ去りにおいてもっとも心理的に悪影響を及ぼすのは、親による子の奪取が犯罪となるアメリカなどの国において、連れ去った親と共に、子供が逃亡生活を余儀なくされる場合である。 犯罪者となるため、子どもを連れ去った側の親は、法の目をかいくぐりながら引越しを繰り返し、偽名を使っての生活を余儀なくされる。連れ去られることにより、子どもは自分を最も愛してくれる人を失うだけでなく、玩具、ペット、友人、先生、学校、慣れ親しんだ遊び場、行きつけの店、日々の日課、安全の感覚、祖父母やいとこ、一方の親の文化をも失う。さらに、会いたい親に会わせてもらえないことにより、奪取した側の、同居親との信頼関係も失われる。また、子どもから見て、連れ去った側の同居親は、唯一の情報源であるにもかかわらず、もう一方の親について「父親は死んだ」とか「母親はもうお前のことを愛していない」と嘘をつくことが多い。この立場を利用したマインド・コントロールにより、子どもは、片親に会う機会、さらには精神的なつながりも消去される。小さい子どもは、会えない時間が長くなると、残された親のことを記憶すらも次第に思い出せなくなる。 連れ去られた子どもは、その後、人から見捨てられる不安を持ち、人間関係を信頼することが困難になる。連れ去りによってしばしば子どもに、分離不安、ADHD、PTSD、摂食障害、学習障害、行動障害などの精神的障害が起こる。 たいていの場合、子どもは、連れ去った親により、一人の意思を持った人間として尊重されるのではなく、交渉を有利に進めるための道具、仕返しのための道具として使われる。子どもを他の親から引き離すのは、子どもの利益を第一に考えるからではなく、怒って仕返しをするためであることが多い。またこの場合、子どもを連れ去った後に、子どもへの虐待が多く行われる事例が報告されている。 連れ去った後で23%の親が、子どもへの身体的虐待をしていたという調査もある。子供の略取虐待の公的統計や病院の集計において、虐待者である比率が最も高いのは、同居の母親である。 連れ去った親にとって、就職や新しいパートナー探しをする上で、子どもの存在が邪魔になることもある。特に、連れ去った親にできた新しいパートナーは、連れ子への経済的な負担を良しとしない場合もある。子どもは、親の新しいパートナーから、性的虐待を受ける場合もある。子どもは、連れ去りにより、誰の目も届かない状況に置かれ、誰の助けも無い状態で、自分を連れ去った親や、その新しいパートナーと同居しなければならない。子どもは同居親に対して、強い怒りを覚えることがあるが、怒りが一方の親に向かうこともある。子どもの目から見れば、非同居親は、会いに来てくれず、自分を探してくれないのであり、見捨てられたように見えるからである。また、怒りが子ども自身に向かうこともある。離婚は自分のせいで起きたと誤って思い込んでいることが多いからである。そのため、連れ去られた子どもの抑うつ症状や自殺は、まれなことではない。連れ去られた子どもの心に与えられた打撃は、長く子どもの心に残る。以上のように、連れ去りは、最も悪質な児童虐待とする意見が北米では多く述べられる。 しかし一方、離婚後に、普通に子供が母親の側に引き取られる場合は子供にそれほど心理的悪影響が及ばないことが確認されている。子供の事実上の育児者である母親が事情をちゃんと説明した後で子供を母親の国に連れ去った場合には、大半の子供は「仕方ない」との意見を述べており、親の離婚を経験する子どもとして当たり前の感想が述べられ、上記のような過激な結果は見られないことが、イギリスにおける子の国際的奪取を専門とするNGOである、Reuniteの調査で確認されている。
※この「連れ去りが子どもに与える影響」の解説は、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」の解説の一部です。
「連れ去りが子どもに与える影響」を含む「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」の記事については、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」の概要を参照ください。
- 連れ去りが子どもに与える影響のページへのリンク