近年の実践例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/09 06:00 UTC 版)
2011年の東日本大震災で「釜石の奇跡」と呼ばれる事例では、「津波てんでんこ」を標語に防災訓練を受けていた岩手県釜石市内の小中学生らのうち、当日学校に登校していた生徒全員が生存し、話題となった。小中学生らは、地震の直後にこれまでの訓練通りにグラウンドに集合して点呼を取っていたら1人の教師に「なにやってんだ!早く逃げろ!」のとの指示で避難を開始。「津波が来るぞ、逃げるぞ」と周囲に知らせながら、保育園児のベビーカーを押し、高齢者の手を引いて高台に向かって走り続け、全員無事に避難することができた。市教委は「常識ではあり得ないことが起きた訳では無く、訓練や防災教育の成果であり、実践した児童生徒自身が奇跡の意味は違うと(当初から)感じていた」と説明しており日頃の取り組みの積み重ねだった事を明かしている。市では奇跡という文言を使用せず「釜石の出来事」として扱っている。 市内の防災教育を指導し、「釜石の奇跡」の立役者となった片田敏孝教授の教えの内容は山下文男のまとめた「津波てんでんこ」の考え方と多くの共通点がある。具体的には、みずから状況判断して逃げること、災害弱者を助ける立場の者はあらかじめ明らかにしておくこと、家族はそれぞれ逃げると信じて行動することなどを指導しており、標語本来の意図とかなり近い考え方をもって防災教育を実践した。 両者の考え方で相違点を挙げるとすれば、率先して逃げる行為の捉え方がある。山下は、率先して逃げる者が避難を促すというポジティブな面を捉えてはいるが、一人でまず逃げるという行為は、最善の災害対策としてやむをえない「哀しい教え」であると評価している。しかし、片田はポジティブな捉え方を徹底している。片田は、現実にはほとんどの津波警報が杞憂に終わり、率先して逃げた者が「臆病者」というレッテルを受けやすいことを踏まえ、「それでも最初に誰かが逃げることで他者も続き、救われる命があるので、後ろ指さされる可能性を知りながら率先して逃げる者こそ本当に勇気がある者だ」という立場で教育している。釜石の奇跡においても、最初に率先して逃げ出したサッカー部の生徒を大きく評価しており、「津波てんでんこ」を行動に移す際の心理的ハードルを取り除く工夫が、山下とは異なる。
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