赤血球の粘弾性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/08/23 03:46 UTC 版)
赤血球は血流と血管の双方からの激しい機械的刺激に晒されており、その流動学的性質は微小循環環境の中で生物学的機能を行使するために重要である。赤血球自身の粘弾性体としての力学的性質を調べるために様々な手法が取られてきた: マイクロピペット吸引法 微小押込み試験 光ピンセット 高周波電気的変形試験(high-frequency electrical deformation tests) これらの手法は赤血球の変形能を剪断弾性率、曲げ弾性率、面積弾性率の観点から調べるものであるが、粘弾性を調査することは不可能であった。そこで他の手法として光音響測定が採用された。これは単一パルスレーザーを用いて組織の中で光音響信号を発生させて減衰時間を測定するものである。線形粘弾性理論によれば減衰時間は粘性/弾性比に等しいため、これにより粘弾性を調べることが出来る。 その他、細胞表面に強磁性ビーズを結合させ、磁気ねじり血球計算法により赤血球の時間依存反応を調べることで粘弾性を評価する手法も用いられた。 Ts(t) は単位ビーズの体積あたりの力学的トルクであり、以下の式で与えられる: T s ( t ) = c H cos θ {\displaystyle T_{s}(t)=cH\cos \theta } ここで H は与えられたねじれ磁場であり、θ は元の磁化方向に対するビーズの磁気モーメントの角度、そして c はビーズを粘度が既知の流体中に置きねじれ磁場をかけることにより求められる定数である。 複素動的弾性率 G を用いて応力歪み関係を表すと、 G = G ′ + i G ″ {\displaystyle G=G'+iG''} 貯蔵弾性率: G ′ = σ 0 ε 0 cos ϕ {\displaystyle G'={\frac {\sigma _{0}}{\varepsilon _{0}}}\cos \phi } 損失弾性率: G ″ = σ 0 ε 0 sin ϕ {\displaystyle G''={\frac {\sigma _{0}}{\varepsilon _{0}}}\sin \phi } σ0 と ε0 は応力と歪みの大きさを表し、φ は位相差である。 上記の関係から、トルクの時間変化をグラフ化することにより図3のようなループが得られる。図は d を変位として、横軸 Ts(t) と縦軸 d(t) のグラフを表す。ループにより囲まれる領域の面積 A は1サイクルあたりのエネルギー損失にあたる。 以上より、位相角 φ 、貯蔵弾性率、損失弾性率が以下のように求められる: ϕ = sin − 1 4 A π Δ T s Δ d {\displaystyle \phi =\sin ^{-1}{\frac {4A}{\pi \Delta T_{s}\Delta d}}} G ′ = Δ T s Δ d cos ϕ {\displaystyle G'={\frac {\Delta T_{s}}{\Delta d}}\cos \phi } G ″ = Δ T s Δ d sin ϕ = 4 A π ω Δ d 2 {\displaystyle G''={\frac {\Delta T_{s}}{\Delta d}}\sin \phi ={\frac {4A}{\pi \omega \Delta d^{2}}}} 図3に現れているヒステリシスが赤血球の粘弾性を示している。これが細胞内のATP濃度により制御される細胞膜分子の代謝活性と関連しているかどうかは不明である。赤血球の粘弾性の特性の背後にある機序を理解するためにはこれらの相互作用を更に詳細に研究する必要がある。
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