誤認された肖像画
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/20 14:04 UTC 版)
「フランセス・ブランドン」の記事における「誤認された肖像画」の解説
ほぼ300年間にわたりフランセスを描いたものとされてきたハンス・イワース(英語版)の肖像画は、近年になって誤認定であることが発覚した。誤認定された肖像画に描かれていたのは、デイカー卿夫人メアリー・ファインズ(英語版)とその息子の第10代デイカー卿(英語版)という母子だと判明したのである。この作品は1727年にカレヴァス(Mr. Collevous)という人物によって競売にかけられた。競売の時にこの作品のカンヴァスの裏側に「サフォーク公爵夫人」と書かれた紙切れが挟まれていたので、それ以降人々はこの絵をフランセスと2番目の夫エイドリアン・ストークスの肖像だと思い込み、そのように扱ってきたのである。 この肖像画は1986年、美術史家スーザン・フォイスター(Susan Foister)によって初めて、広く知られているデイカー卿夫人の肖像画と同じ人物が描かれていると証明された。この絵の女性と同じ人物が描かれていると認定されたデイカー卿夫人の肖像画というのは、背景に彼女の死別した夫第9代デイカー卿(英語版)の肖像が飾られている、同じイワースの手になる作品である。スーザン・フォイスターの説得力ある証明により、2つの絵画が同一人物を描いたものだと公式に認められた。決め手となったのは、両方の絵画の婦人が左手薬指に嵌めている指輪が全く同じものだという点だった。 19世紀になると、この肖像画をフランセス・ブランドンとエイドリアン・ストークスだとする間違った判定を根拠として、ウェストミンスター・ホールを飾る壁画のシリーズの中に、この肖像画(実際にはデイカー卿夫人のそれ)を参考にしたフランセス・ブランドンの姿(「ドーセット侯爵夫人」と銘打たれている)が加えられた。 この数百年にわたる肖像画の誤認定は、人々がフランセスを残酷で多情な、彼女の伯父ヘンリー8世の女性版のような人物だというイメージを増幅する役割を果たした。肖像画には、ローマ数字で左の女性の横に「36」、右の男性の横に「21」の銘が付けられている。これはこの絵が描かれた時の母子の年齢で、若くして嫁いだデイカー卿夫人は15歳で息子を出産していたのだった。ところが人々はこれをフランセスとストークスの肖像画だと思い込んでいたので、ストークスはフランセスよりも15歳も年下の若い青年だとする説が知られるようになったのである。この肖像画をストークス夫婦の肖像だと思い込んだ人々は、中年のフランセスが若い男の肉体に溺れ、相手の身分の低さも構わず、最初の夫が斬首されてからわずか3週間後に再婚した、という虚構のイメージを掻き立てられた。こうした「黒い神話」は、今日では事実とかけ離れた俗説と見なされている。実際には、ストークスとフランセスの間には2歳の年齢差しか無かったし、再婚もヘンリー・グレイの死後1年ほど経ってからだったと判明している。 .mw-parser-output .mod-gallery{display:table}.mw-parser-output .mod-gallery-default{background:transparent;margin-top:0.5em}.mw-parser-output .mod-gallery-center{margin-left:auto;margin-right:auto}.mw-parser-output .mod-gallery-left{float:left}.mw-parser-output .mod-gallery-right{float:right}.mw-parser-output .mod-gallery-none{float:none}.mw-parser-output .mod-gallery-collapsible{width:100%}.mw-parser-output .mod-gallery .title,.mw-parser-output .mod-gallery .main,.mw-parser-output .mod-gallery .footer{display:table-row}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div{display:table-cell;text-align:center;font-weight:bold}.mw-parser-output .mod-gallery .main>div{display:table-cell}.mw-parser-output .mod-gallery .caption{display:table-row;vertical-align:top}.mw-parser-output .mod-gallery .caption>div{display:table-cell;display:block;font-size:94%;padding:0}.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div{display:table-cell;text-align:right;font-size:80%;line-height:1em}.mw-parser-output .mod-gallery .gallerybox .thumb img{background:none}.mw-parser-output .mod-gallery .bordered-images img{border:solid #eee 1px}.mw-parser-output .mod-gallery .whitebg img,.mw-parser-output .mod-gallery .gallerybox div{background:#fff!important} (A)デイカー卿夫人メアリー・ファインズと息子の肖像、ハンス・イワース画。長くフランセスとその再婚相手エイドリアン・ストークスの肖像だと誤認されてきた。夫人の側に「36」、息子の側に「21」のローマ数字が銘打たれている。これがフランセスとストークスが15歳差だったとする誤った説を生み出した。 (B)ウェストミンスター・ホールの壁画に登場するフランセス。「ドーセット侯爵夫人」と紹介されている。この肖像は(A)の肖像画をフランセスとストークスの肖像だとする誤解に基づいて、(A)の肖像画を元に制作された。そのため実際のフランセスの面影を伝えるものでは全くない。 (C)デイカー卿夫人の肖像、ハンス・イワース画。この肖像画と(A)の肖像画の女性が同一人物だとする判定がなされたおかげで、300年にわたるフランセスの肖像画に関する誤認が解消された。
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