要素粒子の存在を前提としない定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 08:44 UTC 版)
「物質量」の記事における「要素粒子の存在を前提としない定義」の解説
現実の物質は原子、分子、イオン、電子などあるいはこれらの集合体からなる不連続構造をもつ要素粒子から構成されるが、物質量はそれら要素粒子の存在を前提しなくても物質の量を表す概念として定義できる。すなわち、物質 X の質量が m であるとき、物質 X が一成分系とみなせるならば、物質 X の物質量を n ( X ) = m M ( X ) {\displaystyle n({\text{X}})={\frac {m}{M({\text{X}})}}} で定義することができる。ここで係数 M(X) は、目的に応じて任意に決められる定数である。物質 X が多成分系ならば、各成分 Xi の物質量 n(Xi) は、その成分の質量 mi と係数 M(Xi) で同様に定義することができる。必要であれば、物質 X の物質量 n(X) は各成分の物質量の総和 n ( X ) = ∑ i n ( X i ) {\displaystyle n({\text{X}})=\sum _{i}n({\text{X}}_{i})} で定義できる。 係数 M(X) や M(Xi) は、物質あるいは成分ごとに任意に決められるので、物質系の熱力学的解析に便利なように決めることができる。例えば、全ての物質 X について M(X) = 1 とするなら、グラムまたはキログラムを物質量の単位として用いることができる。化学平衡にある物質系や化学反応が起こる過程では、元素の原子量と物質 X に含まれるすべての元素の質量分率に基づいて M(X) を決めると解析が容易になる。物質量が原子の存在を前提しなくても定義できることを強調したいならば、19世紀の化学者に倣って原子量という言葉を「当量」、「結合重量」、「比例数」などの言葉に置き換えてもよい。いずれにせよ「元素の種類は高々可算個である」、「物質は有限個の元素からできている」、「各元素の原子量は物質の履歴に依らない」と仮定するなら、元素の原子量表を作成することができる。各元素の原子量 M(E) は任意に決められるので、全ての元素 E について M(E) = 1 としてもよいし、古典的な重量分析により実験的に決めてもよいし、あるいはIUPACの原子量表の値を用いてもよい。三つの仮定に加えてさらに「元素の質量は保存する」と仮定するなら、元素 E の物質量も保存する。 以上の前提のもとで、物質 X に含まれるすべての元素の質量分率を決定することができれば、物質 X の組成式を決定することができる。すなわち、要素粒子の存在を前提しなくても、古典的な重量分析により、物質 X の組成式を決定することができる。組成式から計算した式量を係数 M(X) とすれば、定義式から物質 X の物質量が求まる。 組成式から計算した式量に適当な数を乗じたものを係数 M(X) としてもよい。例えば、アセチレンとベンゼンは元素組成が等しいので、どんな原子量表を使っても組成式と式量は二つの物質で同じになるが、ボイル=シャルルの法則が成り立つ温度 T、圧力 p、体積 V のもとでは次式で定義されるアセチレンのガス定数 R ( acetylene ) = p V m ( acetylene ) T {\displaystyle R({\text{acetylene}})={\frac {pV}{m({\text{acetylene}})T}}} はベンゼンのそれの三倍である。そこで、係数 M(X) を M(benzene) = 3M(acetylene) となるようにとれば p V n T {\displaystyle {\frac {pV}{nT}}} は二つの物質で同じ値になる。このときアセチレンの化学式を CH と書くなら、ベンゼンの化学式は C3H3 になる。他の物質についても同様な操作を施せば、理想気体の状態方程式を物質の種類に依存しない形で書き下すことができる。アセチレンの化学式を CH と書くなら、メタンの化学式は C1/2H2 になる。 メタンの化学式を CH4 と書くなら、アセチレンの化学式は C2H2 に、ベンゼンの化学式は C6H6 になる。ここでIUPACの原子量を使えば M(CH4) = 16.042 g/mol となり、気体の種類に依らない気体定数は 8.314 J K−1 mol −1 になる。ただし「各元素の原子量は物質の履歴に依らない」と仮定したので、ここでは 12 g の炭素12ではなく、12.011 g の炭素の物質量を 1 mol とした。 同位体の分離や濃縮を、要素粒子の存在を前提としないで熱力学的に取扱うには、「元素の原子量は物質の履歴に依らない」という仮定を除いて「化学元素は原子量の異なる同位元素の混合物である」ことを認めれば良い。さらに「元素の質量は保存する」という仮定を除けば、放射性物質も要素粒子の存在を前提としないで熱力学的に取り扱うことができる。
※この「要素粒子の存在を前提としない定義」の解説は、「物質量」の解説の一部です。
「要素粒子の存在を前提としない定義」を含む「物質量」の記事については、「物質量」の概要を参照ください。
- 要素粒子の存在を前提としない定義のページへのリンク