要素的症状
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/16 10:10 UTC 版)
「カール・ウェルニッケ」の記事における「要素的症状」の解説
1892年の第59回ブレスラウ会議で、Karl Kahlbaumがウェルニッケがよく知る事例研究に基づいてパラノイアについて説明した。ウェルニッケはこの事例を自身が「要素的症状」(“elementary symptom”、単一の基本的な症状があり、他の全ての症状は全て要素的症状から派生したもの)と呼ぶものの1例として紹介した。 Karl Leonhardもウェルニッケの研究を追った。Leonhardは障害の症状を過度に一般化する「要素的症状」理論を否定したが、ウェルニッケの精神病理学的な障害の分類をエミール・クレペリンの二分法の分類体系に取り入れた。例えば、Leonhardはウェルニッケの不安精神病(“anxiety-psychosis”)をサイクロイド精神病(“cycloid psychosis”)と名前を変えたが、これは統合失調症やBipolar cyclingと似ている。クレペリンはまた、各障害を全体としてみるのではなく重要な症状に焦点を当てようとしたウェルニッケの理論とは対照的に、特定の障害の臨床的側面を全て記述する(疾病分類学、ノソロジー)ことで要素的症状理論を否定した。 要素的症状の理論は一般的に否定され、理論を裏付ける証拠がないため今日ではあまり知られていない概念である。この理論自体は現代の疾病分類学や病因学では支持されていないが、標的症状の概念を持つ精神薬理学の実践においては一般的な影響力を持つ。臨床的な精神薬理学では、一般的に障害や診断全体ではなく特定の症状を扱う。現代の精神医学はウェルニッケの理論と平行して、症状は他の症状に起因するという仮定に基づいている。 ウェルニッケ自身は失語学に傾倒していたため、要素的症状理論の研究を進めていなかった。要素的症状理論の根本的な問題の1つは、ウェルニッケが不安を多くの障害の要素的症状として説明したことである。不安はほとんど全ての精神疾患にある程度見られることから、このことは理論の問題点であった。このため要素的症状を臨床的に分類し適切な治療を行うことができなかった。ウェルニッケや他の心理学者にとってもう1つ問題なのは、どの症状が要素的症状で、治療するのが同じくらい重要であるかもしれず他の症状の直接的な結果ではないかもしれない他の症状に対して優先順位をつけることを決定することであった。最後に、ウェルニッケは伝統的なドイツの精神医学を維持し、症候群や障害を区別するというクレペリンのアプローチを用いず、症状の原因を身体的なものと精神的なものと区別することができずに、臨床的なビネットを記述した。
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