菌根の機能
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 04:19 UTC 版)
植物側から見た外菌根の主な機能としては、貧栄養な土壌に生育する場合に低濃度な土壌養分を吸収できるようにする機能(養分吸収の促進)、乾燥条件において土壌中からわずかな水分をもかき集めて植物の水吸収を補助する機能(水分吸収の促進)、土壌病原菌から植物を保護する機能(病原菌からの保護)、土壌中の有害物質、例えばアルミニウムイオンや重金属イオンなどから植物を保護する機能(有毒物質からの保護)が挙げられる。 これらの機能のうち前二者は主に根外菌糸によるものである。菌糸は根あるいは根毛と比べてさえもはるかに細いため土壌のきわめて微細な空隙に入り込むことができ、わずかなバイオマスで大きな体積の土壌から養分・水分を吸収することができる。特にリンのような土壌中での移動性の低い元素に関しては、根による吸収に伴ってその周囲に枯渇領域(depletion zone)が形成され、土壌全体としてはまだリンなどを含んでいるにもかかわらず植物には利用できない状態になることがあるが、菌根化すれば菌糸によって枯渇領域を越えることができ、養分を徹底的に吸収することが可能になる。また、菌によっては根外菌糸から有機酸を分泌して、岩石に含まれる不溶性の肥料成分を可溶化して植物に供給することもある。吸収された土壌養分は、菌と植物とのインターフェースであるハルティヒネットおよび菌鞘内面で、植物の光合成産物と交換される。 後二者の機能はどちらかといえば菌鞘の機能と考えられており、特に緻密な表面を持つものは吸収根の表面を病原菌や環境ストレスから物理的に保護する機能を持つとされている。また、ハルティヒネットにおける菌糸の細胞間への侵入に伴い、通常の病原菌に対するのと同じ抵抗反応が菌根共生には支障ないレベルで部分的に引き起こされ、実際の病原菌の攻撃に対する抵抗反応の立ち上がりが早くなる例が知られている。菌鞘には菌根全体のバイオマスの18-84%が存在するという報告があり、その中で有害なイオンなどを捕捉することで根を保護していると考えられている。 菌根性とされる樹種のほとんどは自然環境下では菌根化して生育しているため、それらの樹木が野外で示す生理的・生態的特性には菌根の果たす機能による部分も含まれている。逆に、それらの植物から菌根を除いた「純粋な植物のみの特性」は、自然界には事実上存在しない「人工物の特性」に過ぎない。菌根のもつ上記のような機能はあるのが当然なものであり、「菌根定着により強化される」というよりは「何らかの理由で菌根が損なわれると機能不全に陥る」と捉えるべきである。ただし菌と植物との組み合わせにより菌根の特性ないし効果は異なるため、菌根があれば何でもよいわけではない。
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