臨床試験について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 07:27 UTC 版)
上記のように海外ではさらなる治療成績の改善、QOLの向上を目指して数々の臨床試験が熱心に行われている。これまで、日本では臨床試験は皆無に等しい状況だったが、今後はきちんとした体制のもとで臨床試験が行われることが求められている。 上記のとおり、1994年にアメリカでシスプラチン、ビンクリスチン、CCNUの化学療法の成績が報告され、さらに1996年から日本でも可能なシスプラチン、ビンクリスチン、シクロフォスファミドの治療の試みが同じくアメリカで開始された。そして、2006年9月に、後者の治療でも標準リスク群で81パーセントの5年無進行生存率を達成できることが証明され、標準治療が確立した(後記論文)。 それから相当期間が経過したが、今、日本ではこの確立した標準治療はそれほど広がっていないと思われる。この10年間で、アメリカとは20パーセント以上の生存率の差が開いてしまったと言われている。早期にこの標準治療と同様な成績が上げられる治療法を患者家族が選べる環境が整備されることが求められている。標準治療が確立した場合、これ以外の治療は、実験的治療として、標準治療に対する何らかの上乗せ効果(成績をさらに改善できる、もしくは成績を落とさないで副作用を低減できる効果)が見込める治療でない限り、原則、実施されるべきではないことは言うまでもない(もちろん、標準治療が患者の個別の状態から不適と判断される場合は別である)。そしてこのような実験的治療は十分なインフォームド・コンセントのもと、臨床試験として行われるのが望ましい。 小児脳腫瘍全般にも通じることであるが、髄芽腫は希少疾患であるため、科学的エビデンス(「根拠に基づく医療」の項を参照)が最も高い第三相の臨床試験を組むことは困難である。従って、ある有効な治療が開発され、それが第三相の臨床試験を通過して確立するまで10年以上もかかることになる。長期間の晩期障害の観察まで求めるのなら、数十年かかってしまうことになる。その間、従来の治療を受ける選択肢しかなく、その結果、本来救われるべき幼い子供たちの命が失われたり、著しい晩期障害を残すことが、許されるべきではないことは当然であるが、希少疾患である髄芽腫において、いかにこの要請を満たしていくかが問題となっている。 アメリカでは現在、様々な大量化学療法等の臨床試験が非常に熱心に行われており、高リスク群はほとんどがこのような臨床試験を受けていると言われている。大量化学療法によって高リスク群で70パーセントの5年無進行生存率を達成し、かつ治療関連死がなく安全に施行でき、さらに治療期間を3分の1に短縮できたうえ、全体の投薬量を大幅に減らすことができたという信頼性の高い報告も出てきている(後記論文)。 日本では、通常の大学病院ではこの群の5年無進行生存率は30-40%以下だと推測される。 日本では、大量化学療法は未だ実験的な治療法であるとして、消極的な意見もあるが、その立場に立つのであれば、難治例をどのように治していくのか、アメリカから大幅に遅れた成績をどう挽回し、さらにそれを越える成績をどう達成するのか、大量化学療法以上の効果が望める何らかの新しい治療法を提案し、そしてその臨床試験を行っていく必要があろう。
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