線型性と連続性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/12 09:39 UTC 版)
各点 u ∈ U においてガトー微分は、函数 d F ( u ; ∙ ) : X → Y ; ψ ↦ d F ( u ; ψ ) {\displaystyle dF(u;\bullet )\colon X\to Y;\;\psi \mapsto dF(u;\psi )} を定める。この函数は任意のスカラー α に対して d F ( u ; α ψ ) = α d F ( u ; ψ ) {\displaystyle dF(u;\alpha \psi )=\alpha dF(u;\psi )} を満たすという意味で斉一次だが、必ずしも加法的でなく、従ってガトー微分係数は線型でないことが起こり得る(この点ではフレシェ微分と異なる)。また、線型となる場合であっても、X と Y が無限次元の場合には ψ に関して連続とならないことが生じ得る。さらに言えば、線型かつ連続となるようなガトー微分係数に対して、その連続的微分可能性の定式化には互いに同値でないいくつかの方法が存在する。 例えば、二変数の実数値函数 F を F ( x , y ) = { x 3 x 2 + y 2 if ( x , y ) ≠ ( 0 , 0 ) 0 if ( x , y ) = ( 0 , 0 ) {\displaystyle F(x,y)={\begin{cases}{\dfrac {x^{3}}{x^{2}+y^{2}}}&{\mbox{ if }}(x,y)\neq (0,0)\\0&{\text{ if }}(x,y)=(0,0)\end{cases}}} で定めると、これは (0, 0) においてガトー微分可能で、その微分係数は d F ( 0 , 0 ; a , b ) = { a 3 a 2 + b 2 ( a , b ) ≠ ( 0 , 0 ) 0 ( a , b ) = ( 0 , 0 ) {\displaystyle dF(0,0;a,b)={\begin{cases}{\dfrac {a^{3}}{a^{2}+b^{2}}}&(a,b)\neq (0,0)\\0&(a,b)=(0,0)\end{cases}}} となり、しかしこれは引数 (a, b) に関して連続だが線型でない。無限次元の場合、X 上の任意の不連続線型汎函数がガトー微分可能となるが、その 0 におけるガトー微分係数は線型であり、かつ連続でない。 フレシェ微分との関係 F がフレシェ微分可能ならば、F はまたガトー微分可能であり、そのフレシェ導函数とガトー導函数とは一致する。逆が明らかに真でないことは、ガトー導函数が線型や連続でないことがあることから分かるが、実はガトー導函数が線型かつ連続である場合にも、フレシェ導函数が存在しないことがあり得る。 にも拘らず、複素バナハ空間 X から別のバナハ空間 Y への函数 F に対して、ガトー導函数は(ただし、定義における極限は複素変数 τ に関して取るものとすると)、自動的に線型になる(Zorn (1945) の定理)。さらに F が各点 u ∈ U において(複素)ガトー微分可能で、その導函数を DF(u): ψ ↦ dF(u; ψ) とすると、F は U 上でフレシェ微分可能であり、そのフレシェ導函数は DF になる (Zorn 1946)。このことは、古典的な複素解析において開集合上複素可微分な任意の函数が解析的となるという結果の類似対応物であり、無限次元正則函数論(英語版)の基本的な結果の一つである。 連続的微分可能性 連続的ガトー微分可能性は大きく二つの方法で定義することができる。以下、函数 F: U → Y は開集合 U の各点でガトー微分可能と仮定する。U における連続的微分可能性の概念の一つは、直積空間上の写像 dF: U × X → Y が連続であることを課すものである。この場合線型性を仮定する必要はなく、X と Y がともにフレシェ空間ならば dF(u; •) は任意の u に関して自動的に有界かつ線型である (Hamilton 1982)。 より強い意味での連続的微分可能性は u ↦ DF(u) が U から、X から Y への連続線型写像全体の成す空間 L(x, y) への写像として連続であることを課すものである。即ち、DF: U → L(X,Y); u ↦ DF(u) の連続性を言う。ここで、DF(u) 自体が連続であることは既に前提としていることに注意。 技術的な便宜上、X, Y がバナハ空間であるときは、後者の意味での連続的微分可能性を考えるのが典型的(だがいつも (universal) というわけではない)である。これは L(X, Y) もまたバナハであり、従って函数解析学における標準的な結果をそこで用いることができるという理由による。前者のほうは、非線型解析ではより一般的に用いられる定義であり、この分野では函数空間は必ずしもバナハでない。例えば、フレシェ空間における微分法(英語版)は、しばしば可微分多様体上の滑らかな函数からなる意味のある函数空間において、ナッシュ-モーザーの逆写像定理(英語版)などで応用される。
※この「線型性と連続性」の解説は、「ガトー微分」の解説の一部です。
「線型性と連続性」を含む「ガトー微分」の記事については、「ガトー微分」の概要を参照ください。
- 線型性と連続性のページへのリンク