統計的手法の欠落
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 22:47 UTC 版)
サラブレッドの競走能力と血統の相関関係を体系化する際に、厳密な意味での統計学的手法が用いられることは、ほとんど皆無である。統計学的手法は、これまでサラブレッドの世界に持ち込まれることがなかったか、あるいは無視されてきた。この事実は血統理論が科学的な理論と見なされない致命的な要因である。 1791年にジェネラルスタッドブックが創刊されて以来、サラブレッドの血統と競走成績は一体のものである。一般的にサラブレッドの「血統」とか「血統書」と言った場合、それは単なる親子兄弟親族などの姻戚関係を図表化したものではなく、必ず競走成績が併記されることによりそのサラブレッドの血統的な「優秀さ」を表している(あるいは、表そうとしている)。 こうしたサラブレッドの「優秀さ」の表示は、主にそのサラブレッドを商取引において、売買価格の決定や購入の決断をする場合に、その根拠として用いられてきた。優れた相馬眼の持ち主であると自認する場合には必ずしもこのような根拠を必要としないが、そのような人物は稀である。この場合、売り手は、できうる限りそのサラブレッドの「優秀さ」を高めたいので、競走成績に関する情報のうちから「都合のよい」ものだけを表示することができる。 この事情は現在でも変わっておらず、近年、サラブレッドの競走結果に関する様々な資料が爆発的に普及したにもかかわらず、ほとんどの場合それらは、ある馬がどこそこの競走でどのように勝利したかの羅列になっており、どこでどのように敗戦したかを体系化した資料は存在しないか、存在しても必要とされない。 厳密な意味での統計学的手法を用いてサラブレッドの競走能力を数値化あるいは数式化しようとした場合、それは例えば心臓の大きさであるとか、運動量と心拍数の変化であるとか、筋量や骨量とかといった医学、解剖学、運動生理学に基づくものになるであろう。また、継続的な実験による母集団の作成と抽出という作業を行うためには、遺伝学的な手段による条件の画一化が不可欠であるが、サラブレッド生産は常に遺伝学的手法を拒んできたし、そもそもサラブレッドは非常に高価なものであり趣味的な性格が強く、こうした実験は困難である。 運動生理学や獣医学の分野ではこうした研究は一定の成果を挙げているが、これはサラブレッドの血統と能力の相関関係を明らかにするためではなく、専ら経済動物であるサラブレッドを疾病から守るために行われている。
※この「統計的手法の欠落」の解説は、「競走馬の血統」の解説の一部です。
「統計的手法の欠落」を含む「競走馬の血統」の記事については、「競走馬の血統」の概要を参照ください。
- 統計的手法の欠落のページへのリンク