統合失調症における「病識」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 23:32 UTC 版)
統合失調症の発症初期は、「誰かの声が聞こえるような気がする」「誰かに見張られているような気がする」などと言った、漠然とした感覚として現れることが多く(統合失調症のリスク期)、この段階では「自分は病的な状態にあるのではないか」と言う「病感」「病識」がある場合も多い。 しかし、そのまま治療を受けないでいる(Duration of untreated psychosis、DUP、精神病未治療期間が長くなる)と、統合失調症の症状の一つである「現実検討能力の欠如」や、統合失調症に対する差別意識の強さなどもあって、「自分は統合失調症である」と言う可能性を排除しながら自分の感覚を合理的に解釈して、「自分は村の有力者に嫌われて村八分になったので、村の人がみんな自分の悪口を言うようになった」「自分はネットでカルト教団を批判したので、カルト教団の構成員らに常に見張られるようになった」などという結論に至る。病状の進行から、統合失調症の陽性症状である「幻覚」や「妄想」などが現れるようになり、「村の人が自分の悪口を言っている」「自宅周辺で複数の人が自分を見張っている」ということが「事実」として患者に確信される段階に至ると(統合失調症の急性期)、「病識」は無くなってしまう。この段階で、ようやく家族などの周囲の人が、患者が病的な状態にあるという「病識」を得ることが多いが、患者本人の病識が無いため、「家族が村の有力者に騙されて、自分が統合失調症だと思い込んでいる」「カルト教団に洗脳された家族が出鱈目な理由で自分を拉致しようとしている」などと解釈され、患者を病院に連れて行くことは困難になっている。 統合失調症のリスク期で治療を受けた場合、基本的には投薬治療を行わず、ストレスを減らすなどの生活環境の改善だけで済む場合が多い。しかし統合失調症の急性期より以降で治療を受けた場合、患者に「病識」を持たせることよりも、まず治療(投薬治療)が優先される。急性期の記憶が残らない患者も多いため、患者の状態が落ち着いた後、長期の治療においてゆっくりと「病識」を持たせることが必要になる。 統合失調症の患者が「病識」を持った時、「病識」を持てるほど回復した、つまり寛解したと見なされ、治療の一つの指標となる。しかし、急性期を過ぎた患者が「病識」を持った時、過去の自分を理性的に振り返って苦しみを覚え、自殺などを起こしやすいため注意が必要である。「病識」を持つことの苦しみからか、社会生活を送れているほど寛解した統合失調症患者であっても、過去の自分が統合失調症であったという「病識」を持たないこともある。「統合失調症」という病識を無理に持たせる必要はなく、「何か」の治療を行うことで社会生活を送れているなら充分である。「病識欠如」よりも「治療の中断」が最も避けるべきことで、病気の再発や悪化を招くので、「病識」が無い場合は周囲のサポートが不可欠である。
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