病原性の進化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/14 18:16 UTC 版)
宿主と寄生者の生態に関する概念として、病原性の最適化という考え方がある。 まず病原性の定義の一つは、寄生者により宿主の適応度が減少することである。寄生者自身の適応度は、他の宿主へ感染して増殖し、子孫を残すことに成功するかどうかによって決定される。病原性は時間の経過とともに緩和され、寄生関係は共生へと進化していくという仮説に、一時は研究者の間では意見が一致していた。 しかし、この見解は疑問視されるようになってきた。なぜなら抑制されすぎた病原体はより多くの宿主資源を自らの繁殖に転用するより攻撃的な病原体株との競争に負けてしまうためである。宿主は、ある意味で寄生者の資源であり、生息地であることから、このより高い病原性の影響を受けることになる。これはより速い宿主の死を誘発し、別の宿主に遭遇する確率を低下させることによって、寄生虫の適応度を減らすよう作用する可能性がある。(すなわち、病原性を上げるために宿主を早く殺しすぎてしまう)このモデルでは病原性にトレードオフが存在し、寄生者に「自己制限」するように圧力を与える自然の力が想定される。 上記のように寄生者の適応度が最も高いところに病原性の均衡点が存在するという考え方を病原性の最適化という。病原性の軸上でより高い病原性または低い病原性の獲得に向かって移動すると、寄生者の適応度が低下し、その結果、自然選択がはらたくことになる。 また、感染性についても進化の圧力がかかる仮説がある。新しい宿主への感染、繁殖率を増加させる形質が病原体集団内で広がりやすいことは考えるにたやすい。通常、宿主集団よりも病原体集団の方がより高い突然変異率を持ち、病原体の急速な生成速度による膨大な個体数増加ができることが、これらの形質を可能とさせる。ほんの数世代で最適な突然変異体の頻度が増加することで、宿主に多くの害をもたらす。病原体の病原性・感染性で宿主を殺しすぎてしまい自らの伝染を妨げてしまう場合、病原性・感染性抑圧の進化圧がはたらくと考えらえるが、例えば、難民キャンプや避難所のような混雑した状況では新しい宿主への感染機会が失われず、病原性・感染性を維持し続けられる。 その他、病原性が偶然進化したという仮説も考えられる。一般的に病原性は宿主と寄生者の共進化によるものではなく、独立した進化の産物として単なる偶然によって病原性を獲得した可能性がある。
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