海洋の生物生産
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/25 22:24 UTC 版)
陸上でも海中でも、生命活動の基本となるのは植物による光合成である。海水中に太陽光が届く深さは200m程度までで、その範囲は海洋のごく表層に限られる。陸地周辺の数十mまでの浅い海では海底まで光が届くので海藻などの大型植物も繁茂できるが、大洋では植物プランクトンが光合成を行う。植物プランクトンの生命活動には太陽光以外にも栄養塩が必要である。地上の植物には肥料として窒素・燐酸・カリウムを施すが、海水中では窒素・燐酸とカリウムの代わりに珪素が必要となる。(陸地では珪素は地中に大量に存在するので肥料として施す必要は無い。逆に海洋ではカリウムは水中に大量にあるが珪素は少ない) 海中の食物連鎖は、海面近くで栄養塩を使って植物プランクトンが繁殖し、植物プランクトンは動物プランクトンに食べられ、動物プランクトンが魚に食べられるという形を取る。プランクトンや魚の死骸や糞は徐々に分解されながら海中に沈んでゆくので、栄養塩は海の表面近くでは枯渇気味となるが、水深200m以深の深海の海水(海洋深層水)に栄養塩は多く含まれる。 一般に、黒潮などの暖流系の海流は栄養塩が少なく、親潮などの寒流系の海流は栄養塩が多い。また、日本の東北地方の三陸沖では、親潮の栄養塩に加えて、黒潮と親潮がぶつかり渦が発生して栄養豊富な深海の海水も表層に供給されることで、魚類の餌となる大量のプランクトンが発生し、日本有数の好漁場を形成している。また、アメリカ大陸太平洋側のカリフォルニア州沿岸やペルー沿岸は海底地形の形状により深海の海水が湧昇する場所で、豊富な栄養供給により魚類の餌となる大量のプランクトンが繁殖して好漁場となっている。また冬季に結氷するような寒冷な海では海面水温が低下して比重が高くなって沈み、海洋深層水の源となる。なお、海洋の表層を流れる暖流寒流の海流と水深200m以深の海洋深層水の海流は流れの方向が異なっている場合が多い。 陸地近くの浅い海は、河川や石、泥、生活工業排水、農業の肥料、畜産業の糞尿などの陸地からの栄養塩の供給が豊富にある上、海底が浅瀬から沖へ向かって緩やかに深くなっているため、潮汐や潮流によって攪拌されやすく、栄養塩やプランクトンが適度にかき混ざり(留まりにくいため)、一般に生物生産性の高い海域となる。イギリスの東にある北海のドッガーバンクは世界的に有名な漁場である。 ちなみに海の匂い、いわゆる磯臭さは藻類、植物プランクトンが作り出したジメチルスルホニオプロピオナートが分解されて生成されたジメチルスルフィドによるものである。
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