治療対象からの除外
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 23:00 UTC 版)
WHO(世界保健機関)の疾病分類「ICD-10」、アメリカ精神医学会「DSM」では、同性愛は「異常」「倒錯」「精神疾患」とはみなさず、治療の対象から外されている。そして同性愛などの性的指向について、矯正するのは間違いであると記載している。 かつて「DSM-Ⅰ」で同性愛は「病的性欲をともなった精神病質人格」と規定されていたが、1973年12月、アメリカ精神医学会の理事会が、同性愛自体は「精神障害として扱わない」と決議した。それにより、1974年の『DSM-Ⅱ第7刷』以降は「同性愛」という診断名は削除され、代わって「性的指向障害」という診断名になった。 1980年の「DSM-Ⅲ」では「自我異和的同性愛」という診断名が登場した。「自我異和的同性愛」とは、自らの性的指向で悩み、それを変えたいという持続的願望を持つ場合の診断名である(同性愛者であることを自ら肯定できている場合は病気ではない)。しかし、この診断名も同性愛自体が障害と考えられているとの誤解を生んだことや、自らの性的指向で悩むのは本人に問題があるからではなく、社会の偏見に起因するという問題意識から、1987年のDSM-Ⅲの修正版「DSM-Ⅲ-R」では、これも性障害から除外された。そして1990年の「DSM-Ⅳ」で、精神疾患リストから同性愛は完全に削除された。 またWHOのICD国際疾病分類の第9版「ICD-9」(1975年)では「性的逸脱及び障害」の項の1つに「同性愛」という分類名が挙げられていたが、1979年には「精神障害と考えられるべきか否かにかかわらず、同性愛をここに分類」との注釈がついた。そして1990年採択の「ICD-10」では「同性愛」の分類名は廃止され、「自我異和的性的定位」という分類名が用いられたが、「性的指向自体は、障害と考えられるべきではない。」と注釈がついた。これにより、同性愛自体は精神障害とされなくなった。1993年、WHOは再び「同性愛は、いかなる意味でも治療の対象にならない」と宣言した。 日本の厚生省は、1994年にWHOの見解を踏襲し、日本精神神経学会も1995年にWHOなどの見解を尊重すると表明し、「同性愛は、いかなる意味でも治療の対象とはならない」と宣言している。文部省も1994年に、指導書の「性非行」の項目から同性愛を削除した。 このように、同性愛そのものは疾患では無い。ただ同性愛である事によって差別されたり、社会規範との適合性から思い悩み、鬱病など精神障害を発症するケースがある(後述も参照)。その場合は『同性愛者を差別する社会病理に根ざした鬱病』として捉えられる。
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