治療と薬剤のキャリア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/03 01:31 UTC 版)
「エクソソーム (小胞)」の記事における「治療と薬剤のキャリア」の解説
エクソソームはin vitroでもin vivoでも強力な細胞応答を引き起こす能力を持つため、治療薬としての可能性の認識が高まっている。エクソソームは、幹細胞集団に観察されていた生理活性を再現するように、損傷や疾患時の再生作用を媒介する。間葉系幹細胞由来のエクソソームは、創傷や骨折の治癒に重要ないくつかのシグナル伝達経路(Akt、ERK、STAT3など)を活性化することが判明している。また、それらは多数の成長因子(肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様成長因子1(IGF1)、神経成長因子(英語版)(NGF)、間質細胞由来因子1(英語版)(SDF1))の発現を誘導する。通常の創傷治癒に傍分泌を介して関与する間葉系前駆細胞集団であるcirculating fibrocyteから分泌されるエクソソームはin vitroで血管新生促進作用を示し、糖尿病患者由来の皮膚線維芽細胞を活性化し、ケラチノサイトの遊走と増殖を誘導するとともに、in vivoでは糖尿病マウスの創口閉鎖を加速した。エクソソームの積み荷の重要な構成要素は、Hsp90α(英語版)、STAT3、血管新生促進性miRNA(miR-126、miR-130a、miR-132)、抗炎症性miRNA(miR124a、miR-125b)、そしてコラーゲンの蓄積を調節するmiRNA(miR-21)であった。また、口腔ケラチノサイトから分泌されるエクソソームは創傷治癒を加速し、ヒト由来のエクソソームをラットの創傷に投与した場合でも効果がみられる。エクソソームは体の内在システムに存在しており耐性が高いため、siRNAを効率的に送達するキャリアとしても有望であると考えれている。患者由来のエクソソームはがんの免疫療法として、いくつかの臨床試験が行われている。 エクソソームには、効果の高い薬剤キャリアとして独特な利点が存在する。エクソソームは複数の接着タンパク質を含む細胞膜から構成されているため細胞間コミュニケーションに特化しており、さまざまな治療薬を標的細胞へ送達するための他にはないアプローチを可能にする。ある研究では、抗がん剤パクリタキセルの送達媒体としてエクソソームが用いられた。薬剤は白血球由来のエクソソームの内側に配置され、薬剤抵抗性肺がんのマウスへ注入された。パクリタキセルをエクソソームへ取り込むことで細胞毒性は50倍以上に増加したが、これは気道から送達されたエクソソームが肺がん細胞とほぼ完全に共局在するためである。
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