武谷三男の認識の三段階理論の影響
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「板倉聖宣」の記事における「武谷三男の認識の三段階理論の影響」の解説
板倉に大きな影響を与えた科学者に武谷三男がいる。武谷は自身の量子力学の研究から「武谷三段階理論」を提唱した。武谷の三段階論とは 科学の法則には 現象論的段階 実体論的段階 本質論的段階 の三段階があり、「科学的な理論はこの三段階を経て発展していく」というものである。 板倉は自身の修士論文と博士論文で「古典力学と電磁気学と量子力学の3つの理論の発展段階」を武谷の三段階理論で解明して、その発展の法則を比較検討した。 板倉は「現象論」が科学上の発見に重要であることを強調している。その1つの例として「日本の脚気研究史」を取り上げ、小説にまとめている。板倉は「脚気の原因が解明されていなかった時期には、いきなりその病気の原因である実体を極めることはできない」から「麦飯とか玄米が脚気に効く」という現象そのものを明らかにすることが必要であったのに、当時の東京大学医学部の教授たちや陸軍軍医本部の森林太郎(鷗外)たちは「なぜだか分からないが脚気に麦飯が効く」という現象論的法則を非科学的であると攻撃し、結果的に日清戦争や日露戦争で何万もの兵士を脚気で死なせたことを批判した。それに対して西洋医・オランダ医者であった軍医の堀内利国は、最初は脚気に麦飯が効くことを漢方医の迷信としていたが、部下が報告した全国の監獄での麦飯食の脚気への効果を知って、「なぜだか分からないが麦飯が脚気に効く」と現象論的法則が正しいことを確信した。そして堀内の管理する兵食を麦飯に変更して脚気を劇的に減らすことに成功したことを高く評価した。板倉は、性急に怪しげな実体論を追求するよりは、現象論的法則を法則として評価・認識できる者が脚気の原因究明の歴史では創造性を発揮したと堀内を評価している。 このことから板倉は三段階理論のうち、えてして「現象論」は低く見られることが多いが、現象論的な法則の研究が発見には重要だと主張した。さらに板倉は「1回きりの事実は現象論的法則とは違う」として、現象論的法則とは単なる事実とは違う「何回繰り返しやってもいつも同じようになる法則的な事実」であり、「何度やってもそうだ」という法則の重要性が分かることが新発見につながるとしている。 そしてこのような現象論的法則が確立して、初めて「なぜ麦飯や玄米が脚気に効くのか」が問題になり、そこから「玄米中のどんな成分が脚気に効くのか」という研究が発展し、「ビタミンB1という物質=実体」が発見され、脚気の研究が実体論段階に達したのだと主張した。 「堀内利国#堀内利国の独創性」も参照
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