権力の構成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/09 19:39 UTC 版)
オクタウィアヌスは「アウグストゥス」の称号の他に、共和政時代から存在したプリンケプスという「第一人者」の意を持つ地位にもあった。彼は暗殺されないために最高権力者を連想させる振る舞いを極力避けた。そんな彼にとって直接の職権を伴わないこの「プリンケプス」という名誉称号は表向きとしては格好の隠れ蓑となった。したがってアウグストゥスや同様の構成をとった後継の皇帝たちの統治体制は「プリンケプスによる統治」、すなわちプリンキパトゥスと呼ばれている。 アウグストゥスの統治はあくまで共和政の継続という外面を持っており、その権力も独裁官という非常時大権ではない、共和制平時のさまざまな権限を一身に帯びるという形で構成されている。一つ一つは完璧に合法でありながら、それらを束ねると共和制とはひどく異質な最高権力者の地位となる。こうした地位についてアウグストゥスは「私は権威において万人に勝ろうと、権力の点では同僚であった政務官よりすぐれた何かを持つことはない」と自身で表向きの説明をしている。プリンケプスの地位を構成したうち、主要なものは執政官の権限、上級のプロコンスル(属州総督)権限、トリブヌス・プレビス(護民官)職権の3つで、プリンケプスの権力は基本的にはこの3つから説明される。これら3つの権限はアウグストゥスがローマを合法的に統治する根拠であると同時に、執政官権限、上級属州総督権限の2つは合わせると実質全ローマ軍の統帥権を意味し、アウグストゥスが軍事力を掌握する根拠でもあった。以上の行政権、軍事力のほかにアウグストゥス自身が述べるように圧倒的な「権威」が重要な要素であった。アウグストゥスはポンティフェクス・マクシムス(最高神祇官)という神職にも就任しており宗教上の最大権威者となってもいたが、それ以上に「内乱の最終的な勝者」という軍事的実績を伴った権威は正面からの体制への挑戦者を寄せ付けなかった。 このようにアウグストゥスが得た称号や権限をまとめると以下のようになる。こうした称号のうちいくつかはのちに「皇帝」の意味で使われることになる。 「プリンケプス」(市民、元老院の中の第一人者)の称号。 「執政官のインペリウム」 - ローマの行政権の根拠。およびイタリア半島における軍指揮権。 「上級の属州総督のインペリウム」 - 皇帝属州の行政権、およびそれ以外の元老院属州への影響力を保障。また属州に配置された軍団の指揮権。 「護民官職権」 - 身体の不可侵権、元老院への議案提出権、民会召集権など。殊に拒否権は最重要の権力であった。 「カエサル」の称号 - アウグストゥスがカエサルの養子になって後を継いだ事に由来する。元来はユリウス氏族に属した家族名。 「アウグストゥス」の称号。単なる尊称ではあるが、「聖なる」といった響きは影響力を持たずにはいられない。 「インペラトル」の称号の個人名としての使用 - 養父カエサル同様に「インペラトル」を個人名として使用し、この称号の使用を事実上独占。 「最高神祇官」の職。 「国家の父」の称号。
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