未来史と歴史改変SF
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 04:47 UTC 版)
過去の事象を実際とは異なった形で描く歴史改変SFとは異なり、未来史は書かれた時点から見て現在および未来の事象を描く。 歴史改変SFの作者は、その事象が実際にはどう進展したかを知っていて、その知識が架空の改変された結果の記述にも影響を与えている、という点が大きく異なる。未来史の作者はそのような知識を持たず、その時点の未来に対する推測や予測だけに基づいて書いている。その結果、後になってみれば大きく間違っていることが判明することが多い。 例えば、1933年に書かれたH・G・ウェルズの The Shape of Things to Come では、ナチス・ドイツとポーランドの軍事力が拮抗しているため、第二次世界大戦は両者が決着をつけられないまま10年以上も戦うとされていた。また、ポール・アンダースンの1950年代初めに書かれた《惑星間協調機関》シリーズでは、1958年に破滅的な核戦争が起きることになっていて、それでも21世紀には地球上に文明が再建されるだけでなく、月やいくつかの惑星への植民も達成されている。彼らが、第二次世界大戦におけるポーランドの崩壊の早さや、荒廃していない世界でも宇宙計画がそれほど迅速に進まないことを知っていたら、このような作品は書かなかっただろう。『2001年宇宙の旅』で描かれた未来では、宇宙旅行や宇宙での居住が達成されているが、現実にはそのような速度で宇宙開発が進むことはなかった。 未来史SFの問題は、実際の時間が追いついてしまい、内容が時代遅れになってしまう点である。例えば、H・ビーム・パイパーの未来史では1973年に核戦争が起きることになっていた。また、『スタートレック』の未来史もそうなっている部分がある。この問題への対策はいくつか存在する。 第一に、一部の作者は未来のどの時点であるかを明記せず、何らかの技術的インパクトなどによって社会が一旦崩壊したために、現在の暦が使われていない社会を描く。これに関連して、非常に遠い未来のこととして描く方法もある(例えば、アシモフの初期のファウンデーション三部作)。別のケースとして、近未来を描いた小説であっても、その小説世界の過去が現実とは明確に異なったものとして描かれている場合もある(例えば、ケン・マクラウドの Engines of Light 三部作)。 スタートレックの世界では、架空の未来史と現実の歴史の結合は後付け設定を多用して行われている。『ドクター・フー』の場合、秘史として説明されることが多い(すなわち、そういうことは実際にはあったのだが、秘密にされ、一般には知られていないとする)。 ハインラインの場合のように、既に書いた未来史が現実に追いつかれてしまっても、その部分を「デ・ファクト」の歴史改変SFとして扱う作家もいる。 作家によっては、現実に追いつかれたときに、未来史を歴史改変SFに明確に路線変更することもある。例えばポール・アンダースンは《惑星間協調機関》シリーズを1950年代初めに書き始めた。その中で1958年に核戦争が起きることになっていたが、1980年代に続編が書かれたときには、なぜその世界の歴史が現実の歴史と変わってしまったのかを序文で説明していた。
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