教会名称としての定着と発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/06 08:26 UTC 版)
「福音主義」の記事における「教会名称としての定着と発展」の解説
宗教改革者マルティン・ルターは、「福音」(Evangelium)、「福音の」(evangelisch)という概念を、使徒パウロの『ガラテヤの信徒への手紙』1章7節にならって用いた。その際ルターは「福音」を、イエス・キリストへの信仰によってのみ救われるという使信に結びつけている。福音主義(evangelisch)はルターにとってキリスト教会そのものであった。なぜなら、キリスト教会はイエスの使信を宣教するからである。 しかしながら、「ルター派の」(lutherisch)と「福音の」(evangelisch)という語を特定教派の名称として使用することについて、ルター本人は忌避した。 宗教改革の進展の中で、「福音主義」(evangelisch)という語が教派を示す意味を持つようになった。ヴェストファーレン条約締結後の1653年以降になると、公的な名称として、マルティン・ルターの流れを汲む「福音ルター派教会」(Evangelisch-Lutherische Kirchen)および、ツヴィングリ派の一部とジャン・カルヴァンの流れ(カルヴァン主義)を汲む「改革派教会」(Reformierte Kirchen)という名称も認知され始めた。1817年にルター派と改革派の教会合同によって成立したプロイセン福音主義教会において、「福音主義の」(evangelisch)という語が合同教会を包括的に示すものとして使われた。 さらに、現代のドイツ語圏において「福音主義の」(evangelisch)という語は、ルター派教会、改革派教会とその2派の合同教会以外にも、米国・英国を中心とするメソジスト、バプテスト等、いわゆるプロテスタント諸教派の自由教会に対しても使われている。そのような広義の「福音主義教会」への所属を示すものとしても、「福音主義の」(evangelisch)という語が使われている。 「プロテスタント」という語も存在するが、個人の信仰を表明する場合にはあまり用いられない。プロテスタントという語は、ルター派教会、改革派教会等という特定の教派ではなく、広義の宗教改革に立脚する教会全体を指す。自由主義が支配的だった19世紀後半から20世紀初めのドイツにおいて、プロテスタントという語は現在よりも積極的に使われていた。しかし、現代ドイツにおいてプロテスタントという語は、福音主義(evangelisch)と同じ意味で使われる場合もあるが、そうではなく、教会政治において革新的(急進的)路線を支持する人物、また、それとは反対の立場である保守派が、プロテスタントという語を用いて自らの立場を表明することもある。近年のドイツの福音主義教会では、(神学的)自由主義(リベラル、進歩派)の影響が強く、教会の人事等でも(穏健な)進歩派が強い地域が多い。この進歩派優勢の状況に不満を持つ教会内の保守派、あるいは急進派が集会を開催する場合に、主流の(穏健的)進歩派に抗する「プロテスタント(抗議者)運動」と称することが多いのである。教会政治における主流派に抗する革新派(急進派)・保守派の両対極集団が「プロテスタント」という名称を用いることを好むので、プロテスタントという語は現代ドイツでは政治的色彩を帯び続けている。
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