損失隠し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/03 03:03 UTC 版)
この裏では、取引損失を連結決算対象外の子会社(特別目的事業体: Special Purpose Entity, SPEと省略されるシャドー・バンキング・システム)に付け替えて簿外債務とすることも積極的に行われた。会計を全米有数の会計事務所であったアーサー・アンダーセンが担当していたために、決算における市場の信頼は厚かったが、実際にはアーサー・アンダーセンならびに顧問法律事務所も、数々の違法プロジェクトの遂行や粉飾決算に加担していた。 損失を簿外に隠蔽するプロジェクトの例として、ADSLをベースとするISPであったリズムス・ネットコネクション株に関するLJMプロジェクトがある。エンロンはリズムス株を1998年3月に1株あたり1.85ドルで買収したが、1999年4月に同社が上場すると上場日の終値は69ドルにもなり、その後も上昇を続けたため、エンロンが採用していた時価会計によって評価益が発生した。しかし、実際には契約によりエンロンはリズムス株を4年間売却することができず、あくまでも経理上の評価益にとどまっていた。 このリズムス株の値下がりリスクをヘッジするという名目で、エンロンはSPEであるLJMパートナーズを設立した。最大で3億ドル近くあった評価益を、エンロン本体は1億ドルのみ計上して、残りの2億ドル程度をLJMに移管し、その代わりにリズムス株が値下がりした場合の損失はLJMが負担することとした。LJMは事実上、エンロンと一体のものであったが、巧妙に連結対象外となるように仕組まれており、リズムス株がその後急落して評価損が出るとその損失を簿外に隠蔽する役割を果たした。 さらに、LJMの設立にあたっては、CFOのアンドリュー・ファストウをはじめとする幹部がエンロン本社の取締役会の承認を得ずにLJMの役員を兼任して高額の報酬を得ていたり、アーサー・アンダーセンや顧問法律事務所にも多額の手数料が渡っていた。 リズムスはその後2001年8月に破綻したため、本来であればエンロン本体として計上すべき1億ドルの損失が隠蔽されることになった。LJMの場合には当初の設立目的は損失隠しではなく、結果的にその役割を果たすことになったが、後には多くのSPEが最初から巨額の損失を簿外に隠蔽する目的で設立された。
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