換字式暗号からより複雑な暗号へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/13 21:18 UTC 版)
「暗号史」の記事における「換字式暗号からより複雑な暗号へ」の解説
換字式暗号は、9世紀頃にはアラビア人によって、頻度分析という手法が発見されたことによって看破された。ヨーロッパではその方面の研究は発達せず、長らく単一換字式暗号が安全な暗号として使用されていた。15世紀になるとルネサンスの影響も受け、急速に発達し、この頃にようやくヨーロッパでも頻度分析の手法が確立した。 頻度分析によって、単一換字式暗号は安全ではなくなってしまった。単一字の(連綴を対象としない)頻度分析に対して対抗するための代表的な防衛法としては、次のようなものがある。 平文そのままではなく、文中に無意味な文字(冗字。虚字、捨字とも)を混ぜてから暗号化する。復号後、冗字に復号されたものは捨てる(ないし空文字列に復号する)。分析を混乱させることが目的である。 度数秘匿方式たとえば、平文では頻度の高い文字eにe1・e2・...のように複数種の記号をランダムに割り当てる、といったようにして、真の頻度を隠匿する(秘匿度数方式、homophonic substitution)。 たとえば、平文では頻度の低い文字qとzを同じ記号に割り当てる、といったようにして、真の頻度を隠匿する(逆秘匿度数方式、polyphonic substitution)。こちらは、何の工夫も無い場合は直後にuがあったらqだろう、といったように復号が機械的にはできない。 など、様々な工夫が凝らされるが、15世紀後半から16世紀にかけて、それでも、安全ではなくなってきてしまった。 同時期に「ヴィジュネル暗号」などの多表式換字暗号と呼ばれる、より安全性の高い暗号が考え出されていた。例えば、たとえばaが必ずcになるような従来の方法ではなく、aaとかbbとかccという綴りが原文にあっても、対応する暗文はcgといったようになるような(つまり、同じ文字でも暗号化されると違う文字になる)方法である。単一換字式暗号に比べて安全性は高いが、暗号化・復号が煩わしかった為、あまり使われなかった。 17世紀にあったエピソードに、ニュートンがライプニッツに向けて、微分法と微分方程式の解法に関して述べた文を「暗号文」にして送った、というものがある(これは、両者の関係が決裂的になる以前の話である)。ラテン語で書いた原文を元に、それに使用したアルファベットを順に使用した個数並べた、アナグラムの一種で(最初の部分を示すと "aaaaaa cc d æ" といったようなものである)、現代の暗号学の観点から言うと、解読可能な暗号と言えるようなものではない。暗号のつもりであったのか、自分の発見であることを示すための、一種の言うならばハッシュ関数による署名のようなものであったのかは謎とされている。 18世紀頃には、外交や軍事上の必要から安全性の要求が高まると、面倒だが安全なヴィジュネル暗号も使うようになっていった。 ヴィジュネル暗号には、鍵の周期性という弱点があった。変換表は鍵によって逐次切り替えられるが、鍵自体は固定のため、鍵の長さごとに暗号文を調べると、それは同じ変換表によって単純換字された暗号になっているため、頻度分析によって解読できてしまう。この解読法は19世紀の中頃に発見されて、ヴィジュネル暗号も解読されてしまった。
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