投資と利潤
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/03/20 04:24 UTC 版)
このように、ある行動をとるために「消費する何か」と、それによって「得られる何か」を比べて、差引して得られるものの価値が最大になるように進化するだろうというのが最適戦略選択説である。ここで消費する何かを投資(コスト)、得られる何かを利潤(ベネフィット)と言う。コストは動物の種や場合によってさまざまで、時間であったり、自らの危険であったり、エネルギーであったりする。これらはいずれも個体にとって有限の資源である。ベネフィットも、餌、住みか、配偶者、その他さまざまである。したがって、このコストとベネフィットを直接に比較して計算するのは簡単ではないが、短期的にはエネルギーに換算すれば差引が可能になる場合も多いし、長期的には(あるいは繁殖に関係するなら)適応度のような形で計算することもできる。 コストとベネフィットという考えは、生態学において、さらに広い範囲で利用される考え方になった。行動生態学の発展によって行動の進化を群れ単位ではなく、個体単位で考えることが可能になった。 たとえば繁殖に関する行動では、雄と雌では子供へかけるコストが異なることが明らかになっている。哺乳類では雌は胎内で子供をかなりの大きさまで育てるうえ、生まれた子供をさらに哺乳して育てる。それに対して雄は子育てにどのようにかかわるかを別にすれば、わずかの量の精子が必要なだけである。つまり、子を得るために自分が提供するエネルギーの量が性によって大きく異なる。さらに、雌は妊娠中は余分な体重を支え、さらに出産をするが、そのあいだに自らの生命を危険にさらすのもコストの一部である。そこで、繁殖戦略はオスとメスで異なり、時には両者の利害が衝突することもあるだろうと考えられるようになった(性淘汰#雌雄間の対立も参照のこと)。たとえば、子供を育てられる場合、その育てる子供の価値は、雄にとってよりも雌にとってのほうが高くなることが多いと考えられる。また、メスだけが育児する生物に限れば、同時に子供の存在がコストに見合うかどうかを判断しなければならない率もメスのほうが高いといえる。メスだけが子育てをする動物では、メスはコストに見合わないと判断した場合育児放棄や子殺しを行う。この場合、子供へのコストをかければかけるだけ子供を殺した時のロスは大きいので、なるべくコストを払っていない段階で子殺しをしたほうが得策であるが、実際は子がある程度成長しても必要に応じて子殺しは見られる。しかし子殺しはメスのみが行うものではなく、オスも子育てに参加する種では、オスは自分以外の子を殺してメスに自分の子を生ませることがよく起こる。これは自分以外の子供、特に赤の他人の子に投資するリスクは繁殖戦略として基本的に無価値であること、またそれを避けるための子殺しは抵抗される可能性が少なく、リスクはゼロに等しいことがある。ヒトの場合はメスが重い子育ての負担をしながらも、オスも子育てに多少かかわり、かつオス優位の群れで生きる生物であるので、どちらのタイプの子殺しも起こり、また群れ全体の利益も間接的なファクターとして子殺しにかかわってくる。 この論理をヒトに当てはめ、雄はあちこちで受精して回る方がより多くの子を残せるから、浮気性に進化するのだ、と言った説もあり、ある程度までは正しいとされるが、実際には雄が育児に参加した場合の育児成功率も考慮せねばならず、個々の動物について具体的に検証しなければならない。
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