巡礼との関連
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 04:55 UTC 版)
教会内部の柱にプレイヤー・タブレットが掛けられていることから、『教会の聖母子』に描かれている教会は巡礼教会であると推測される。このことからクレイグ・ハービソンは、この作品には巡礼に関する秘蹟も描かれているのではないかとしている。このようなタブレットには奉納者それぞれの祈りや願いが詳細に書かれており、特別な聖像や絵画の前、あるいは教会内部に捧げられたものだった。プレイヤー・タブレットには現世での罪を赦し、死後に煉獄へと落ちることを防ぐ効果があると信じられていた。描かれているプレイヤー・タブレットが捧げられているのは、マリアの左肩後方の壁龕に置かれた聖母子の彫像である。失われたオリジナルの額装に刻まれていたキリスト降誕に関する文言は、「ETCET」という文字で終わっており、これは「エトセトラ (etcetera)」で、おそらくはこの作品の鑑賞者全員に対する贖宥状となっている。しかしながら、『教会の聖母子』の本来の制作目的は、あくまでも個人的な祈祷用や巡礼の再現を目的としたものだった。ヤン・ファン・エイクのパトロンだったフィリップ3世は数多くの聖地巡礼を行った君主だったが、1426年にヤン・ファン・エイクに対して個人的な贖宥状を与えた記録が残っている。中世後期のヨーロッパではこのような慣習が広く受け入れられていた。 『教会の聖母子』に描かれている聖母マリアと幼児キリストは、背景にある聖母子の彫像が具現化したものである。当時このような現象に遭遇することは、巡礼時における最高の神秘体験であると考えられていた。具現化した聖母子と彫像の聖母子のポーズは酷似しており、マリアが被っている丈の高い宝冠も、実際の王族が着用する王冠や、マリアを描いた絵画作品に見られる宝冠ではなく、マリアをモデルとした彫刻作品によくみられる表現である。さらにハービソンは、具現化した聖母子の背後の床面にある二つの光のスポットが、彫刻の聖母子の両横に立てられたロウソクに呼応しているとしている。
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