実証主義的反論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 12:44 UTC 版)
遊牧民族征服説を覆したのが考古学と人類学の研究だった。多くの研究者がこの説では初期のヨーロッパでの宗教生活を説明できないとした。考古学的な記録から見て、インド・ヨーロッパ語は軍事力だけでヨーロッパとアジアに広がっていったものではないと考えられた。非インド・ヨーロッパ文明にも男性優位の神殿があり、それは占領や征服の結果ではなかった。女神信仰と女性の社会的地位の間に想定された歴史的な関係も、直接的には証明できなかった。そればかりでなく、農耕民だから女神を、遊牧民だから男神を崇拝するという証拠もそれほど多くはなかった。インド・ヨーロッパ人が、先住民より家父長的で男性優位な信仰を行っていたことを信ずるに足るいかなる理由もなく、他の多神教以上に、女神を追い払い男神をその代わりに据えようとしたとも考えられなかった。 たしかに、*dyeus-ph₂têr というインド・ヨーロッパ祖語名で再構成された男性の父なる天が、ギリシア神話にゼウスの名で、ローマ神話ではユーピテルとして現れたことは事実であり、北欧神話ではテュール、ヴェーダの伝えるインド神話ではディヤウス・ピターとして現れたのも事実である。これらは同源の神名であり、原インド・ヨーロッパ信仰の共通する箇所から引き継がれたものである。しかし、実際には、これが最も広く引き継がれたインド・ヨーロッパ語族の神名というわけではなかった。 インド・ヨーロッパ祖語で *aus-os- と再構成される暁の女神は、さらに広範囲に後世に伝わっている。ギリシア神話ではエーオース、ローマ神話ではアウローラ、ゲルマン神話ではエーオストレ(Ēostre)、バルト神話ではアウシュラ(Aušra)、スラブ神話ではゾーリャ (The Zorya) 、ヒンドゥー教ではウシャス(Uṣas)である。これらの神格はすべて、ゼウス同様、語源が共通する。このように、インド・ヨーロッパ文化が他の文化に比べ、特に女神をおとしめる傾向や宗教上男性優位に向かう傾向を持っていたわけではない。
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