呂中干ノ地 の舞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/12/16 16:03 UTC 版)
呂中干ノ地ものは、定型的な譜(=呂中干ノ地)を繰り返しながら、段落で少し変化(オロシ)をつけながらも、さらに定型的な譜を繰り返し、少しずつ位(速度)を早めていく舞事の総称で、調子や位、舞手の役柄などによって下記に述べる種類がある。上掛(観世・宝生)では四段五節、下掛(金春・金剛・喜多)では五段六節が正式(どちらも五段と称する)であるが、三段四節に省略されることも多い。 中之舞 呂中干ノ地ものの基本形式とされるのが中之舞で、シテにかぎらず曲によってさまざまな役が舞い、中庸の位で、特に固有の性格というものも持たず、囃子の構成(大小中之舞・太鼓中之舞)や曲趣、役柄によってそれぞれに仕分ける。「熊野」と「松風」には「イロエガカリ」と呼ばれる特殊な譜があってから中之舞に入る。 序之舞・真之序之舞 中之舞に序とよばれる段がつけくわえられ、さらに位を重く(速度を遅く)したのが序之舞であり、女体や老人のシテが閑寂かつ幽玄に舞うものとされる。「羽衣」のような太鼓入りと「江口」「井筒」のような大小物とがあるが、大小序之舞で特に老女物はあらゆる舞事のなかでももっとも位取りを重く、静かに舞うものとされる。序がより荘厳に変化した真之序之舞(太鼓入りのみ)もあり、これは「老松」のような老体の脇能に限り、位は重いが運びが停滞しないようにさらさらと演じることを旨とする。序之舞は位が重いため演奏に時間を要することもあって、正式の五段で演奏されることは少ない。 破之舞 破之舞は序之舞や中之舞のあとに付けくわえられる一段程度の舞事で「松風」や「羽衣」にその例が見られる。 早舞・黄鐘早舞 早舞はかならず太鼓入りに限られる。早舞だが位が早いわけではなく、初段のオロシ以降が盤渉調に転調するのが特色で、調子が高くなり、あかるくのびのびと舞い、「融」のような貴公子の遊舞ものや、「海士」のような成仏の喜びをあらわす舞事に用いる。これを黄鐘調かつ大小物で奏するのが黄鐘早舞で、通常の早舞よりも鬼や幽霊のつよさが勝ったさまを表現する。黄鐘早舞は「松虫」のような曲のほか、早舞ものを脇能として演ずる際に用いられる。小書として「クツロギ」がつくと途中で特殊な譜となりシテが橋掛かりでくつろぐ演出がある。流儀によっては黄鐘早舞は無く、そのときは男舞を演奏する。 男舞 男舞は「安宅」「盛久」など現在物の直面の武士が速く颯爽と舞う舞事で、必ず大小物に限る。 神舞 神舞は「高砂」「養老」のような脇能に用いられる舞事で、かなり位が速く颯爽と目出度く演じられる。必ず太鼓入りに限られる。 天女之舞 シテが舞う前にツレの天女が舞う場合があり、そこで演奏され三段形式の舞。太鼓中之舞よりやや軽快。 急之舞 急之舞は呂中干ノ地もののなかではもっとも位がはやい舞で、神舞の替に用いられるほかには「紅葉狩」の替と「道成寺」にあるのみである。 特殊なもの 以上のほか、特殊な舞事として、「雪」の雪踏之拍子や「羽衣」や「杜若」の小書に用いられる盤渉序之舞などがあり、さらに流儀によっては神舞のなかでも特に位の早い「高砂」「弓八幡」の二曲を真之神舞として独立して扱うこともある。さらに特殊であるが、「高砂」の小書にある八段の舞や、「融」の小書にある十三段の舞などもある。
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