原因論とは? わかりやすく解説

原因論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/13 10:50 UTC 版)

ヴェネツィアマルチャーナ図書館所蔵の15世紀ラテン語写本

原因論』(げんいんろん、ラテン語: Liber de causis[1]、または『純粋善について』(じゅんすいぜんについて、アラビア語: Kitab al–ḫayr al–maḥḍ[1]は、中世哲学イスラム哲学の書物。9世紀ごろ成立。作者不詳。新プラトン主義的な第一原因を主題とする。新プラトン主義伝来史の重要資料。

成立・伝来

5世紀ギリシアで、新プラトン主義者のプロクロスギリシア語で『神学綱要英語版』を書いた[2]

9世紀ごろバグダードで、キンディーの知的サークルに属する何者かが、この『神学綱要』をアラビア語翻訳翻案して『純粋善について』を書いた[1]

12世紀ルネサンススペインで、トレド翻訳学派クレモナのジェラルドが、『純粋善について』をラテン語に翻訳した。この訳書が『原因論』と呼ばれ、アリストテレスの著作と誤伝して広く読まれた[1][3]偽アリストテレス英語版文献)。

13世紀スコラ学者のアルベルトゥス・マグヌスロジャー・ベーコントマス・アクィナスブラバンのシゲルスガンのヘンリクスらが、『原因論』の注釈書等を書いた[3]。とくにトマスは、友人のメールベケのウィリアムが翻訳した『神学綱要』との比較を通じて、本書がアリストテレスの著作でなく『神学綱要』の翻案であると気づいた[1][3]

19世紀、ドイツのバルデンヘワー英語版らが文献学的研究を開拓した[4][5]

ギリシア語の『神学綱要』、アラビア語の 『純粋善について』 、ラテン語の『原因論』いずれも現存する。アルメニア語ヘブライ語写本もある[5]

内容

全31の命題からなる[1]。これは『神学綱要』の全211の命題を抜粋・再編し、多神教から一神教へと換骨奪胎したものである[1]。内容は神学形而上学存在論認識論[3]などに及ぶ。

日本語訳

2015年、本書の訳注を作る「原因論研究会」が新プラトン主義協会内に発足し[6]ウェブサイトに成果を公開していたが[7][2]2023年ごろからリンク切れになっている[7]

関連書籍

  • 岡崎文明『プロクロスとトマス・アクィナスにおける善と存在者 西洋哲学史研究序説』晃洋書房、1993年。ISBN 9784771006300
  • 土橋茂樹 編『存在論の再検討』月曜社、2020年。ISBN 978-4-86503-090-7
    • 西村洋平「『純粋善について』の存在論(一)初期イスラーム哲学のプラトン主義とアリストテレス主義」
    • 小村優太「『純粋善について』の存在論(二)AnniyyahとWujūd」
    • 小林剛「『純粋善について』の存在論(三)esseとyliathim」

外部リンク

脚注

  1. ^ a b c d e f g 堀江聡; 西村洋平 著「プロクロス」、水地宗明; 山口義久; 堀江聡 編『新プラトン主義を学ぶ人のために』世界思想社〈学ぶ人のために〉、2014年、213頁。ISBN 9784790716242 
  2. ^ a b 小林剛「アルベルトゥス・マグヌス『「原因論」註解』における宇宙論」『文学部紀要 哲学』第65号、中央大学文学部、2頁、2023年https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/records/17976  CRID 1520577215789597568
  3. ^ a b c d 藤本温「『原因論』と一三世紀のスコラ学」『新プラトン主義研究』第10号、新プラトン主義協会、17f頁、2010年。 NAID 40020803589https://jsns.jp/wp/repo/10/03.pdf 
  4. ^ C.J.de.フォーゲル英語版 著、大谷啓治 訳「Liber de causisに関する若干の考察」『中世思想研究』第9号、中世哲学会、1頁、1967年https://jsmp.jpn.org/jsmp_wp/wp-content/uploads/smt/vol9/1-27_vogel.pdf 
  5. ^ a b 岡崎文明「『原因論』における善一者,有,知性者 : プロクロス及びトマス・アクィナスとの関係において」『中世哲学研究 : Veritas』第9号、京大中世哲学研究会、26f頁、1990年。 NAID 110009664933https://doi.org/10.24517/00000103 
  6. ^ 山崎達也「イスラーム哲学と仏教との存在論的連関 ―井筒俊彦『意識の形而上学』の思想をもとに―」『通信教育部論集』第20号、創価大学通信教育部学会、130頁、2017年。 NAID 120006319730http://hdl.handle.net/10911/00039121 
  7. ^ a b 研究会について - 原因論 原因論研究会”. sites.google.com. 2022年11月2日閲覧。[リンク切れ]

関連項目


原因論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/04/30 08:18 UTC 版)

戦争哲学」の記事における「原因論」の解説

戦争の原因については様々な学問分野例え政治学経済学国際関係学心理学などで取り組んでいるが、そのどれもが決定論意思決定論性善説性悪説という哲学的な立場反映した例え人間は自らの行動を選ぶ自由な一切いとする極端な決定論では、戦争はこの国際社会必然的に発生する出来事であり、不可避である。しかし戦争とは不可避であるが人間予防手段講じてその被害最小化することは可能であると考え穏健な決定論立場もある。この決定論においては人間戦争の原因はなく、従って人間戦争責任はないと結論付けられる。また人間生存本能ダーウィニズム的な自然淘汰戦争の原因であるとする説もある。 その反対に意思決定論立場から見れば人間行為によって戦争引き起こされるものであり、その責任はすべて人間にあるという考えもある。これは社会的な条件説であり、具体的な原因として現実主義勢力均衡論、マルクス主義資本主義論などが挙げられる戦争経済的に見れば不合理な場合多くフランシス・フクヤマ戦争原因人間の持つ優越願望気概支配欲野心)であり、居丈高に盛り上がったナショナリズムであり、その本質は精神的なイデオロギー闘争であるとして、戦争を「認知求め闘争」と表現している。

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