分類学的試論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 02:24 UTC 版)
ポントピダンは、1680年にアルスタハウグに漂着した海棲生物の個体を、クラーケンかと推論したが、長い腕か触手がついており、これをカタツムリかナメクジ類のように伸縮させてまさぐっているうちに磯にからまってしまった未熟な個体だったのではないかと推察していた。後年、博物学者の ポール・バーチ(英語版)が、この過去例をおそらくダイオウイカと推論しており、文学者のフィンヌル・ヨウンソンも同意見であった。 しかし、ポントピダン自身は、当初クラーケンをカニ類だとも示唆し、タコ類かヒトデ類(厳密にはクモヒトデ目改めカワクモヒトデ目テヅルモヅル類)ともしており、特定をひとつの生物に絞り込めてはいない。 まずポントピダンは巨蟹の特定が妥当であるかのごとく、krabben という別名が、もっともその性質に近い、という考えを呈している。 「メデューサの頭」。クラーケンの幼生とされる(漁夫伝説)。 テヅルモヅル属 Gorgonocephalus caputmedusae(旧名 Astrophyton Linckii)。リンネの「アステリアス属カプト・メドゥーサエ属」こと「メデューサ頭」はこれではないかとのライマン(英語版)の推察がある。北海にもいる種である。 Gorgonocephalus eucnemis。同属のこの種が、英国北部で「シェトランド・アルゴス(Shetland Argus)」と呼ばれるテヅルモヅル種ではないかと、ベル(英語版)が考察、「メデューサ頭」もその言及か、としている。棲息分布は広い。 しかしさらに続けて、クラーケンと、古代ローマの大プリニウスが『博物誌』第9巻第4章で「アルボル」と呼んだ、まるで樹枝のような多数の足を持つ生物 との引き比べをしている。ただしポントピダンは、大プリニウスの「アルボル」と、類似した8本足の「ロタ rota」という伝説生物を混合していることを念頭に置かねばならない、その古代例を、クラーケンとみなしていたことが窺える。 そしてクラーケンはタコ類(ポリュプス)または「ヒトデ類」、であると断じた。 もっとも「ヒトデ類」は大雑把な言い方で、具体的にはポントピダンはステラ・アルボレセンス(Stella Arborescens )という当時の博物学名で特定しており、いまはそういう学名の生物はなく、クモヒトデ綱クモヒトデ目ということになる。さらにつきつめるとその生物は、旧定義の「Astrophyton 属」種だが、現定義だとテヅルモヅル属(Gorgonocephalus)属に分類し直されており、北欧で見つかるいずれかの種が該当する。 ローマ古典の「アルボル」(と「ロタ」が混合された8本足生物)は、タコ説が有力に見えるが、けっきょく司教はクモヒトデ説をより好んでいる、とベルナール・ユーヴェルマンスは解説する 。 そしてクモヒトデ説には、傍証材料がある。すなわちリンネ当が「メデューサの頭(caput medusæ)」種と呼ぶ「ヒトデ」は、クラーケンの幼生だ漁師たちのあいだに言い伝っていた。 そしてポントピダンは、当時の博物学者の鑑識眼にしたがい、「メデューサの頭」は、これが前述の「ステラ・アルボレセンス」と同一生物だ、と結論した。この「メデューサの頭」は、ノルウェーではごく頻繁に浜辺に打ちあげられる漂流物ということで、ドイツのフォン・ベルゲン(英語版)は、もしクラーケンんの子供というのが本当ならば、海はその怪物で溢れてしまう、と揶揄している。「メデューサの頭」もテヅルモヅル属説が提唱されている。テヅルモヅルは腕が分岐するクモヒトデでだが、現状はクモヒトデ目でなくカワテヅルモヅル目に分類される属である。腕には腕針がついている。 ポントピダンはいまいちど古代例を考査し「このクラーケもやはりポリュプス(蛸)の仲間に違いない」とも述べているが、その例は大プリニウス第9巻第30章から引いて「オザエナ」(ラテン語: ozaena)と呼んでいる巨大生物のことである。この「オザエナ」というのは、「臭いやつ」という程の意味のポリュプス(蛸)の異称で特に大型のものを指すわけでなく、大型例はカルテイア(英語版)の町の養魚池にやってきて、しばしば塩漬け魚を盗みにやってきたポリュプス(蛸)のことなのである。「そのすさまじい息で犬どもを苦しめ、こんどは、その触手の先端で鞭うったのであった」というくだりをラテン語で引用していることからそれは間違いない。 最後にポントピダンはポリュプス(タコ)や「ヒトデ類」は、総じてコルス・トロル(デンマーク語: kors-trold、'十字あやかし'の仲間で、「それらはかなり巨大なものもおり、... 海洋最大のものさえいるのだ」としている。この「コルス(十字)」というのは、それら生物の体の回転対称性への言及だと説明される。
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