出口のない貌・砦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/25 19:35 UTC 版)
「出口のない貌(かお)」は、大型ペン画。油彩・和紙・ベニヤ板。インク・コンテ・水彩。寸法は縦136センチメートル、横91センチメートル。山梨県立美術館所蔵。1959年(昭和34年)制作。 年代は1959年制作とされ、同年10月24日から新橋の画廊で開催された個展に際して発表されたものであると考えられており、個展では大型ペン画が複数出展されたという。2010年(平成22年)に山梨県立美術館で開催された「池田龍雄 アヴァンギャルドの軌跡」展に際して行われた古い額縁の取り替え作業において本紙とベニヤ板の間に張り込まれた新聞紙とクラフト紙が発見され、新聞紙の日付は1959年7月19日であることから、同日付以降に張り込み作業が行われたと考えられている。 「出口のない貌」は縦長の画面で頭部と思われる物体が描かれ、目・鼻や口の顔のパーツのほか、牙や管、穴と思われる造形も描かれている。池田は50年代から機械をモチーフにした作品を手がけており、「出口のない貌」とも共通することが指摘される。色彩は黒が主体であるが、油絵具を用いた赤や青、水色など複数の色を用いている。背景は和紙の地の色に、放射状に薄い青の線が無数に引かれている。 「出口のない貌」と共通する構図のデッサンとして「砦」がある。「砦」は同年制作で、寸法は縦29.7センチメートル、横23.5センチメートル。佐賀県立美術館所蔵。「出口のない貌」と同様に縦長の画面に円筒状の物体を描き、「出口のない貌」と異なり顔ではなく構造物を思わせるが、管状の突起など共通するモチーフが表現されている。 池田は前年の1958年にも「砦」と題した作品を制作している。和紙・インク。寸法は縦91.8センチメートル、横137.8センチメートル。佐賀県立美術館所蔵。こちらは「出口のない貌」「砦(1959年)」と異なり、横長の画面に描かれ、モチーフも異なる。画面下方に建物が圧縮されたような構造物を描き、その上に内蔵や筋肉、牙のような組織が表現された、不気味な生き物のようなモチーフが描かれ、砲口を思わせる管をぶら下げている。 池田は1958年の「砦」の制作背景について、50年代に議論された再軍備の問題を挙げている。1959年には首相・岸信介が日米安全保障条約の改定案を進め、これに対する反対運動として安保闘争が発生する。反戦・反共主義である池田もデモ行進に参加し、制作においても自らの思想を示していたという。「砦」は再軍備を進める日本を「砦」として描き、さらに同じテーマを発展させて化物のイメージへと展開させ、「出口のない貌」へ至ったと評されている。
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