免疫不全マウス開発の歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/18 00:53 UTC 版)
「ヒト化マウス」の記事における「免疫不全マウス開発の歴史」の解説
ヒトやマウスの免疫系は複雑であり、免疫に関わる細胞もしくは分子の主なものだけでもT細胞(Tリンパ球)、B細胞(Bリンパ球)、マクロファージや補体、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、白血球がある。それらは互いに連携・補足し合いながら、免疫系を構成している。 1962年、最初の免疫不全マウスであるヌードマウスが発見された。ヌードマウスは文字通り毛が生えないマウスであるが、ヌードマウスは胸腺を欠くことで成熟したT細胞がなく、免疫不全になる。ヌードマウスは一部のヒトの癌細胞が生着し、癌研究や抗がん剤の開発に役立った。しかし、ヌードマウスには成熟したT細胞以外の免疫細胞は存在し、多くのヒトの細胞は生着出来なかった」。その後いくつかの免疫不全マウスが発見されたが、1983年当時としては画期的なSCID(severe combined immunodeficiency 重症複合免疫不全)マウスが発見された。SCIDマウスはT細胞とB細胞を欠き、腎臓にヒト胎児の肝臓と胸腺を埋め込むことでマウスの体内でヒトのT細胞が現れた。しかし、ヒト胎児の細胞を使う倫理の問題と、ヒト細胞の生着の不安定さの問題があった。その後1985年NOD(nonobese diabetic 痩せ型糖尿病)マウスがNK細胞や補体・マクロファージの活性に劣ることが発見され、NODマウスとSCIDマウスを交配させた NOD-scidマウスが1995年に作られた。NOD-scidマウスはそれまでの免疫不全マウスよりヒト細胞の生着に優れ、ヒト胎児の肝臓と胸腺を用いずとも、ヒトの造血細胞がある程度生着し、このNOD-scidマウスを使って造血幹細胞や白血病細胞の研究が大いに進んだ。また1995年にはIL-2(インターロイキン)などのサイトカインシグナル欠損マウス(IL-2rγノックアウトマウス)が人工的に作られ、NOD-scidマウスとIL-2rγノックアウトマウスを交配させた2011年現在もっとも優れた超免疫不全マウスであるNOD/Shi-scid-IL2Rγnullマウス(NOGマウス)が2002年日本で開発されている。また、SCIDマウスとは違う系統であるが成熟したB細胞とT細胞が完全に欠損したRag欠損(Ragnull)マウスが1992年に発見され、Rag欠損(Ragnull)マウスとIL-2rγノックアウトマウスを交配させた系統の超免疫不全マウスの系統が2000年欧米で開発されている。SCIDマウスの系統は放射線に非常に弱く、Rag欠損(Ragnull)マウスの系統は比較的強いなど、超免疫不全マウスにも性質の違いがあり、研究目的・手法によってどのマウスがもっとも優れているかは変わってくる。 マウスの系列欠損する免疫系特徴ヌードマウス T細胞の欠損 文字とおり無毛 SCIDマウス T細胞、B細胞の2系統の欠損 放射線に弱い NODマウス 補体活性の減衰、マクロファージの機能不全 痩せ型糖尿病マウス IL-2rγノックアウトマウス NK細胞の欠損、樹状細胞の機能不全 Rag欠損(Ragnull)マウス T細胞、B細胞の2系統の欠損 これら免疫不全マウスの特徴を組み合わせ、より免疫不全であるマウスを開発していく。例えばSCIDマウスとNODマウス、IL-2rγノックアウトマウスを掛け合わせたNOD/Shi-scid-IL2Rγnullマウス(NOGマウス)はT,B,NK細胞が欠損し、補体、マクロファージ、樹状細胞がうまく働かない。NOGマウスはRag2null/IL2Rγnullマウスとならんで2011年現在もっとも優れたマウスの一つである。が、さらにヒトの細胞の生着にすぐれた品種の改良は続いている。
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