作田啓一とは? わかりやすく解説

作田啓一

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 21:42 UTC 版)

作田 啓一
作田啓一(2003年)
人物情報
生誕 1922年1月31日
日本 山口県山口市
死没 (2016-03-15) 2016年3月15日(94歳没)
国籍 日本
出身校 関西学院大学
京都帝国大学文学部哲学科
配偶者 折目博子
両親 父:作田荘一
学問
活動地域 京都府立大学
京都大学
甲南女子大学
研究分野 社会学ルソー研究等
特筆すべき概念 生成の社会学 溶解体験
主な業績日本社会学会会長
主要な作品 『恥の文化再考』(1967年)、『生成の社会学をめざしてーー価値観と性格』(1993年)他
学会 日本社会学会
主な受賞歴 第31回京都府文化賞特別功労賞
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作田 啓一(さくた けいいち、1922年1月31日 - 2016年3月15日[1])は、日本社会学者京都大学名誉教授。元日本社会学会会長。第31回(平成24年度)京都府文化賞特別功労賞。京都帝大教授・満州建国大学副総長だった経済学者作田荘一の長男。妻は作家の折目博子[2]

人物

山口県山口市に生まれる。関西学院大学卒、1948年(昭和23年)京都帝国大学文学部哲学科を卒業し、西京大学(現:京都府立大学)助教授を経て1959年(昭和34年)京都大学教養部助教授、1966年(昭和41年)教授。1985年定年退官、京都大学名誉教授となる。1985年から1995年まで甲南女子大学教授を務め、人間学としての社会学を追求した。

『恥の文化再考』『価値の社会学』

『恥の文化再考』(1967年)では、戦後の日本で広く受け容れられたルース・ベネディクトの「西欧社会は罪の文化、日本社会は恥の文化」という比較論に対し、稲作による地域共同体や幕藩体制以降の社会構造の特色から、日本人には外部の視線を気にする「恥」だけでなく、弱さの自覚から生まれる内面的な「羞恥」という特性があるとして、西欧的価値観に立った分析に反論し脚光を浴びた。一方、『価値の社会学』(1972年)では、人間の社会的行動は実利の次元だけでなく価値(理念)の次元においてもとらえうるとし、その後の社会学の方向を決定づけた。

ルソー研究から〈生成の社会学へ〉

京都大学人文科学研究所での「文学理論の研究」(桑原武夫班長)、「第二次ルソー研究」(同)、「プルードン研究」(河野健二班長)に参加、自らも「文学社会学研究会」を主宰し、「文学からの社会学」をめざした共同研究を進める。1980年発行の『ジャン‐ジャック・ルソー』では、自己の内面の探求を社会変革行動へと発展させたルソーの思想と行動を精神分析や行為理論から鋭く分析し、高い評価を得ている。また、近代小説から近代社会に生きる人間の行為や感情の深層を学ぼうとする立場を明確にし、文芸社会学/文学社会学の新しい道を開いた。

生成の社会学をめざして』(1993年)以降、「生成の社会学」ないしは「生成の人間学」を標榜する。集団組織に参加しようとする「社会我」、自己の現状を超えてゆこうとする「独立我」、自然や人間あるいは宗教・芸術・スポーツなどをつうじて外界に溶け込んでゆく「超個体我」という自我の3相から人間をとらえようとする試みは、社会我と独立我のみを扱うこれまでの人間研究の射程を広げる理論枠組を構成したものである。

同人誌『Becoming』

最近では特に、人間の生活には、活動する「昼(明・生)の世界」と休息する「夜(暗・死)の世界」の両面があるにもかかわらず、合理性で説明しうる昼の世界だけに研究対象を限定する従来の社会学の一面性には欠落があると指摘するとともに、生成の社会学のヴァリアントとして「夜の世界」を視野に入れた広義の社会学の可能性を提唱した。一例として、今日頻発している無差別殺人などについての考察が挙げられる。

1998年から、同人誌『Becoming』を年2回発行。ラカンレヴィナスデリダなど現代思想の成果を積極的に取り入れ、人間を深層から動かす非合理的な力や超個体性の次元をめぐって人間学的探求を深めた。また、専門分野を越え自由に議論する研究会(「分身の会」)を独自に続けた。社会学、哲学、文学、精神分析の諸分野にわたり、精力的に総合的な人間知を追求する氏が、学術の進展に果した功績は極めて顕著である(第31回京都府文化賞特別功労賞受賞における紹介文を参照)。

著書

単著

『Becoming]』(BC出版)所収論文

共著

  • (新堂粧子)「超近代の学をめざして」『ソシオロジ』62号(2016年10月)

共編著

訳書

  • T・パーソンズ, E・A・シルス編『行為の総合理論をめざして』(日評新社, 1960年)
  • エーリヒ・フロム『希望の革命――技術の人間化をめざして』(紀伊国屋書店,1969年)
  • F・L・K・シュー『比較文明社会論――クラン・カスト・クラブ・家元』(培風館, 1971年)
  • エーリヒ・フロム『破壊――人間性の解剖(上・下)』(紀伊國屋書店, 1975年)
  • ルソー社会契約論』(白水社, 「全集」1979年、新版2010年ほか)

作田啓一に関する研究

  • 織田年和「解説」作田啓一『増補 ルソー――市民と個人』(筑摩書房, 1992年
  • 小丸超「作田社会学研究序説――生成の社会学の生成過程」『龍谷大学大学院研究紀要 社会学・社会福祉学』13(2006年
  • 亀山佳明「真の自己と大他者 作田啓一『真の自己と大他者』」井上俊伊藤公雄編『社会学ベーシックス1 自己・他者・関係』(世界思想社, 2008年
  • 奥村隆「共同体の外に立つ—―『日本の社会学を英語で伝える』ことをめぐる試論」『社会学史研究』37号』(日本社会学史学会, 2015年
  • 佐藤裕亮「作田啓一における『羞恥』概念の検討――連帯のための切断へ」『立教比較文明学紀要』15(2015年),「作田啓一における“分裂”」『ソシオロジ』196号(2019年10月)
  • 岡崎宏樹「文学からの社会学――作田啓一の理論と方法」亀山佳明『記憶とリアルのゆくえ――文学社会学の試み』新曜社, 2016年
  • 奥村隆『作田啓一 vs. 見田宗介』弘文堂, 2016年):9編のうち作田を論じた論考は、奥村隆「作田啓一 vs.見田宗介――「日本の社会学」を研究する」、出口剛司「戦後社会の生成と価値の社会学――作田啓一における「近代の超克」とその社会学的展開」、片上平二郎「「移行期」の思想――作田啓一と見田宗介の「個人」への問い」、小形道正「事件を描くとき――〈外〉からの疎外と内なる〈外〉」、鈴木洋仁「作田啓一/見田宗介の初期著作における「価値」――「一九六〇年代の理論社会学」をめぐる知識社会学」、岡崎宏樹「〈リアル〉の探求――作田啓一の生成の思想」、奥村隆「反転と残余――ふたつの「自我の社会学におけるふたつのラディカリズム」。
  • 佐藤裕亮『作田啓一の文学/社会学――捨て犬たちの生、儚い希望』(晃洋書房,2022年)

出典

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